最終話 とある高校生たちのおはなし
今話のみ、前話までと比べて数倍の文章量になっています(苦笑)
──2035年、日本──
○○県に校舎を構える、天華女子高等学校。
ここは所謂お嬢様学校で、私は2年生の鷲ノ宮 瑠璃。
私にはどうやら前世というやつの記憶がある…みたい。断言できないのはその記憶が断片的で、前世といえるか分からないから。
だけど前世の私は火と何かあったようで、私は何故か火、特に火災とかキャンプファイヤーとか、大きく燃える炎を見ると過呼吸になって体の震えが止まらなくなる。
私の持っ断片的な記憶の中で、とても好意的に映る女の子がいた。確かディアナって子だったっけ。記憶に映る彼女はとても可愛い。あとお乳が大きい。羨ましい。私なんてちょっとした膨らみはあるけど下を向けば足先が見えるくらいの大きさだっていうのに。
そういえば、今年入学した1年の中に、ディアナそっくりな子がいたなぁ。可愛かったなー、お友だちになりたいなぁ。けどいきなり声掛けるなんてキモいよねぇ。
うーむ…。
「るーりーちゃん」
「わっ、杏奈ちゃん。びっくりしたー」
教室で椅子に座って後輩ちゃん(仮称)とお近付きになる戦略を立てていたら、突然頭にずっしりとした柔らかな重みがのしかかってきた。
その柔らかさの持ち主は帝門 杏奈、大亞財閥の娘さんで、私の家とは家族ぐるみの仲。私の実家もちょっとした富豪。じゃないとこんなお嬢様学校通えるわけないしね!
「どしたの?なんか悩み?ハッ、まさか瑠璃ちゃんに男が…!?」
「ないない。私みたいなひんぬーに靡く男なんていませんよっと。あと杏奈ちゃん、お乳重い…」
「重いからのっけてるの」
「揉むよ?」
私と杏奈ちゃんとの仲だからこそ、お嬢様学校なこの天華女子高等学校でもこんな会話ができている。流石にここで知り合った子にこんなやり取りを投げかけようものなら、絶交待ったなしなのは明白。
そういや、前世の記憶の中にアンナっていうメイドがいたよーな。顔は杏奈ちゃんに似て美形だけど、記憶の中のアンナは私と同じでひんぬーだった。
「あはは、ごめんごめん。で?実際は何を悩んでたのかしら」
「う…」
このお姉さんモードに入った杏奈ちゃんには、嘘がつけない。仕方なく、私はことの次第を洗いざらい話すのだった。
「ふーん、後輩ちゃんに可愛い子がねぇ。わたしも会ってみたいなー、その子」
「クラスどころか学年違うし、階も違うからそんな簡単には会えないっしょ」
「いやー、わかんないよ?廊下の角でばったり!なんてこともあるかもしれないじゃない?きゃー///」
「妄想にふけるのはいいけど戻ってこーい」
この時の私は想像もしていなかった。杏奈ちゃんの冗談が、本当になるだなんて。
▲ ▼ ▲
(side:杏奈)
わたしは帝門杏奈。大亞財閥の現代表の娘で、次女。
わたしには、所謂前世の記憶がある。
とある異世界のヨーロッパっぽい国で、ライアというお嬢様のメイド。しかしその正体は、公爵令嬢!
だからか、わたしは昔から緑茶よりも紅茶を淹れるのが上手い。別にいらんこんな能力。
そんなわたしの前世には、大きな後悔があった。それは、主人であるライアを火災から守れず、死なせてしまったこと。
前世の記憶だというのに、未だにライアの遺体が屋敷から運び出されてきた光景を夢に見ては泣いているレベルで引きずってる。
今世のわたしは、天華女子高等学校というお嬢様学校に通っている。今の学年は2年。
わたしには幼馴染の女の子がいる。その子の名前は鷲ノ宮瑠璃。わたしは瑠璃が大好き。わたしの雑な絡みも返してくれるし、なにより前世のライアに顔と体つきがマジでそっくりだから。本人は胸が小さいことを気にしているけど、別にそれはいいんじゃない?って思う。だって大きくても走ると痛いし重いし肩凝るし…。だから今日もわたしは瑠璃の頭に胸をのせ楽をする。
瑠璃が何か悩んでいるような雰囲気を醸し出している。聞いてみると、気になる後輩ちゃんがいるとのこと。
ついに瑠璃の魅力に気付いた男が!?と思ったけど、そんなことはなかった。けど瑠璃が気になる後輩ちゃん…わたしも気になるなぁ。
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(side:???)
あたし、虎原 愛衣。今年から地元ではお嬢様学校で有名な天華女子高等学校に通う高校生!
