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ファイナル・コンティニュー  作者: かんな らね
12/18

03 COUNT DOWN(その4)


 目を開けると、屋上にいた。目の前には心配そうにオレと芹歌を見つめる優樹と翔太と美空の姿。オレはパックジュースを芹歌に手渡しているところだった。

「今日は、十一月八日木曜日か?」

「そうですけど……颯人、君たちまさか……」

「ああそうだ。時間跳躍してきた。今、お前たちが話し合っていた文化祭当日の寮ごもり計画は失敗した」

「……詳しく話してください」

 オレは自分の見た光景をそのまま話した。芹歌はオレの話が一通り終わってから、口を開いた。

「あたしも、よく分からないの。颯人たちが部屋から出ていって少ししたら、入り口のドアが開いたの。で、颯人たちが戻ってきたのかと思って振り向いた時には、喉を大きく切られたの」

「犯人は見なかったのか?」

「それが……全然見てないの。でも、とにかく鍵をかけないとって思って、何とか鍵をかけたところからはもう殆ど記憶が無いわ」

「じゃあ、美空ちゃんは犯人が部屋から逃亡したところ鉢合わせになって刺されたのか?」

「どういうことだ? 翔太?」

「だって、颯人の話だとナイフは美空ちゃんに刺さってたんだろ? だったら、その順番でしか出来ないじゃん」

 いつも飲んでるパックジュースを飲みながら、当たり前だとばかりに翔太が説明する。

「確かに、翔太の言うとおりですね。珍しく冴えてますね」

 優樹も納得したとばかりに頷く。

「珍しいは余計だ」

「それはそうと、能力発動時、青く光るのは芹歌さんだけなんですね」

 優樹が顎に手を当てる。

「ああ、そうなんだよ。オレもそれは不思議だった」

「多分、芹歌さんは能力発動時に身体が光る体質なんでしょう。確か、ライブの時も光ったと仰っていましたし。それが原因で能力者と判明してしまったようですし。まぁ、能力発動時に身体に変化が出ること自体は稀ですが、確認されていることですし、そこはそんなに心配しなくて大丈夫ですよ」

「ほんと、我ながら不便な体質ね。そもそも、このせいで引退させられたわけだし」

 芹歌が溜息を付く。

「あと話が変わりますが、これで四回目なんですよね?」

「ああ」

「では間違いなく、芹歌さんの時間跳躍は繰り返すごとに弱くなっています」

「それはあたしも薄々感じでいたわ。時間跳躍を繰り返す度に、戻れる時間が一日ずつ減っている」

「そうです。これは僕の仮説に過ぎませんが、恐らく芹歌さんは、本当なら完全な記憶の継承はできないけど、約一ヶ月時間跳躍が出来ていたのでしょう。しかし、颯人の能力強化を得て、記憶が継承出来るようになった。その代わり、芹歌さんの能力に凄く負担がかかっているのでしょう」

「だから、戻れる間隔が短くなり続けているのか」

「この調子で時間が短くなり続けると、あと数回しか時間跳躍出来ないでしょう」

 今日は木曜日ということは、金・土・日。あと三日しか無い。一日ずつ短くなっているということは、時間跳躍出来るのもあと二回程度というわけか。

「優樹……」

「それともう一つ気になっていたことです。毎回必ず十一月一一日日曜日に芹歌さんが殺されるという事実です。これを僕なりに調べてみましたが、その日は蒼の満月の日です」

「蒼の満月?」

 聞きなれない単語に芹歌が首を傾げる。

「ああ、芹歌さんには耳慣れない言葉ですよね。まず、僕たち青い薔薇の能力は月の満ち欠けに左右されやすいんですよ。満月の日が一番力を出しやすい。そして、稀に現れる蒼い満月は更にそれを増幅させる」

「でも、蒼い満月って年に何回かは起こるものなの?」

「いえ、そんなにしょっちゅうじゃないですが、数年に一回は起きますよ。だから、それだけじゃ理由が弱い気がするんです。学園でライブをしようが、やめようが、必ず芹歌さんは殺されています。つまり、ただの蒼の満月じゃなくてその日じゃなきゃいけない理由があると思うんです」

