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ファイナル・コンティニュー  作者: かんな らね
15/18

04 FINAL CONTINUE(その2)

 屋上にはオレと芹歌の二人だけになってしまった。

「あっ、強く握りすぎた。ワリィ」

 いつの間にか芹歌の手を強く握りしめていた。慌てて手を離す。

「あ、ううん。大丈夫。それより、青い薔薇の花言葉だけど、あたし多分正解を知ってるわ」

「そうなのか?」

「うん、青い薔薇の花言葉は、“不可能”“有り得ない”とか、色んなのがあるんだけど、きっと仁夜先生が知った花言葉は……“奇跡”」

 一体、仁夜はどれだけ時間跳躍を繰り返してきたんだろう。どれだけ、運命に抗って来たんだろう。

 そんな風に考えていたら、視界の端に青い光が入ってきた。眩しくて思わず目を細める。一瞬、芹歌が光ったのかと思ったが、そうではなかった。

「前夜祭が始まったのね」

 屋上からは校庭がよく見える。様々な色の光がすっかり日の沈んだ空へ放たれる。光系能力者たちの仕業だろう。A組の奴らもたまには面白いことをするじゃないか。赤、青、緑の光が様々な動きをする。その光がオレたちの居る屋上を掠める。一つの光だけでも結構眩しいが、不意に三つの光がオレたちの目の前で交差した。

「え?」

 その光の様子に思わず声が漏れる。

「颯人、どうしたの?」

 芹歌が心配そうにオレを覗きこむ。

「今、光が交差したとこ見たか? 三色の光が重なったら普通の透明な光になったぞ」

「……颯人、アンタねぇ、ちょっとは勉強しなさいよ。光の三原色って習ったでしょ?」

「何だそれ?」

「あのねぇ、普通の色……そうね、絵の具とかは重ねれば重ねるほど暗い色になるでしょ? 光は色を重ねれば重ねるほど色が無くなっていくのよ」

「ああ、だから普通の電気みたいな光になったのか」

「光は面白いわよね。あたしも中学の頃ちょっとハマって色々調べたものだわ」

「お前って、本当は根暗なのか?」

「うるさいわねぇ! 勉強が好きなのよ。アンタも少しは見習いなさいよ」

「いやぁ、無理だ。勉強の方がオレを拒絶しているとしか思えない」

「全く……。でも、光は面白いわよ。例えば虹だって光の屈折で七色に見えてるのよ」

「屈折?」

「う~ん、光の曲がり方よ。それであたしたちに見える色が決まってくるの。結局あたしたちの瞳には跳ね返った色だけが見えるわけよ」

 芹歌が楽しそうに話をするが、急に心臓が大きな音を立てた。

 何だ?

 え?