あたしは中学で猛勉強して、特待生ということで天華女子高等学校に通うことになってる。その理由は、あたしの実家は普通の家で、天華に通えるようなお金はなかった。だから、実力で入れてもらうしかなかったの。
あたしには、実は前世の記憶がある。ヨーロッパっぽい異世界で、ディアナという男爵令嬢として生きた記憶。
「男」爵の令嬢とはこれいかに。
そんなディアナは、憧れの人がいた。侯爵令嬢だったライア様。彼女はとても美しく、令嬢の模範になるすごい人だった。
だけど、ライア様はあたしを庇って死んじゃった。それからあたしは、死ぬまで後悔に涙を流していた。
そんな前世持ちでかつライア様という超絶美人を知っているからか、美人という概念に求めるビジュがめちゃくちゃハードル高くなってしまった。
そんな時、学校の廊下でふと見かけた先輩がいた。
あたしは衝撃をうけた。
死ぬほど美人だったからだ。どれくらいかというと、ライア様と瓜二つなくらい。前世の憧れにそっくりな人が同じ学校に通ってらっしゃるなんて、これって運命!?きゃー♪
──って、いけないいけない。運命の人とかいうのは前世で懲りたんだから、調子乗っちゃだめでしょ、あたし。
同じ学年なのかなぁ、それとも先輩?どこかでお話したいなぁ。
その数日後、あたしは衝撃的な出会いを果たすのだった。
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(side:瑠璃)
ある日のこと。昼休みになり、食堂へ行こうと移動していた時だった。
廊下を曲がろうとした瞬間、
ドンッ
「むぎゅ!」
「あら」
角から走ってきた誰かとぶつかってしまった。咄嗟に抱きしめる形になっちゃった、ごめん。
パッと手を離す。私はセクハラなんてしてませんよアピール、これ大事。
「廊下を走ると危ないよ…って、あら」
「いたた…ごめんなさい…って、えぇ!?」
顔を上げたその子は、なんとまさかのディアナ似の後輩ちゃん(仮)だった!
杏奈ちゃんの冗談が本当になった瞬間だ。後で「いよっ、予言者!」ってからかってやろう。
「あ、あわわわわ…」
…さて、現実逃避はこれくらいにして。目の前であわあわしてるこの子どうしよう。…とりあえず話せるところに連れてくか!
瑠璃 は こんらんしている!
「あなた、ちょっと時間ある?付き合って」
「は、はひ…」
私は後輩ちゃん(仮)を中庭──お嬢様学校だから、中庭も立派、前世の王立学園くらい──に連れていき、ベンチに隣合って座る。
「いきなりごめんなさいね。落ち着いた?」
「は、はいっ」
「私、鷲ノ宮瑠璃っていうの。あ、2年生ね」
「あ、あたしは虎原愛衣っていいます!先輩だったんですね!す、すすすいませんででした!!」
「いいのいいの、お互い怪我無かったんだし、お互い見てなかったからお互い様ってことで」
後輩ちゃん(仮)は愛衣ちゃんっていうのか。可愛いのう。ん…?虎原ってなんか最近聞いたような…そういえば、特待生で入った子がいるって話題になって、その子の苗字が虎原だったような…。
「あの〜、間違ってたらごめんなんだけど。特待生で入ったっていう虎原さんって、愛衣ちゃん?」
「あっ、はい!あたしです!」
「ほぇ〜、すごいねぇ。いっぱい勉強したんだねぇ」
「えへへ…」
かっわ!なんだそのはにかみは!?抱きしめてもよかですか!?
…フー、落ち着け私。まだセクハラの範囲だぞ。
「実は、あたしの実家はそこまで裕福じゃなくて。ここの学費は全額払うことはできないんですけど、どうしても入りたくて、猛勉強したんです」
「頑張ったんだねぇ、よしよし」
「ふにゃ……。わ、鷲ノ宮先輩はどうしてここに?」
「瑠璃でいいよー。私はねー、制服が可愛かったから。それと、実家の希望でね」
「へぇ…。る、瑠璃先輩のご実家って…?」
なんか声震えてんな、愛いやつよの。
「あー、『サファイアグループ』って知ってる?」
「はい、コスメとかタオルとか、いろいろ作ってるメーカーさんですよね。あたしもいつも使ってます」
「私の親、『サファイアグループ』の会長なんだー」
「へぇ〜………って、えぇえ!?」
…おもろいなこの子。ディアナとはまた変わった可愛さも持ち合わせてる。
「あ、あたし、とんだ失礼を…」
「大丈夫大丈夫。今は同じ天華生なんだから」
ぷるぷる震えてる、かわいい。
その後は昼休みが終わるまで取り留めもない話を延々とした。お互いにお昼ご飯を食べ損ねた。
「あ、やばいもうすぐ予鈴だ!ごめんね愛衣ちゃん、お昼食べれてないでしょ!?」
「えっ、ほんとだ!だ、大丈夫です!」
「とりあえずこれあげるから夜はたくさん食べて!」
取り出したるは1000円札×2。
「いやいやいやいや、貰えませんよそんなの!」
「いいからいいから。はいどうぞ。またね!」
「瑠璃先輩!?」
まだなにか喋ってる愛衣ちゃんに振り向くことなく走った。さらば、私の2000円。
「それで?結局お昼食べ損ねちゃったんだ?」
「そうなんだよぉ…お腹空いた…」
「けど、気になってた後輩ちゃんと話せたんでしょ?なんだっけ、虎…」
「虎原愛衣ちゃん。特待生って話題になってた子だよ」
「そうそうその子。よかったじゃない、仲良くなれそうで」
「ほんとに良かったよー」
「ふふ、良かったわ、瑠璃にもわたし以外の友達ができて」
「まるで私が友達いないみたいな言い方やめてくださる?」
「事実じゃない」
「…事実だけども!」
前世の影響か、他人の言うことを素直に受け取れない人生を送ってきた。おかげで『お友達になろー』という誘いの裏を探そうとして結局友達ができなかった。
悔しくないもん、ぐすん。
「さて、からかうのもそろそろ終わりにして、帰りましょうか」
「帰ろー。……って杏奈ちゃん、やっぱりからかってたんかい!」
私達は帰路につく。私も杏奈ちゃんも一人暮らしで、学校近くのマンションに住んでいる。
結構イイとこで、それなりにお家賃が高い。
しかし!なんと私のお家賃は、杏奈ちゃんのご実家である帝門家が半分出してくれているのだ!流石財閥、太っ腹!
