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第6話 雑貨

 昼食を終えると、先程の宣言通り雑貨屋に向かった。


 雑貨屋という事で、本当に色々な種類の物がある。食器、置物、バッグ、小物、眼鏡、アクセサリー等々……。若干、統一性なく雑多に置かれているように見えるが、これこそが雑貨屋の雑貨屋たる所以(ゆえん)――なのかもしれない。


「色々な物がありますね」


 まるでおもちゃ売り場に来た子供のように、目を輝かせる高梨さん。二軒目の服屋でも思ったが、庶民的なお店はやはり高梨さんの守備範囲外なのだろうか。


 高梨家、一体どんな名家なんだ。


 まぁ、それはおいおい知っていくとして、今は――


「適当に見てみようか」

「はい!」


 元気で力強い返事だった。


 その様はまるで激しくしっぽを振るワンコのようで、見ているこちらが自然と微笑(ほほえ)ましい気分になってくる。


 ――って、女の子を犬に見立てるなんて、僕はなんて失礼な事を。それに、高梨さんに付けてもらうなら犬耳より猫耳、そちらの方が彼女には絶対似合う。……いや、そういう話でもなかった。落ち着け。落ち着け、僕。深呼吸、まずは深呼吸だ。


「どうかしました?」

「え?」


 どうにか気持ちを落ち着けようと、心の中で深呼吸を繰り返していた僕の顔を、高梨さんが下から(のぞ)き込む。


 いきなり黙り込んだものだから、不審に思ったのだろう。


「いや、久しぶりに来たからその、(なつ)かしくて」

「そうなんですね。私は初めてなので、ちょっとワクワクしてます」


 気持ちが高揚(こうよう)しているためか、僕の訳の分からない言い訳を普通にスルーする高梨さん。


 ……深追いされなくて、ホント良かった。


「こっちから行こうか」

「はい」


 高梨さんを促し、僕達は左回りに店内を見て回る。


 見る物全てが新鮮と言わんばかりに、高梨さんは目に付く物のほとんどに「へー」とか「はー」とかの感嘆句を漏らしていた。


 楽しそうで、何よりだ。


「ペンダントなんかも売ってるんですね」


 店内の一角、アクセサリー等が陳列されている場所の前で高梨さんの足が止まった。


 お店の特徴なのか雑貨屋全体の特徴なのか、シンプルなデザインの物は少なく、少し変わったデザインの物が多い気がする。


「高梨さんはどういうのが好きなの?」

「私ですか? 私は……」


 体を前のめりにして、高梨さんがアクセサリーをぐるりと見渡す。


 その様子から察するに、こういう物に人並み以上の興味はあるようで、内心ほっとする。


 アクセサリーなんて全く興味ないというタイプだった場合、僕のプランは早くも崩壊し、早急に新たなプランの練り直しをしなければならないところだった。本当に良かった。


「これ、ですかね」


 そう言って高梨さんが指差したのは、クリスタル状の透明な飾りが付いたペンダントだった。


 その飾りには薄水色の氷の結晶のイラストが入っており、更に上部には白や水色の石やビーズが付いている。(ひも)の部分はチェーン状になっていて、全体的にクールな印象を受ける造りとなっていた。


「氷のペンダントか。高梨さんにぴったりだね」


 名前のせいもあるが、すらっとしたシルエットの彼女にはどこか水や氷といった涼しげで落ち着いた印象の物が似合う。


「本当ですか。私、氷好きなので、そう言ってもらえるととても嬉しいです」


 その言葉通り、高梨さんが本当に嬉しそうに笑う。


「氷が好きなのは、やっぱり名前に入ってるから?」

「うーん。多分?」

「多分なんだ」


 思いも寄らぬ返答に、僕は思わず苦笑を浮かべる。


「物心ついた頃にはもう好きだったので、理由はあまり……」

「なるほど」


 まぁ、幼少期に好きになった物の理由なんて、覚えてない事の方が多いか。僕もなんとなく迷ったら白や緑を選びがちだが、その理由を聞かれてもはっきりとは答えられない。それこそ、なんとなく、だ。


「高梨さんってイヤリングした事ある?」

「たまに。気分を上げたい時とかいい事があった時とか」

「へー」


 言いながら、僕の目線はある品物を(とら)えていた。


「これなんてどう?」


 そう言って、僕は手にした商品を高梨さんに見せる。


 それは、金色のチェーンに、白が入り混じった青くて丸いガラス玉が五つ、まるで花のように付いたイヤリングだった。


「わぁー。素敵です。色も形も何もかもが綺麗で……」

「じゃあ、これにしよう」

「え?」


 先程のペンダントと今見せたイヤリング、その二つと同じ物が入った箱を一個ずつ手に取る。


「プレゼント。さっきの服のお礼、みたいな?」

「そんな、悪いですよ」

「いらない?」

「……いらなくはないです」


 僕の意地悪な質問に対し、高梨さんはふてくされたような表情を浮かべ、顔を横に向けた。


 想像通りの反応だったとはいえ、その様子はあまりに可愛らしく、僕は笑いを堪えるのに必死だった。


「と、とにかく、買ってくるから。高梨さんは、引き続き店内を適当に見てて」

「はい……」


 まだ戸惑いの残る高梨さんと離れ、一人でレジに向かう。


 二つの商品の合計金額はひと月の小遣い並で、レジを通す前から分かっていたというのに、お金を払う時に少し動揺してしまったが、なんとか平静を装い会計を済ました。


 そして、プレゼント用にラッピングしてもらった二つの商品を受け取ると、僕は高梨さんの元に戻る。


「お待たせ。まだ見る?」

「いえ、大丈夫です」

「そう。なら、行こうか」


 高梨さんを促し、二人でお店を後にする。


 出入り口を少し避け、出入りの邪魔にならない所で、高梨さんに今買ったばかりの物を渡す。


「はい。プレゼント」

「ありがとうございます」


 商品の入った箱を受け取った高梨さんは、恐縮した様子ながらも嬉しそうで、その様子を見た僕は秘かに安堵(あんど)溜息(ためいき)を漏らした。


「大事にします」

「一生とは言わないけど、出来るだけ長く使ってくれると嬉しいかな」

「――いえ、一生大事にします」


 冗談めかしに言った僕の言葉に、高梨さんが若干食い気味にそう告げてくる。


「ありがとう」

「えへへ」


 箱を抱きかかえるように持つ高梨さんの顔は、まるでサンタが来た子供のようで、とても可愛らしかった。

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