 何か考えがまとまらないけど、漠然とした不安が溢れる。

「……じゃあ、光の屈折加減によっては透明に見えるってことなのか?」

 漠然した不安を振り払ってもらいたくて確認するが、芹歌はあっさりと首を縦に振った。

「そうね。そういう研究もされているみたいだし、理屈上可能なはずよ。何よ、結構わかってるんじゃない……って、颯人!?」

 突然倒れそうになるオレを芹歌が華奢な腕で支える。だけど、かなりの体格差。二人でズルズルとその場に座り込む形になる。

「……芹歌」

「急にどうしたのよ? 顔が真っ青よ」

「……分かったんだ」

「何が?」

「……オレたちをこんな目に遭わせた奴が誰なのか……分かった」

「ホントなの?」

「ああ、だから芹歌の次に翔太がよく殺されてたんだ。アイツの能力が邪魔だったから」

「犬の鼻が?」

「そうだ。だから、翔太が生きている時は遠距離での犯行だったんだ」

 そこまで言うと、芹歌も何かに気づいたようにはっと口を開く。

「え? ちょっと待ってよ。それってまさか……」

「オレだって違えばいいと思うけど、あまりにも条件が当てはまりすぎている」

「どうして……そんな……」

 芹歌がアーモンド型のキラキラ輝く瞳から大粒の涙をボロボロと零す。

「芹歌……うわっ!」

 涙を流す芹歌を落ち着かせようと、立ち上がって、まだ蕾の青い薔薇に手をかけようとしたら、急に芹歌が飛びついてきた。

「何だよ、急に?」

「今から捕まえるの?」

「まだ何もしていないんだ。とぼけられるのがオチだし、オレたちには今すぐ犯人を証明する術はない」

「明日、決着をつけるしか無いのよね?」

「ああ、仁夜も言っていたが、もうお前の能力も残ってないし、明日がラストチャンスだ」

「……もう、何度も死んだけど、明日が最後だって分かると凄く怖いわ……」

「死なせないさ、絶対」

「颯人も死んじゃダメなんだからね。まだ、ファンだって認めさせてないのに……」

「ファンだよ」

 芹歌の声に被せるように肯定する。

「え?」

「デビューした時からずっとファンだった。CDも全部持ってるし、あの武道館のコンサートにも行った。しかも、前から三列目だ」

「……何でよ」

 折角ちゃんと認めたのに、また芹歌が泣き始める。

「ちょっ、何で泣くんだよ!?」

「何で今、認めちゃうのよ!? 明日、無事にライブが終わってから言わせようと思ったのに」

「知るかよ! いいから泣き止め」

「……じゃあ、ちゃんと約束して」

「分かった。今度こそちゃんと月曜日を迎えよう」

「台詞にセンスが無いわね」

「うるせぇ。じゃあ、なんて言えばいいんだよ?」

 そう言うと、芹歌は急に顔を真っ赤にしてしまう。

「……べっ、別に言葉である必要は無いわ」

「ん? 指切りか?」

「違うわよ! もぅ、言わせないでよ!」

「マジで分からん」

 オレが腕を組むと芹歌はますます顔を真っ赤にして、言いづらそうに口を開く。

「あっ、あたし、あの時、血の味がしたことしか覚えてないのよ? だから……」

 しどろもどろ言葉を紡ぐ芹歌の唇をそっと塞ぐ。芹歌は驚いたようにただでさえ大きな瞳を見開く。ほんの数秒で唇を離す。

「分かってる。オレだってそこまで鈍感じゃない」

「だったら、言わせないでよ」

 ヘナヘナと脱力する芹歌の腰を慌てて抱える。うわっ、恐ろしいほど細いな。

「だって、お前のほうが慌てるなんて珍しいだろ?」

「アンタ、最悪よ」

「そんな最悪な奴にキスして貰いたかったのか?」

「急に勝ち誇った顔して、ホントムカツクわ。罰としてもう一回しなさいよ。今度はもっと心をこめて。あと、アンタいつもの不機嫌そうな顔より今の顔のほうが良いわ。今度からなるべく今みたいな顔でいなさい」

「どんな顔だよ?」

「鏡見る?」

「いや……」

 多分、この状況を鏡で見たら恥ずかしくて死ねる。

「それで、結局どうするの? 返事は?」

「はいはい」

「返事は一回」

「先生かよ?」

「多分、アンタよりは向いてるわね」

 限りなく距離をゼロにするオレたちの傍を、色とりどりの光が照らし続けていた。



「昨日の晩御飯の話だが」

 やっぱり仁夜の昨日の晩御飯トークで運命の十一月一一日もいつも通り始まった。もう何度も聞いた話だ。知ってる。シューマイ食べて、粉がらしを使ったらすっげー辛かったんだろ? 流石に聞き飽きたので、ダルそうな顔をしていたら、仁夜が一瞬微笑んだ。また瓶底眼鏡をかけているから、表情はしっかり確認できなかったけど、確かに微笑んだ。

「今日はなしだ」

「え?」

 今までと違う?