いやマジで帝門家と大亞財閥には頭が上がりませんわ。
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(side:愛衣)
瑠璃先輩と衝撃(物理)的な出会いをした次の日のお昼休み。あたしは食堂にいた。
あ、昨日無理やり持たせられたお金はあたしのご飯になりました。普段食べないようなお肉とか買っちゃった。美味しかったです。
「あ、愛衣ちゃん」
「ん?あ、瑠璃先輩」
1人定食をはむはむ食べていたら、瑠璃先輩が来た。なんという偶然。これって運め(ry
「昨日はごめんねー。あの後大丈夫だった?遅刻しなかった?」
「はい、大丈夫でした!あ、昨日はお金貰っちゃって、ありがとうございました!」
「いーのいーの、2000円くらい(本当はちょっと懐が痛い)」
「さ、さすがお金持ち…」
瑠璃先輩の顔が真横にある。瑠璃先輩は足が長いので立つとあたしより背が高いけど、座高は同じくらい。
…きれいすぎる、むりぃぃ///
「鷲ノ宮さんが誰かとご飯食べてるなんて…」
「隣の子って誰?」
「あ、あの子確か今年特待生で入った子だよ!」
「あー、あの子かぁ。にしても…」
近くの席の人たちがなにかこそこそ喋ってる。前世の影響か耳だけは良いあたしは、その会話が聞こえてしまった。どうせ不釣り合いとかなんとか言われるんだろうなぁ…
「「「絵になるわぁ…てぇてぇ…」」」
あ、あれ?
「愛衣ちゃんどうかした?」
「なっ、なんでもないでしゅ!」
「そう?あ、焼き鯖おいしい」
その後も色々とおしゃべりして、予鈴が鳴るまでまた話し込んでしまった。
それからというもの、あたしと瑠璃先輩は毎日話すようになった。
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(side:瑠璃)
今日は売店で買ったパンを持って中庭へ。
「焼きそばパン美味しいよねぇ」
「ですねぇ」
最近は愛衣ちゃんもだいぶ馴染んだようで、リラックスしてくれるようになってきた。
「るーりーちゃん」
「おわぁっ」
「瑠璃先輩!?」
声が聞こえて、動こうとした時にはもう遅かった。私の頭にのしかかった重みに体勢が崩れる。
「あ、杏奈ちゃん…」
「見かけたからつい来ちゃった☆」
キラーンという効果音が聞こえそうな表情で杏奈ちゃんは微笑んだ。
「愛衣ちゃんはこんなひんぬーの人の頭にお乳を乗せるような人にはならないでね…」
「は、はぁ…?」
「あ、紹介するね。こちら、私の友達の杏奈ちゃん」
「帝門杏奈です…って、え?」
「あ、虎原愛衣です…んぇ?」
自己紹介したらなんかフリーズしたぞこの2人。なんだ、何かあったか?
「2人とも、どしたの?」
「あっ、い、いえいえ。なんか、昔の知り合いに似てた気がしたので。名前も違ったので人違いですね、あはは」
「そ、そうね。わたしも昔の知り合いに似てただけだから」
「ふぅ〜〜〜ん?」
あ、アヤシイ…!
■ □ ■
その週の週末、私は杏奈ちゃんと愛衣ちゃんをお出かけに誘った。2人とも二つ返事でOKしてくれた。
「2人とも、おまたせ〜」
「ううん、今来たとこ」
「アイス食べます?」
無事集合した私達は、街に繰り出した。
私達は服屋さんで季節のコーデを考えたり、ご飯食べたり、ゲーセンに突撃したりした。
時間はあっという間に過ぎ、夕方になった。
そうそう、お買い物中にこんな1幕があった。
3人がそれぞれ欲しいものがあったので買おうとしたところ、杏奈ちゃんが出してくれることになり。
「い、いいんですか…?結構高いですよ…?」
「いいのいいの。あ、カードでお願いします」
「だ、大丈夫なんですか…?」
「まあ杏奈ちゃんだからねぇ。愛衣ちゃん杏奈ちゃんの実家の帝門家って知ってる?」
「い、いえ…」
「帝門家って、大亞財閥の本筋なんだよ」
「…ほへ?ざ、ざいばつ?」
「わたしは財閥の娘って言われたくないんだけどね。実際そんなに金にものを言わせるようなことしてないでしょ?」
「いや、3人合わせて6万超えるような買い物を一括払いで買うのは相当だと思うよ?」
「…ぽふん」
「「あ、愛衣ちゃーん!」」
と、親しくしてた先輩が実は財閥の娘だと知って、キャパオーバーで倒れちゃったんだ。仕方ないから近くの休憩コーナーまで私がおんぶして(背中で極上の柔らかさを堪能しました)、休ませてあげた。
財閥の娘、恐るべし…!
「いや、言ってなかった瑠璃も悪いと思うわよ?」
あれ?
「今日はありがとねー」
「楽しかったです!ちょっと寂しいですけどありがとうございました!」
「わたしも楽しかったわ〜。…瑠璃、なに考えてるの?」
な、私が考えていることを見破った…だと!?
