第1話
新作始まりました!
全8話のちょっとした連載になります。
とある大陸に勢力範囲を持つ国、ホルク王国。
この物語は、そんな国で貴族の爵位を持つ、とある家の令嬢を中心に始まる──。
▲ ▼ ▲
ホルク王国・サフィル侯爵家所有の馬車にて
私は、学園へと向かう馬車の中にいる。
私の名はライア。ライア・フォン・サフィル、由緒ある名家、サフィル侯爵家の長女。
「はぁ」
おっといけない、ついため息がでてしまったわ。これからのことを考えると、どうしてもね。
「お嬢様、どうかされましたか?」
同乗していたメイドのアンナに聞かれてしまっていたみたいで、そんなことを聞いてきた。
「いいえ、なんでもないわ。ただ、学園への道が億劫に感じられるだけよ」
「えっ…お嬢様に反抗期ですか!?」
「冗談よ」
「も、も〜!お嬢様ったら!」
どちらからともなく、2人して「ふふっ」と吹き出す。
私とアンナはもう10年以上の付き合いで、お互い気心のしれた仲なの。
2人でなんとなく話している内に、学園へ到着した。
「お嬢様、わたしはお先に寮でお待ちしておりますね」
「ええ。いつもありがとう、アンナ」
「いえ、これもお嬢様のためですから」
ふんす、という音が聞こえそうなポーズでそう言ったアンナは、馬車と共に去っていくわ。
さてさて、目線を学園に戻してみれば。
やはりいましたわね、あの2人が。
「久しぶりだな、ライア。俺に会えず寂しかったか?」
「お久しぶりです、ライア様ぁ」
私の婚約者であり、この国の第2王子であるアルベルト王子。そしてそれに…失礼、殿下に侍っているのは、私の可愛い後輩、ディアナさん。ディアナさんの実家はティガ男爵家で、爵位としては最下位。だけど容姿が良く、器用なので殿下に取り入り、2人で「真実の愛」だとか言っているそう。まあ、お2人で乳繰り合うのは宜しいけれど、どうせ私は代わりなんだし…と思いつつ、アルベルト殿下はやめた方がいいんじゃないかしら、とディアナさんに思っていたり。
「お久しぶりです。殿下、ディアナさん。休暇の間会うことができず寂しい思いをしておりましたわ」
あくまでディアナさんに、だけれど。
殿下にはそもそも会いたくもないけれど。
「チッ、心にも思ってない癖によく口が回る」
殿下は不機嫌なのを隠そうともされずにそう仰る。
見て分かる通り、私と殿下の婚約は政略で、私はあくまで代わり。
その理由は、元々殿下の婚約者候補だった方が(もう何年も前になるけれど)幼くして儚くなられてしまい、急遽私が代わりの婚約者として宛てがわれたの。初めて会った時の殿下の反応は今でも思い出せるわ。
『オマエなんかがオレの婚約者なんて認めない!どうせオマエは代わりなんだからな!オマエなんて愛してなんてやらないから!』
まあ、初対面の令嬢に対して酷い言いようだったわ。けれど、たかが侯爵令嬢の私が王子殿下の婚約者に、というのは確かに格が合わない。あくまで私は代わり、殿下にふさわしいご令嬢が見つかるまでの代わり。
…そう、思っていたのだけれど。
もう、代わりの婚約者になってから10年近く経つというのに、未だにそんなご令嬢は見つからない。そんな中現れた、殿下と「真実の愛」を宣言するディアナさん。
(もう、彼女と結婚されたらいいんじゃないかしら。お互い愛し合っているみたいだし。私が代わりの婚約者でいるのももうすぐ終わりかしら)
愛されずとも一途な婚約者を演じるのもそろそろ辛くなってきた頃だし。今思えば、よく耐えられたと思う。
…そういえば、初めの頃は王子妃教育も忙しくて、辛くて枕を濡らしていたっけ。いつからかしら、そんな感情がなくなったのは。
けれどそうね、殿下の伴侶としてディアナさんは少々…いや、かな〜り不安があるから、王子妃に求められるイロイロな事について、学園にいる時くらいは私が教えて差し上げてもいいかもしれないわね。それに付いてこれるなら私も安心して殿下の婚約者の座を引き継ぎさせられるもの。