 僅かに教室がざわつく。

「今日はみんなに言いたいことがある。今日は文化祭だ。各自精一杯取り組むように。別に頑張ろうが頑張らなかろうが変わんないとか思ってる奴も居るかもしれないが、結果っていうのはお前たちの行いの上に成り立ってるんだ。決まったものなんて何もない。……以上だ」

『仁夜先生どうしたんだ?』

『今日は熱血モードだな』

 クラスメイトたちは異色のホームルームについて語り合っているが、オレはそっと芹歌に目を向ける。芹歌も仁夜のメッセージを受け取ったとばかりに強く頷いた。

 絶対にこれで終わらせてやる。


「優樹、翔太、美空もちょっと顔を貸してくれ」

 ホームルームが終わったところで、三人に声をかける。三人とも用事は察しが付くらしく、そのまま直ぐに屋上へ向かう。

「あたしは後から行くわ」

 芹歌はバンドメンバーと少し打ち合わせが有るといって教室に残った。


 屋上の風は少しずつ冷たくなってきた。もうすぐ冬になることを感じさせる。でも、今日を乗り越えないことには、冬どころか月曜日だって来やしない。五分ほどで芹歌も大きな紙袋を抱えて屋上へ上がってきた。

「今回の作戦を考えた。翔太、お前は芹歌の香水の匂いを覚えてるよな」

「ああ、アンナスイのシークレットドリームだろ?」

 そこで翔太が集中のために瞳を閉じる。

「……今日はまだ付けてないみたいだけど」

「後でつけるわ」

 芹歌が短く答える。

「今日のステージで芹歌の匂い以外を感じたらオレに知らせろ」

「は? だって、普通にバンドメンバーとか居るだろ?」

「バンドメンバーには芹歌からおんなじ香水を使うように頼んでもらった」

「ええ。さっきの打ち合わせの時にこれをつけてもらったわ」

 そう言って、小さな化粧ポーチから黄緑色の液体が入った小瓶を出す。

「はぅぅ。綺麗な色~」

 やっぱり女子は香水とか大好きみたいで、美空は興味津々に香水瓶を覗きこむ。

「つけてみる?」

「え? 悪いよぅ」

「いいのいいの。本当は大瓶で買ってて、これに移し替えてるだけだから。ほら」

 遠慮する美空に近づいて軽く香水を噴きかけると

「あっ」

 噴き出し口がズレていたらしく、直ぐ傍にいた優樹にかかってしまう。

「あっ……ゴメンネ」

「大丈夫ですよ」

「じゃあ、折角だから美空ちゃんもお揃いね」

 今度は噴き出し口を確認して美空に噴きかける。

「で、颯人は犯人が姿を消せると思っているんですか?」

 一番最初にオレの真意を察したのはやはり優樹だった。

「そうだ。芹歌の能力をオレに移したくて殺しているんだとしたら、どうしてあんな高確率で翔太も殺されるのかを考えてみた。で、結局翔太の能力が邪魔なんじゃないかという結論に至ったんだ」

「なるほど、確かに今まで聞いた話しを総合すると、翔太が生きてて芹歌さんの至近距離に居る時はにいる時は、必ず遠距離か間接的な方法で殺されていますね」

「そうなんだよ。だから、今回はそれを逆手に取る。まず、優樹は体育館二階で見張りだ。あと、時間がないから出来る限りでいいが、遠距離の場合は体育館二階から銃撃されている可能性が高い。だから、犯人が射撃できないように必要最低限な場所以外は舞台が見えないようにバリケードを張ってくれ」