「ねー愛衣ちゃん。今から家来ない?」
「へ?」
「あらあら、お持ち帰りかしら?」
「い、いきましゅ」
かくしてお出かけは私の部屋で延長となりました。
■ □ ■
「こ、ここが瑠璃先輩のおうち…」
「何もないとこだけどねー。はい、お茶」
「あっ、ありがとうございます」
杏奈ちゃんは課題があるからと先に帰った(隣の部屋だけど)ので、今は2人きりである。
もう一度言おう、2人きりである!!
「瑠璃先輩の部屋、いい香りがします」
「実家が作ってる芳香剤の香りだね。試供品っていくつか貰ってるから、欲しかったらあげるよ?」
「い、いえいえ!ちゃんと買います!」
「そう?」
私は今、心に宿るへんたいおじさんを抑えるのに必死だ。下手に解放すると、私は愛衣ちゃんにセクハラをした罪で警察のお世話になるだろう。
「ふわぁ…ぁむ」
「愛衣ちゃん、おねむ?」
「実は、昨日夜まで起きてたので…」
「なになに?楽しみで寝れなかったとか?」
「あ、いえ、週明けの小テストの勉強を」
「あっ、さいですか…」
どうやら舞い上がっていたのは私だけだったようです、ぴえん。
それからしばらく。時計の短針が6をさす時間。
「それじゃ、そろそろお暇しますね」
「うん、ありがとね、来てくれて」
「いえいえ、その、あたしも呼んでもらえて嬉しかったです」
ん?おお?これは期待しちゃってもいいんですかねぇ?
「んー…、愛衣ちゃん」
「はい?」
「今度、うちに泊まり来ない?」
「………ふぇ?」
■ □ ■
今日は待ちに待った愛衣ちゃんとのお泊まり会の日。私はこの人生で最もそわそわしていた。なぜなら。
今日は愛衣ちゃんと、同じベッドで寝るからだ!
勘違いしないで欲しいけど、決して私が下心を丸出しにしたとかそういう訳じゃない。私は布団のセットを買って、愛衣ちゃんにベッドで寝てもらおうとしたのだが断られたのだ。だから仕方なく、仕方なく!一緒のベッドで寝ることにしたのだ!うへへ。
ピンポーン、ピンポーン
っ、来た!
インターホンには愛衣ちゃんの姿が!
「今あけまーす」
ガチャ
「いらっしゃい、愛衣ちゃん」
「お、オジャマシマシュ」
おおぅ…ガチガチに緊張してらっしゃる。
「入って入って」
「失礼しまーす…」
「荷物はどっか適当に置いて。お茶用意するねー」
愛衣ちゃんが荷物を置いたのを見てから、お茶を淹れる。
「おまたせ〜」
「あっ、ありがとうございます」
私は前世の影響か、緑茶より紅茶派。ミルクや砂糖は入れないタイプ。
「ほっ…。瑠璃先輩が淹れる紅茶、美味しいです」
「そう?良かった」
紅茶を飲む時は必ず右手で持つ。音を立てて飲まない。これらのマナーが何故か最初から出来ていた私。これも前世の影響かしら?
「実は、紅茶は杏奈ちゃんが1番上手なんだよね」
「そうなんですか?」
「うん、他とは違う美味しさがあるの」
話してたらまた杏奈ちゃんの紅茶が飲みたくなってきたな〜。
その後は少しだらだらして、お夕飯を食べた。
私の手作りだぞ、えっへん。
そして入浴中の愛衣ちゃんに突撃したい欲を抑えながらお風呂に入り、あっという間に寝る時間になった。
「それじゃ、おやすみ」
「おっ、おやすみなさい!」
平常心平常心…素数を数えるんだ…
2・3・5・7・11・13・17・19・23・29・31・37・41・43・47・53・57…
すやぁ…
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(side:愛衣)
今日は、瑠璃先輩のおうちにお泊まりに来ている。今はベッドで横になっているんだけど、隣に瑠璃先輩が寝ている。これで落ち着ける訳がないけど、1周回って落ち着いてきた。瑠璃先輩はこんな状況でもいつも通りだからすごい。
夢を見た。
先輩の家に来ていること、前日までやはり勉強していたこと、朝方迷惑なセールスを追い返したこと、そして暖房が強めに設定されていて暑かったこと。
これらの要素が重なって、前世の、あの日の夢を見てしまった。
燃え盛る炎の中、「私」を必死に守ろうと覆い被さり、自らがどれだけ傷つこうとも耐えたライア様。
それに対して、動けない、情けない私。
ライア様と言い争い、それでも動かないライア様と、動けない私。
その間にも燃え続け、ついには崩壊を始める屋敷。そして、突然私に「大好き」と言って…
ドシャッ
「──じょ──ぶ?──ちゃん」
「だいじょーぶ?あいちゃーん」
「う…ん…」
あたしが目を覚ますと。
瑠璃先輩が、あたしに覆い被さり、声をかけてくれていた。
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(side:瑠璃)
うんうんという音で、起きた。
音の発生源を探すと、隣で寝ている愛衣ちゃんがうなされてた。
寝ぼけているながらに愛衣ちゃんに声をかける。
「だいじょーぶ?あいちゃん。だいじょーぶー?あいちゃーん」
だいぶうなされてるなぁ。悪い夢でも見てるのかな。
「う…ん…」
ゆっくりと瞼を開いた愛衣ちゃん。
「せん…ぱい…?」
「そうだよー、瑠璃先輩だよー」
よかった…と呟く愛衣ちゃん。可愛いすぎる。もうね、なんかね、
「大好き」
「ふぇっ?」
気づいたら声に出ていた。気持ちが抑えられませんでした。
にしても、すごいびっくりしてる。その面影が前世の最期に見た顔とそっくりで…
「今の愛衣ちゃん、ディアナみたい」
そう、声に出てしまっていた。
「えっ!?」
その瞬間、愛衣ちゃんの目が見開かれた。そりゃそうか、覆いかぶさってる人からいきなり知らない人の名前出されたら私でもこんな反応するもん。
けど、愛衣ちゃんは違ったようで。震えたあと、深呼吸を1つ。そして、恐る恐る、
「先輩、1つ聞いてもいいですか…?」
「なぁに?」
「先輩、ライアって名前に、心当たり、ないですか?」
今度は私がびっくり仰天するのだった。
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(side:愛衣)
「今の愛衣ちゃん、ディアナみたい」
その言葉を聞いた瞬間、眠気が一瞬で覚めた。今、先輩はなんと言った?あたしの間違いでなければ、「ディアナ」って言わなかった?