そうと決まれば、早めに行動に移した方がいいかもしれないわね。彼女は今でこそ1年次生だけれど、学園は3年次制。私は今2年次だから、長くても2年間しか教えることができないわ。
◆ ◇ ◆
「ディアナさん、この後は空いていらして?」
後日、私は放課後にディアナさんのいる所へ赴き、予定を聞いた。
「ライア様?別に空いてますけどぉ…?」
爵位が上の者に対する言葉遣いではない、語尾がのびている…まだまだね。
「そうですか。でしたら私とお付き合いをお願いしても?」
「は、はぁ…」
言質取ったわよ。
「見て、ライア様よ」
「来ていきなりディアナさんを連れていくなんて…酷いお方ですこと」
「ライア様って、アルベルト殿下の婚約者様よね?そんなお方がディアナさんを連れていくなんて…」
「そういうことですわよねぇ」
クラスの方々が何かこそこそと仰っているけれど、気にしません。今の私の使命は、ディアナさんを殿下にふさわしい令嬢に育て上げるだけでしてよ。
空き教室に滑り込んだ私は、ディアナさんを席につかせ、私は教卓に立つ。
「さて、ディアナさん。1つ確認しますけれど、殿下とは愛し合っていらっしゃるのよね?」
「な、何を聞くんですかぁ?当然じゃないですかぁ」
「そう。なら、殿下の隣に立つにふさわしい令嬢にならなくてはなりませんね?」
「ど、どういうことですか?あたしじゃ相応しくないって言いたいんですか!?」
「少なくとも今のディアナさんは、という意味ならそうですわね」
「そ、そんなこと言わなくても…」
じわじわと涙ぐむディアナさん。その姿も可愛らしいけれど、駄目ね。見る人が見れば嘘泣きだとすぐに分かるわ。
「で・す・か・ら。殿下の現婚約者であり王子妃教育を修了した私が直々に指導しますわ。ディアナさんが殿下に相応しい令嬢になれるように」
「そ、そんなことしなくても」
私はディアナさんの反論に被せるように言う。
「大丈夫、と思っておられるのならより駄目ですわね。よろしいですか?王家と婚約することが、いかに喜ばしく、いかに栄誉あることで。いかに、厳しいことなのか。僭越ながら教えて差し上げます」
それから私は、つらつらと語った。王家と婚約を結ぶということの栄誉と責任。そして、婚約者に求められる「完璧」について。最低でも、婚約を結んだ王家の者をその身に変えてもお守りする度胸と実力が必要。そして、婚約者を引き立てる為に常に令嬢の模範にならなければならない。
話し終わった時には、ディアナさんは求められる人間像のあまりの厳しさに絶望…はしていなくて。
むしろ、
「あたしがそんなこともできないとでも思っているんですか!?だったらやってやろうじゃありませんか!絶対あなたよりも殿下に相応しい令嬢になってやりますから!」
と戦意と熱意に溢れていた。
全く、頼もしいこと。それが最後まで続くといいのだけど。
「そう、それなら良かったですわ。ではまず歩き方から始めましょうか。コツは重心を固定して、上半身がブレないようにすることですわ。ではやってみせて?」
ディアナさんが歩く。重心が安定せず、上半身は右へ左へ。まあ、初日はそんなものよね。けれど2時間もすればかなり上達し、及第点には達した。
「よくできました。では本日はもう遅くなってまいりましたし、続きは明日に致しましょうか。明日もまたこの教室で」
「えっ…ま、またやるんですか…?」
「当然でしょう?王家に連なる者に求められる姿が1日で得られるとお思いですの?」
「ひ、ひぃ…」
その日はそれで解散。普段使わない筋肉を使っているから筋肉痛には気をつけるようにとは忠告しておいたけれど、フラフラしながら去って行ったのは心配ね。
次の日、空き教室にディアナさんが来ることはなかった。
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