「構いませんが、照明係の美空さんにやっていただいた方が、配置的に自然だと思いますが」

「今からバリケード張るなんて大仕事の指揮を美空が取れるわけ無いだろ。優樹が照明係を代わったことにすれば、クラスのやつも納得するし、作業もしやすいだろ」

「ふぇぇ。じゃあじゃあ、わたしはぁ?」

「ん? 美空は体育館出入口にあるエアコンを見張っててくれ」

「エアコン? どうしてぇ?」

「三回目の文化祭では何者かが体育館の温度を上げていたんだ。それで、芹歌の喉が凄く乾いて水を飲んだらなかに毒物が入っていて殺された。今回はもちろん、オレが用意してこうして肌身離さず持ち歩いているお茶しか飲ませないが、念の為だ。それから、もし不審者を見つけたら直ぐにオレたちを呼べ」

「わっ分かった。わたし頑張るよぅ!」

 美空のフワフワツインテールがピョコピョコ揺れる。

「それで、翔太は舞台袖だ」

「でも、俺が舞台袖にいたら犯人は他の方法を探すんじゃないか?」

「そう言ったって、お前そんなに遠距離の匂い、分かんないだろ? 舞台袖に居るしか無いだろうが」

「まぁ、そうだけどさ」

「それに、犯人にお前が舞台袖に居るってバレなきゃいいんだ」

「は?」

「芹歌、持ってきたか?」

「うん。演劇部に丁度いいのがあったから、今朝早くにサインと引換で借りてきたわ」

 満面の笑みで芹歌は持っていた紙袋を翔太に差し出す。

「え? なになに? 芹歌ちゃんがオレにプレゼント……って、なんじゃこりゃー!」

 翔太は紙袋から取り出した女子制服と三つ編みウィッグを抱えて悲鳴を上げる。

「女子用の制服とウィッグですね」

「優樹、俺だってこれが何かぐらい分かってる」

「いやいや、失礼。成程、翔太を女装させて舞台袖に居るって犯人に分からないようにするんですね?」

 オレは大きく頷いてから翔太の肩を強く掴む。

「そうだ。翔太の身長なら背の高い女子で済むだろうし、何か分からんが、お前女子から可愛いって言われてるだろ? 少なくともオレや優樹よりはその女子制服が似合うはずだ。自信を持て」

「持てるか~!」

「ほら、前髪が長めのウィッグにしたから、あんまり顔は分からないから。ね?」

「うぅぅぅ。芹歌ちゃんまで~」

「とにかく着てもらわなきゃ困るぞ。何つっても、今回の作戦のキーマンは翔太、お前なんだからな」

「マジかよ?」

「ああ、大マジだ。体育館二階は優樹がバリケードを張った上に見張っている。毒殺とか考えても美空がエアコンを見張っているし、何よりオレが持っているものしか飲ませない。客席からの銃撃も考えたが、凄まじい混雑で、みんなが飛んだり跳ねたりしている中では困難だろう。だったら、犯人は接近して来るはずだ。しかも、犯人からすれば忌々しい翔太は舞台袖に見当たらないわけだ。本当は女装してその場に居るとも知らずに犯人は舞台に上がって最初の文化祭の時みたいに芹歌を接近で殺そうとするだろう。でも、翔太は芹歌の匂い以外が舞台に上がったって分かる。これで現行犯逮捕だ。全てはお前の鼻にかかってる!」

「そうと決まれば早速作戦開始ですね。時間も無いですし、僕は直ぐに照明係のところで作業を始めましょう」

「おう、頼むぞ。……そうだ、美空も引き継ぎとかあるだろ? 一緒に行ってやってくれ」

「うっ、うん」

 バタバタと二人が屋上から駆け下りていく。二人を見送ると翔太が直ぐに口を開いた。

「ってか、俺らもそろそろ降りるか? サボってると思われちゃうぜ」

「そうだな。あっ、芹歌。今のうちに香水付けておけよ」

「そうね」

 芹歌が慣れた手つきで香水を手首に吹きかけ、耳の後ろにも手首を擦り付ける。

「え? 芹歌ちゃん?」

「翔太くん、あたしの匂い以外があったら、ちゃんと犯人を捕まえてね」

 目を見開く翔太に芹歌は微笑んでみせた。


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