まだ確信は持てない。実は海外に知り合いのディアナという人がいるかもしれない。
けど、「今の」あたしがディアナみたいと言ったはず。あたしは急に「大好き」と言われびっくりした。その顔がディアナみたいって…。
あたしは震えた。そして、1つの奇跡を願って、深呼吸。そして尋ねる。
「先輩、ライアって名前に、心当たり、ないですか?」
と。
さあ、先輩はどう出る…?
「なっ…んで、その名前を…まさか」
あたしはもう泣きそうだった。そして、次に掛けられた言葉を、耐えることはできなかった。
「ディアナ…?」
「ライア…様…」
「…ふふ、いいこいいこ」
「うぁぁあ…」
あたしは、ライア様…瑠璃先輩に抱きついて、泣いた。
▲ ▼ ▲
(side:瑠璃)
愛衣ちゃんは、ディアナだった。
その事実に、とにかく驚かされた。まさかの、私だけではなくディアナも転生していた。しかもなんの運命の悪戯か、こうしてまた会えた。
「うわぁぁん」
「よーしよーし」
今はめちゃくちゃ泣いてる愛衣ちゃんを宥めてます。人間、自分より取り乱してる人がいると冷静になるって本当なんだなって。
しかし、ディアナも転生しているとなるとまだ他にもいそうだな。それこそ、私のメイドだったアンナとか。幼馴染で隣に住んでる友達が同じ名前だけど、まさかね。そんなことが起きる確率ってどれだけよ?3天文単位分の1くらいの確率じゃないの?
まあいいや、今はとにかく、愛衣ちゃんをなだめて癒されよう。
■ □ ■
(数十分後)
「おちついた?」
「ぐすっ…はい…」
「ん、よかった。けどまさか、ディアナっぽいと思ってたら本当にディアナだったとはね」
「あたしも、ライア様みたいって思ってたらライア様だったなんて」
「びっくりだねー。…あ、そうだ。あの時、私の死後どうなったの?」
「えっと、魔導師団を引き連れたアルベルトのクソ王子がのこのこやってきて、追い返しました。で、しばらくしてからライア様が集めていらっしゃった犯罪の証拠を突き出して、復讐してやったんです」
「へー、前世の私そんなこともしてたんだー」
「えっ…お、覚えてないんですか?」
「実はね。私、前世のライアとしての記憶は断片的にしか覚えてないんだ。だから私が普段どんなことしてたかって、あんまりわかんないの」
「そう…ですか…」
「あっ、でもディアナとの楽しい思い出は覚えてるよ!」
そう言うとしょんぼりした表情から一転してぱぁあっと明るくなる愛衣ちゃん。かわよ。
「私、やっぱ死因が火事だからかね。炎が怖いんだよね」
「えっ…」
「自然教室とかでさ、キャンプファイヤーとかあるじゃん?あれも無理。1回、家の近くで火事があった時に杏奈ちゃんに引っ張られて野次馬しにいったんだけど、あの日の光景がフラッシュバックして倒れちゃったんだ」
愛衣ちゃんは何も言わず、抱きしめてきた。もしかすると自分のせいで〜って思ってるのかもしれない。
「ね、愛衣ちゃん。あの後の話、聞かせて?」
その後、すっかり目が覚めてしまった私と愛衣ちゃんは、前世の話をした。といっても私の死後のことを教えてもらうばかりだったけど。
ディアナはあの日のことを、その後の人生でずっと後悔していたと聞いて、
「後悔を独り占めしちゃだめだよー」
と言ったら、ライアの父にも同じことを言われた、と笑いながら言われてしまった。
というか、前世の私はマジで色々と裏でしまくってたらしい。そんな記憶は私にはないから、他人事にしか感じられないけど。
そして実はディアナは聖女だった、らしい!
聖女だよ聖女。あの顔とスタイルで聖女とか、そんな属性マシマシにしていいのか。
結局アルベルトは私が集めた(らしい)犯罪の証拠を国王に(ライアの父が)叩きつけたことで僻地に追放されたらしく、ライアの王子妃教育も、ディアナへの講義もパーになった。けど、ディアナは聖女として王宮暮らしをするようになったから、無駄にはならなかったみたい。
流石に意気揚々と教えようとしてきた教育官(今で言うマナー講師みたいなものなのかな?)に完璧を見せつけて意気消沈させた挙句、ライアにしてきた数々の非人道的な行いをチクって全員クビにしたという話を聞いた時は
(大胆だなぁこの子)
って思ったのは許してほしい。
そして1番びっくりしたことだけど。
メイドのアンナは、実は公爵令嬢だった!
