05 EXTRA STAGE
05 EXTRA STAGE
煌めくスポットライト、鳴り響く音楽。そして、何万人もの歓声。様々なパワーが渦巻く武道館の中心で彼女は歌っていた。全ての音楽が、全ての歓声が、彼女へと集約する。
「ここは……」
間違いない。武道館だ。ステージで歌う芹歌の姿。一ヶ月前のコンサートと全く同じだ。
アップテンポな曲が終わり、照明が少し落ち着いたものに変わっていく。
それに合わせて歓声が少しずつ治まっていく。ただし、大声こそ上げていないが、決して観客の気持ちが下がってきたわけではない。次に始まる曲を予感した沸々と沸き起こる期待の空気が会場を包む。
ゆっくりと間を置いて、前奏が始まる。
「この曲は……」
BLUE ROSE。
この曲は結局生で最後まで聞けたことがない。自然と青いサイリウムを強く握りしめてしまう。
嫌でも鼓動が高まる。
頼む。何も起こらないでくれ!
BLUE ROSE
何も持たず
何も得られず
うずくまっていたあの日
たった一つ見つけた
それが、そう、歌うこと
たったそれだけ
でも、それだけで
世界は色を持つ
不可能を可能に変えて、咲き誇る
青い薔薇
奇跡の名前を持ち、咲き誇る
青い薔薇
連れて行って
奇跡の向こう側
そう、貴方と
貴方とならば
どこへだって
行ける
悲しみを分かち合い
喜びを分かち合い
この声に乗せて歌い続ける
絶望から産まれた、希望
青い薔薇
奇跡とは偶然ではなく、必然でもない
青い薔薇
分かってる
だから辿り着くまで歌うよ
積み重ねて強さになるから
強く咲き誇れ
奇跡の花
青い薔薇
「ここだ……」
丁度、ラストのサビの当たりで芹歌の身体が光ったはずだ。だが、オレの心配を他所に芹歌は素晴らしい歌声でサビも歌いあげる。
「あっあの、落ちましたよ」
呆然とステージを見つめるオレの袖を、小さな手が引っ張る。ふと見ると、小学生くらいの女の子だ。手に青いサイリウムを握り締めている。
「ん?」
袖を引っ張る少女に視線を向ける。
「お兄ちゃん、これ落ちたよ」
「ああ、ありがとう」
自然と笑みが溢れる。そんなオレに応えるように少女も微笑んだ。
*
コンサートは何事も無く終わったが、オレは眠ることが出来なかった。コンサート翌日に芹歌は電撃引退したんだ。優樹と翔太が文句をいうのも無視して、夜中じゅうテレビを見ていたが、朝になっても芹歌の引退報道はされなかった。
「あれ? 颯人、机にあるのって芹歌ちゃんグッズか?」
翌朝、オレの飾ったコレクションを目ざとく翔太が指差した。
「ああ、超ファンだからな」
オレは胸を張って答える。その姿に優樹が切れ長の目を見開く。
「颯人、カミングアウトですか?」
「ああ、本人にもファンだって宣言したしな。隠すのはもう卒業だ」
「「???」」
優樹も翔太も不思議そうな顔をしていたが、それ以上説明はしなかった。上手く説明できる自信もなかったし、そのままいつものバカ話を始めた。
眠い目を擦りながら教室に入ると、全然知らない女教師がオレを出迎えた。
「一刻君、桜井君、向井田君、遅いですよ?」
「えっと~」
あれ? こんな教師いたっけな?