「そうだな。別にいつでもいいなら、もっと目立たずに殺せる時を狙えばいい」

 オレは大きく頷く。

「十一月一一日。蒼の満月であり、ゾロ目の日付というのも研究途中ではあるけれど、能力を強化するパワーを秘めているらしいです。古代より暦には魔力が宿っていると言われていますからね」

「……あと一応、オレの誕生日だったりするけど、そんなのって関係ないよな?」

 オレの言葉に、優樹が切れ長の瞳を見開く。

「あっ! 颯人の誕生日。そういえばそうでしたね。うっかり失念していました」

「いや、男同士で誕生日チェックなんて悲しいから、失念してくれてて全然オッケーなんだけど……」

「いえ、この場合は完全な失念です。誕生日。産まれた日というのは魔力が満ち易いのです。なるほど、十一月一一日には能力が高まる様々な要素が溢れている。……もしかして、芹歌さんの誕生日も同じ日だったりしますか?」

 半ば興奮する優樹の問いかけに、芹歌が静かに首を横に振る。

「芹歌の誕生日は十一月一五日だったはずだ」

「流石颯人、詳しいですね」

「うっ……」

 しまった。ファンとして条件反射で答えてしまった。でも、芹歌はいつもの様に絡んでこない。静かにもう一度首を横に振る。

「……それも多分違うの」

「え? どういうことだよ? だって公式データでは……」

 言いかけたが、芹歌が言葉を被せる。

「あたし、拾われっ子なの。だから、十一月一五日はあたしが拾われた日なの。生後数日だったんじゃないかと言われているわ」

「拾われっ子って!? お前、公式だと帰国子女ってなってたじゃないか」

 思わず大きな声を出してしまう。

「ほんと、詳しいわね。それって初期に公表していたプロフィールでしょ。最近はその辺のこと全部伏せてるもの。あっ、因みに帰国子女って肩書きのためにデビュー直前に歌のレッスンも兼ねて短期留学させられたの。本当は、みんなが聞いたことのないような物凄く小さな街で育ったのよ。そこには身寄りのない子供たちが暮らす小さな施設があって、そこでデビューするまで暮らしていたわ」

「僕や颯人や翔太は身内に青い薔薇が居るから、あっさりとこの学園に入学してしまったけど、一般人の家庭で突如青い薔薇が産まれる場合もある。不思議な能力があるとわかると、それを恐れて子供を手放してしまう場合もあるんですよ。この学園では両親の顔を知らない人は少なくありません」

「そうね。もしかしたら、産まれて直ぐに身体が青く光ったのかもしれないわね」

 何だかショックで上手く言葉が出ない。別に芹歌が拾われっ子だろうが、なんだろうが、芹歌は芹歌なんだけど、あの文化祭前にみんなが盛り上がる中、寂しそうにしていた彼女の顔を思い出してしまった。

「ちょっと、みんなそんな気まずそうな顔しないでよ。施設でも結構楽しくやってたんだから」

 芹歌が何でもないというふうに笑う。それが半ば強がりなのは表情から伝わったけど、その強がりに乗っかり話を変えて続けることにした。

「じゃあ、芹歌も十一月一一日生まれだった可能性は……」

「……高いですね。非常に。ああ、だから二人の波長が合うのかも知れませんね。蒼い満月、ゾロ目の日付。更に二人の誕生日。これだけの条件はそうそう揃うものではありませんね。犯人はきっと目的があってこの日を狙っているのでしょう」

 優樹の鋭い視線に、他の四人は同時に息を呑む。まず口を開いたのは芹歌だった。

「あたしと颯人の能力が最も高まる日。目的はあたしを殺して時間跳躍させるのか、それとも……」

「それともなんだよ?」

 嫌な予感がして思わずキツイ口調で芹歌を問い詰めてしまう。

「あたしを殺して、颯人のもう一つの能力、能力搾取で搾取させて利用したいのかも。颯人があたしの能力を搾取すれば、もっと自由に能力強化して時間跳躍出来るようになるでしょ? それを望んでいる人が犯人なのかもしれないわ」