いや、ライアより爵位上やないかい。なんでメイドしてたんだあの人。
アンナは「ライアは気づいてたかもしれない」って言ってたらしいけど、私の記憶には存在しない。知ってたけど忘れてしまったのか、そもそも知らなかったのか。今の私には、知る術はない。
■ □ ■
(朝8時)
ずっと話してたら、朝になってました。
もうお目目ぱっちりだよ、前世の話がいろいろ衝撃的過ぎだもん。
ピンポーン、ピンポーン
「「っ!?」」
朝からインターホンが鳴って、2人ともびっくりした。
「は、はーい」
ドアを開けると、にやにやと悪い笑みを浮かべた我が友、杏奈ちゃんが立っていた。
「ゆうべはお楽しみでしたね?」
「やかましいわ。入る?」
「いいの?愛衣ちゃん寝てるんじゃない?」
「起きてるから大丈夫だよ」
「そう?なら遠慮なく。お邪魔しまーす」
なんの疑いもなく入室する杏奈ちゃん。
…これはチャンスかもしれない。もし杏奈ちゃんがもしかするとな人なんだったら、今聞くべきな気がする。
「愛衣ちゃんおはよう。ごめんねー、お楽しみのところ邪魔しちゃって」
「え、いや、え?…ほゎっ///」
少し間を置いて意味を理解したらしい愛衣ちゃんがボンッと顔を真っ赤にした。
「馬鹿なこと言うんじゃありません」
「あたっ。もー、ほんの冗談じゃない」
「あんたのはタチが悪いのよ。はい、2人ともお茶」
「ありがとねー」
3人でお茶を頂く。さて、いつ聞くものか…。
いや、悩んでる方が面倒だな、聞いてしまえ。
「ねえ杏奈ちゃん。いきなりだけどさ」
「なぁに?」
「ライアとディアナって名前、知ってる?」
「っっ!!??」
ビックゥ!と跳ねた。そしてカップを持つ手が工事用ドリルもかくやという勢いでブルッブル震えてる。
……まさかなこと、あったみたいだね。
「なななんのことかしらら」
「動揺しすぎでしょ…」
「ほぼ答え言ってるようなものですよ…」
「ねえ杏奈ちゃん。私もついさっき知ったんだけどさ」
愛衣ちゃんの肩を引き寄せる私。
「愛衣ちゃん、ディアナだった」
「…そう」
「で、私。ライアなんだ」
「………」
「あれ?杏奈ちゃーん?」
杏奈ちゃんは、座ったまま気絶していた。器用だなぁ。
「見事に気絶してますね」
「だねぇ。紅茶の1滴も零さず気絶してらっしゃる」
「これどうします?」
「とりあえず紅茶置いて、ベッドに寝かせようか」
「はーい」
(少女運搬中…)
杏奈ちゃんをベッドに乗せてからしばらくして。
「ん…瑠璃の匂いがする…」
「何を言うとるかなこの変態は」
思わずペチンとほっぺたを叩いたのは不可抗力だと思う。
「はぁん!?」
「起きた?」
「あれ…瑠璃なんで…?」
「まだ寝ぼけてるみたいね」
杏奈ちゃんはなんでここにいるのかを思い出しているようで、表情とか顔色とかがコロコロ変わってる。おもしろ。
そして全て思い出したらしい杏奈ちゃんは──
「大変申し訳ございませんでした」
と人様のベッドの上で完璧な土下座を披露しなさった。
…っていや、待てよ?さてはこやつ、土下座するフリして匂い嗅いでんな!?
「痛い痛いギブギブギブ」
無言でチョークスリーパーをお見舞いしてやりました。
「で?反応からして関係者なのは分かってるよ。誰だったのかな?クソ王子ならもう2・3発くらい殴るんだけど」
「えーと…わたしの前世は…ライアのメイドのアンナです」
「…………」
「やっぱりそうですよね?なんかそんな気はしてました!ね、瑠璃先輩?…先輩?」
「瑠璃ー?あ、駄目だわこれ。フリーズしてら」
私の脳は、あまりの衝撃に一時的に思考を停止した。
え?そんなことあるの?
杏奈ちゃんがあのアンナ?名前一緒なのはなにゆえ?
というかそんな天文単位3乗分の1みたいな確率のこと起こりうるの?教えて神様仏様。
「…マ?」
「あ、復帰した」
「え?だってずっとそんな素振りしてなかったし、え?」
「わたしも瑠璃が成長していく毎にライア様に似てるなーって思ってたけど、まさか本人だなんて思う訳ないじゃない」
「それは私もだけど…。そもそも杏奈ちゃん、私の知ってるアンナと色々かけ離れてるんだもん。スタイルとかその辺が」
「あら、乙女は努力すれば変われるものよ?」
「それ私への当てつけ?」
もっかいぶっ飛ばして差し上げようか?
「けど、今考えるとやたら紅茶淹れるのが上手だったり、他人のお世話が得意だったりと片鱗はあったんだねぇ」
「そうだったの?もっと早く言ってくれればよかったのに。わたしは全然気づいてなかったわ」
「言える訳ないじゃん、そんな妄想みたいなこと。それに今だから言えるけど、昔火事見て気絶したことあったじゃない?あれ、前世のトラウマっぽいんだよね」
「え?あれって………」
「杏奈ちゃん?杏奈ちゃん!?なして泣いとる!?」
杏奈ちゃんはポロポロと涙を零していた。なんで!?