「せんせー、まだ本鈴鳴ってないからセーフだよ~」
「すみません。すぐ号令かけます」
でも、疑問に思っているのはオレだけみたいだ。他のクラスメイトたちは何の疑問もなくその女教師に挨拶をしている。
「あれ? 今日、美空は休みなのか?」
美空の席が空いていたので、優樹に尋ねるが、不思議そうな顔で首を傾げる。
「えっと、すみません、誰ですか?」
「えっ……」
仁夜と美空は居ないことになっていた。
芹歌の引退がなくなり、未来人たちの痕跡も消えた。確実に歴史が変わり始めた。だけど、それを認識しているのは、世界中でオレだけなのかもしれない。ブラウン管で見る芹歌はキラキラしてて、やっぱりそっち側が似合うと思う反面、以前と変わらず仕事をこなす芹歌を見て、きっと記憶は引き継げなかったんだと諦めるようになっていた。
そして、残暑を超えてすっかり秋らしい陽気になった頃。
オレは、どうにか新しい世界に慣れ始めていた。
優樹と翔太といつもの三人組で図書館に続く渡り廊下を歩いていると、向こうから初等部の制服に身を包む小さな女の子が、本を沢山抱えてヨタヨタと歩いているのが見えた。
「はぅっ!」
丁度オレたちとすれ違うところで本がバラバラと落ちてしまう。
「ああ、大丈夫ですか?」
優樹が素早く本を拾い集め微笑みかける。オレも少し遅れて本を拾い少女に渡そうとしたところで、息を呑んでしまった。
「美空?」
「ふぇ? わたし、美魚だよ」
少女はきょとんとした顔を向けてくる。確かに、美空よりかなり幼いが、恐ろしいほどそっくりだ。
「美魚ちゃんは、時間旅行ものが好きなんですか?」
優樹が少女と目線を合わせると、少女は嬉しそうに本を受け取る。
「うん」
「いい趣味ですね。颯人もたまには読書でもしたらどうですか?」
優樹の提案に思わず苦笑いしてしまう。
「いや、時間旅行はもうたくさんだ」
*
細々した事件はあるものの、至って平穏な毎日が流れていった。そして、何事も無く文化祭が行われた。オレたちのクラスはフリーマーケットを行った。凄まじく繁盛したわけではないが、まぁまぁ盛り上がった。
そう、十一月一一日に何も起こらなかった。
そして、翌十一月一二日月曜日。オレにとっては初めての十一月一二日だ。運命の文化祭の日にも何も起こらなかったので、やっと肩の荷が下りた気がする。文化祭直後で疲れていることもあり、机に突っ伏していると、仁夜とは比べ物にならない颯爽とした足取りで担任が入ってきた。
「一刻君、起きなさい」
「ふぁぁい」
あくびと返事を一度に済ませると、担任が呆れたように溜息を吐く。
「全く……。えー、今日は転校生を紹介します。入りなさい」
扉が開いて、現れた人間を認識すると、教室中の空気が凍りついた。だが、オレより驚いた奴は居ないだろう。
亜麻色の髪
意志の強そうな瞳
さくらんぼ色の唇
そう、見間違えるはずがない。
「芹歌!? なっ、なんで!?」
「うわぁ、颯人、いきなり呼び捨てはマズイって」
飛び上がって驚くオレの袖を翔太がそっと引っ張る。
「なんか、十一月一一日過ぎたから伸び伸びしてたら、能力検査に引っかかっちゃった。でも、今回は青い薔薇って完全に認定されたわけじゃないから、仮入学。芸能活動も少し減らすけどそのまま出来ることになったわ」
「え? お前……記憶が……」
「あたし、颯人が連絡してくれるのずっと待ってたのよ」
「どうやって連絡すればいいんだよ?」
「ファンレター出してくれれば良かったじゃない」
「うっ……」
確かに、言うとおりだけど、時間跳躍のことを覚えてるかどうかもわからないのに、手紙なんか出せないだろう。芹歌もそれはわかっているのだろう、軽く溜息を挟んで続ける。
「でも、あの十一月一一日に接触するのがマズイかと思って我慢してたんだからね。ホントに……」
芹歌は一瞬下を向いて涙を拭うと、クラスメイトたちの座席を一気に駆け抜けて、立ったまま呆然としているオレに飛びついてきた。
「うわっ!」
「今度こそずっと一緒にいようね。明日も、明後日も!」
涙声の芹歌の背中をそっと抱き締める。暖かさに確かに間違いなく芹歌が居ると感じることが出来た。
「……ああ。こんな結末なら認めてもいいな」
【END】
ここまで読んでくださって、どうもありがとうございました。
この話が現在完成している中で一番新しいものになります。
書いているときは、日付ごとに付箋で起こる出来事を管理して作っていました。
他の話とはその辺が違って、なかなか大変だったけど、面白い試みでした。
さてさて、もう作品ストックが無くなってしまいましたが、今度は地道に書いたものを都度更新していこうかなと思っています。
育児と仕事と家事(大変順)で、てんてこ舞いなので、なかなかハイペースでの更新は難しいと思いますので、マイペースにやっていきたいと思います。
告知は活動報告や、ツイッターでします。
@rane_kanna
それでは、改めまして、読んでくださって本当にありがとうございました!!