「何だよそれ? そんなことして何になるんだよ?」

「それは、あたしにも分からないわ。でも、あたしは颯人に能力を継承させたがっているんじゃないかと思ってる」

「オレは、そんな……」

「分かってる。颯人がそれを望んでいるわけじゃないわよ。でも、きっと誰かが望んでいるんだわ」

 芹歌の確信めいた言葉に、それ以上反論できなくなる。そんなオレに変わって、翔太が口を開く。

「颯人の能力搾取は死んでから時間が経つと使えないんだよな?」

「あっ……ああ。前に遠い親戚が亡くなった時に親父に言われて試してみたけど、亡くなって暫く経っていたから、何の能力も受け継げなかった」

「でも、芹歌ちゃんが生きてる間だと、能力強化しちゃうんだよな」

「そうだな」

「死んだ直後に能力搾取させたいんだろうなぁ……。あ~、何か頭使いすぎて熱っぽくなってきた~!」

 珍しくまともなことを言った翔太が頭を掻き毟り始める。

「はぅぅ。でもでも、ライブをしてもしなくても、芹歌ちゃんは殺されちゃうんでしょう?」

 美空も不安げにまん丸い瞳を潤ませる。

「そうだな。ライブを中止しても結局ダメだった」

「学校にいるのがいけないのかなぁ?」

「ん? 美空、どういうことだ?」

「だってぇ、毎回学校で殺されちゃってるんでしょう?」

「美空はこの学園のせいだっていうのか?」

「う~ん、それは分からないけどぉ、学校にいなきゃ、犯人も狙うのが大変なんじゃないかなぁ?」

 美空の言葉にオレと芹歌は視線を交差させる。

「試してみる価値はあるかもな」



 文化祭当日。

 オレたち五人は学校を抜け出していた。学園の出入りは許可制だが、元々危険度の低いC組のオレたちは許可が降りやすい。それに、今は文化祭期間中。緊急で材料の調達が必要だとか上手いこと言ってあっさり外に出ることが出来た。

 身を潜めながら街を駆け抜けている間にいつの間にか夕刻になっていた。

「この大通りを渡れば、僕の実家があります。ひとまずそこへ避難しましょう」

 蒼原館学園の制服は目立ちすぎる。公園でそれぞれ私服には着替えたが、超有名人の芹歌はいくらサングラスをかけていても芸能人オーラが半端ない。オレたちはなるべく目立たないようにちょっとずつ学園を離れた。しかし、目立たないように行動するというのはかなり骨が折れる。夕方になるころにはすっかりオレたちは疲れきっていた。先頭を優樹とオレ。その後ろを翔太が走り、芹歌と美空がそれに続く。いつの間にか足の早い順になっていた。

 先頭を走っていたオレと優樹が道路を渡りきったところで信号が点滅し、翔太が渡っている途中で赤に変わってしまった。

 道路の向こうには芹歌の姿。美空はそんな芹歌より更に遅れているのだろう。まだ姿が見えない。

「ちょっと早く走りすぎましたね」

「信号が変わったら、美空も探さないとな。まだそこの角を曲がってきてないみたいだし」

「俺が走って行ってくるぞ」

 休日の夕方の割に往来が激しい道路を見つめながら三人で話していると、

「え?」

 まず自分の目を疑った。

 急に芹歌が凄いスピードで自動車が行き来する道路に飛び出した。

――キキーッ

 トラックの大きなブレーキ音と衝突音が響く。

「芹歌!」

「颯人! 君まではねられますよ!」

 道路に飛び出そうとするオレの肩を優樹が掴む。程なくして、事故に気づいた他の車もその場で停止し始めた。丁度信号も青に変わったので、オレたちは芹歌の元へ駆け寄る。

「芹歌ー!」

 うつ伏せで倒れているが、身体の損傷が激しいことは一目で分かった。即死かもしれない。芹歌の背中に縋り付いて涙を流す。

「颯人! 芹歌ちゃん、光ってる!」

 翔太の叫び声で我に返り、芹歌の背中を見つめる。その身体が僅かに輝いている。

「颯人、芹歌さんの光が弱まっています。早く!」

「畜生、何で……何でだよ。何で芹歌が必ず死ななきゃいけないんだよ! こんな結末は絶対認めない!」

 血塗れになりながらも青く光る芹歌を抱きしめると、世界は暗転した。


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