「あー…たぶん、杏奈先輩は杏奈先輩でトラウマになってるんだと思いますよ?前世で言ってましたもん、『私があの日命令に背いてでも助けに行ってれば』って」
「おおぅ…そうだったんだ」
そっか、アンナはアンナで色々後悔してたんだなぁ。
…なら。
「杏奈ちゃん…いえ、アンナ」
「っ、はい」
「あなたはあの日、何も出来ず歯がゆい思いをしたかもしれないわ。けれど、次に活かせばよろしい。もしも次が起きた時に行動して頂ければ結構。そうでしょう?ディアナ」
どうかな?ライアっぽく言えただろうか。
「ひぐっ…かし、こまり、ました…ライア様」
「私からもお願いしますわ、ライアさん。今度はアンナ様のメイドでも、私のメイドでもなく。お友だちとしてね?」
あれぇ?私の記憶よりもだいぶんしっかりした喋り方をしたぞ愛衣ちゃん。ほんとにあの後何があったんだディアナ。
▲ ▼ ▲
(side:杏奈)
幼馴染の親友が、前世の心残りな人だった。
それが分かったのは瑠璃と愛衣ちゃんがお泊まりをすると聞いて、からかってやろうと朝もはよから瑠璃の部屋に突撃したことから始まった。
朝から訪問したにも関わらず、起きていた2人。そして明かされた衝撃の事実!
愛衣ちゃん=ディアナ
瑠璃=ライア
今までずっと、『ライアに似てるなー』って思って接してた(いたずらしてた)幼馴染がライア本人だと知ったわたしは──
見事に気絶した。
割とすぐに目を覚ましたけど、目が覚める直前に寝ぼけてたのか、何故か香る瑠璃の匂いを堪能していたわたし。瑠璃のベッドに寝かされていると理解したのは、瑠璃のビンタで起きてからだったわ。
その後も土下座しつつ瑠璃の匂いをくんかくんかしてたらチョークスリーパーを食らったので流石に反省。
色々話したけど。けど!
昔、近くで火事があって、嫌がる瑠璃を引っ張って現場に行ったら瑠璃が気絶する事件があった。
今にして思うと、わたしはライアを助けられずに一生後悔していたのに、そのライアを火事の現場に連れていったということ。
それを理解したらわたしは、心が壊れそうになった。
泣いた。
けど、瑠璃…いえ、ライアが言った。
「あなたはあの日、何も出来ず歯がゆい思いをしたかもしれないけれど、次に活かせばよろしい」
と。
その後はもう耐えられなかった。2人の前でみっともなく泣きまくった。
▲ ▼ ▲
(side:瑠璃)
ある日のこと。
私たち3人は学校からの帰り道にいた。今日は愛衣ちゃんがうちに遊びに来る予定なので、本来は愛衣ちゃんと私たちは帰り道が違うけれども一緒に帰っている。
「あれ、電話だ。瑠璃愛衣ちゃん、先行っといて〜」
「大丈夫そ?」
「多分今度の休日の話だと思うから、すぐ追いつくわ」
「そう?なら先行ってるね?」
杏奈ちゃんのスマホに電話がかかってきたので、私と愛衣ちゃんは先に行くことに。
「今日なにする?」
「そうですね〜、杏奈先輩のお紅茶飲みたいですね〜」
「いいねぇ。賛成〜」
なんて、どうでもいいことばかり話しながら歩いていた私たち。だからだろうか、周囲の異変に気づくことが出来なかった。
ボンッ!!
「わひゃあ!?」
「ひぁっ!?」
突然爆発音のような音がして、めちゃくちゃびっくり。周りを見ると、目の前の家からごうごうと火の手が上がっていた。
「か、火事!?」
「ぁ…ぁ」
「瑠璃先輩?」
熱で窓ガラスが割れたのか、一気に酸素が供給されて炎の勢いがました。今でこそ『バックドラフト』という現象であるという知識はあるけど、あの日のことを思い出して動けなくなる。
「愛衣ちゃ…にげ」
「離れましょう先輩!」
「う、うごけない…」
「あたしも先輩担げるほどの力ないんですってばぁ!」
その間にも外に漏れ出る炎は勢いを増していく。あの日の光景が脳裏から離れなくなる。幸いなのはディアナが動けることだろうか、などとライアと私がごっちゃになって、混乱してるのが分かる。
そんな時だった。
「瑠璃!」
救いの手が差し伸べられたのは──。
「杏奈先輩!」
「愛衣ちゃん、2人で瑠璃運ぶわよ!手伝って!愛衣ちゃんは足持って!」
「は、はい!」
「いい?せーのっ!」
杏奈ちゃんと愛衣ちゃんに、火事が見えないところまで
運んでもらう。
瓦礫が崩れる音が幻聴として聞こえる。幻聴だと分かっていても、魔力という概念がない今度はディアナを守れないんじゃないかという不安が心を支配して──
その時だった。
「うっ、くぅっ…!」
「瑠璃!?」
突然、鋭い頭痛に襲われた。頭が割れそうになるが、その瞬間、数多の記憶が流れ込んできた!記憶の奔流に押し流されないように必死に抵抗する。この記憶は、ライアの記憶、その全てだ。
「おもい…だした…」
「瑠璃?」
「何をですか?」
「ライアの記憶、その全部を。あの頃、何を思って、何をしようとしていたのかを」
「えっ!?」
どすん!
「いっ…たぁ!!」
「あっ、ごめん」
杏奈ちゃんの手が滑って、私は地面にケツから叩きつけられた。乙女のケツにどすんなんて音を立てさせるんじゃないよ、まったく。
「瑠璃先輩、今言ったのって本当ですか?」
「ごめ、ちょっとケツ痛すぎて…」
「よしよし…」
「こらそこ、どさくさに紛れてケツ揉むな」
「あ、バレた」
こいつ…あとでくすぐってやる。
「ようやく痛みがひいてきた…」
「瑠璃先輩、大分落ち着きましたね?」
「…あれ?そういえば。なんでだろ」
そういや、もう煙とか炎とか見ても大丈夫な気がする。なんでだ?
──あ、もしかして。
「あの日の火事の時、私が何を思ってたかを思い出したからかも」
「えっ…逆に覚えてなかったんですか?」
「うん。とりあえずディアナに告白したことは覚えてるんだけど、それが強がって言ったのか火事が怖くなかったのか分かんなかったから。覚えてるのは、衣服が焼けて瓦礫が突き刺さってくる痛みと恐怖だけだったんだよね」
それが今はどうだろう。当時の私は、きっと死ぬのも厭わずにディアナを助けていたんだと自信を持って言える。その自信が何処からくるかは分からないけど。
「とりあえず、みんなウチ行こ。詳しい話はそっちで…って歩くの速いなおい」
杏奈ちゃんが(どこにそんな能力があったんだとツッコミたくなる速度で)歩き出すものだから、急いで着いていったよ。
■ □ ■
(in 瑠璃's house)
「ふぅ…やっぱり杏奈ちゃんの紅茶最高…」
「瑠璃先輩…」
「瑠璃、あなたねぇ…」
「冗談冗談。で、何から聞きたい?」
「はい!アルベルトのクソ王子の犯罪はいつから情報を集めてたんですか?」
アルベルトか…。確か、婚約結んでから2年くらいしたらもうきな臭くなってたような気がするから、その頃からだったかな?侯爵家の影にも手伝ってもらって集めてたんだ、そうそう。
「そんな昔からあのクソ野郎は…」
「感染症じゃなくて魔獣に喰われて死んでればよかったのに…」
「こらこら、そんなこと言わないの」
「じゃあ次わたしから。アンナの正体には気づいてたの?」
あー、アンナが実は公爵令嬢だったってやつ?んー、これはグレーかな。
「どこかの令嬢なんだろうなって薄々勘づいてはいたけど、ディアモンド公爵家とは流石に分からなかったかな。だってアンナ、メイドとして完璧だったんだもん」
「ほーそうなのねー、ふーん」
『完璧だった』という言葉に反応したか、頬がゆるっゆるな杏奈ちゃん。可愛いなおい。
その後も色々質問されましたよ。
まーみんな気になることが多いこと多いこと。みんな疑問持ち込み過ぎじゃない?
(少女回答中…)
「こんくらいでいい?」
「あの、最後に1ついいですか?」
「まだぁ?なに、愛衣ちゃん?」
「『代わりの婚約者』って言われて、ずっとそう思って。実際は、どう思ってたんですか?」
あー…。
「んー…代わりの婚約者時代が長すぎて、『まだ婚約者見つからないのかな』って思ってた。元々ディアナに講義してたのも、『さっさとアルベルトと結ばれて私を解放して』って思いからだったし。けど婚約者でいる間は当たり前だけど婚約話は一切なかったし、そこは楽だったな。まあ、今考えれば、ライアはとっくに壊れてたんだと思うよ」
「「………」」
「あれ?2人とも?」
ひしっ
「ちょ、なにごと!?」
無言になった2人は、いきなり両側から抱きついてきた。おおぅ、左右どちらも柔らかい…。
「もう絶対に離さないから。今日は泊まるから!」
「あたしも泊まります!」
「え、えぇ!?いいけど2人とも着替えとか…」
「わたしが愛衣ちゃんの分も用意するから大丈夫!それに瑠璃のサイズじゃ愛衣ちゃん入らないだろうし!」
「悪かったな、ひんぬーでよ!」
わいわいがやがや。
ま、まあ?たまにはこういう日もあってもいいんじゃないかな?
■ □ ■
…と。思ってたんだけど。
「る〜り〜」
「せんぱ〜い」
どうしてこうなった。
「あーもう、2人ともくっつき過ぎ!暑いわ!」
「んなこと言って、押し付けられて満更でもないくせに」
「…」プイッ
「えへへ♪」
くそぅ、どちらを向いても幼馴染と可愛いすぎる後輩の顔しか映らない!前を向くと周りの視線が痛いから必然的にどちらかを向くしかないんだけど!
杏奈ちゃんと愛衣ちゃん、あの言葉の通り離してくれなくなった。良く言えば束縛、悪く言えばプチヤンデレ。
けど、そんな2人が大好きです!!
見てるか?アルベルト。お前の一言のせいで1人壊れた令嬢と、お前がフラれた令嬢も、完璧メイドも今はこんな幸せに暮らしてんだ!
せいぜい地獄で悔しがってろ、べー!
~完~
本作品はこれで完結となります!
最後までお読み頂きありがとうございました!
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