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魔女と傭兵  作者: 超法規的かえる


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@witch_mercenary

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刃蜂の群れと遭遇した合流地点。

そこでは次々と運び込まれてくる冒険者の治療と搬送が行われていた。



「こっち手を貸してくれ、出血が酷い!!」

「よし、こいつらは処置が終わった。運んでくれ!」

「薬が足らん! 魔力に余裕のある者は回復術を使ってくれ! 怪我人の具合を見ながら、歩ける程度には体力を残しておけよ!」

「痛い? なら平気だ。痛みを感じる余裕があるなら歩ける。さっさと行け!」


怪我人の治療を行う者、歩けないほどに負傷した怪我人を運ぶ者。

陣を敷いた冒険者たちは精力的に動き回っていた。


一部は近づいてくる刃蜂や他の魔獣を撃退しているが、その数は多くない。

先程の冒険者が刃蜂の群れをほとんど引き連れて行ってしまったおかげか、魔獣の襲撃は散発的にしか起こっていないのだ。


救助は順調に進み、事前に渡されていた医薬品も底をつきかけていた。


「おい、そろそろ潮時じゃないか?」


幾度目かの怪我人を連れ帰った頃。

クロスボウを背にした冒険者が代理で指揮を執るシバシクルの男に声を掛けた。


「……現在の救助状況はどうだ?」


彼は少し考えた後、斥候役に今の救助状況を聞いた。


「生存者は五十人だ。発見した死体は二十人。さっき走って行った三人を入れると、生死問わずで七十三人が確認できている」

「聞いていた数より十人程足りんが?」

「……おそらく巣へ運ばれたんだろうな。欠損のある死体が多い」


斥候の男は沈痛な面持ちで考えを伝えた。

捜索途中、幾度かやり過ごした時に運びやすく加工したを持った刃蜂を見かけたことがある。行方不明者の中にはそうやって体ごと持っていかれた者も少なからずいるのだろう。


「……随分、死んだな」

「仕方がない。起こったことを考えれば、良く助けられた方だ」


確認できただけで二十、行方不明者も合わせれば三十人以上にも及ぶ死者。

冒険者全体の数からすればそこまで大きくもない数字だが、三十人の命とは決して軽いものではない。

日頃命をチップにして稼いでいる冒険者達だが、それでも死というものに対する恐れが消えることはない。


救えなかった彼らへ黙祷を捧げ、振り切るように声を上げる。


「今出ている捜索隊が戻ったら順次撤収するぞ! 引き上げる準備をしておけ!」


撤退指示に怒号ともつかない返答があり、冒険者たちが動く。

怪我人の治療は優先度の高い者に集中し、それ以外は多少傷が開いても死ななければ問題ないと歩かせる。




「……ノートンはどうする?」


斥候が一番気にしているであろうことを短く問うてくる。

指揮を執る彼も気にしていないわけではない。

だが仕事を放り出して仲間を優先していては周りに示しがつかない。


「……今の俺たちの仕事は救助だ。それに奴も冒険者、覚悟はできているだろう」


表情が歪むのを抑えようとし、失敗しながらもそう伝える。

苦渋の決断に仲間がこぶしを握り締め、悔し気に下を向いた。



「見事な割り切り……と言いたいところだけど、もうちょっと心配してくれてもいいんじゃないかい?」

「!?」



突如横合いから掛けられた声に彼らが勢い良く振り返った。

そこには先ほどの冒険者たちを引き連れ、見慣れた姿のまま片手を上げる仲間の姿があった。





「ノートン! やはり生きていたか!」

「まあね。久しぶりに死を覚悟したけど、なんとか乗り切れたよ。僕は走ってただけで何にもしてないけどね」


ノートンに駆け寄る彼の仲間たち。

彼らは口々に仲間の無事を祝った後、現在の状況を説明する。

その説明が一段落ついたころ、撤収準備が終わったと冒険者から声が掛かった。


「後は任せたぞ。やはり俺はこういう指示出しは向かん」

「そうでもないと思うけどね。でも、御苦労だった」


そんなやり取りをした彼らは笑い合うと、仕事に戻る。



「これより撤収する! 後は戻るだけだが、油断するな。帰るまでが仕事だ! つまらない死に方をした奴に報酬はないと思え!!」


号令をかけたノートンの指揮のもと、救助隊はギルドへ帰還を始めた。



巣への被害から時間が経ち、危害を与えうる存在を周囲から排除したからだろうか。

森に響く羽音は来た当初と比べて大分静かになってきていた。


既に幾度も怪我人が運ばれていたので退路の確保も済んでおり、撤退は滞りなく進んでいた。

怪我人を中央に囲うように固めた冒険者たちは慎重に森を歩いていく。



「聞いてもいいですか?」


負傷したレスリーは救助用の担架型荷台に移され、ラディアンがそれを引いている。

前を行く彼にシアーシャが手持無沙汰そうに尋ねた。


「お、なんだい?」

「結局、あの巣に魔術を当てたお馬鹿さんって誰だったんです?」



ジグが額に手を当てるが、もう遅い。



すぅと、空気が冷えた。



シアーシャの何気ない疑問だが、その問いの持つ意味は重い。

これだけの事態を引き起こし、三十名にも及ぶ死者を出すことになった張本人。

恐らく救助された者も既に聞かれていたのだろうが、この様子ではまだ犯人が誰かは分かっていないようだ。

もしこの場にいたならばどうなっていたことか。

賠償などのために殺されることはないだろうが、相応の私刑にあっているだろう。



無言の注目を浴びる二人。

圧の篭った空気にラディアンは冷や汗を流し、対照的にシアーシャは気にした様子もなく小首を傾げている。


「……俺たちは直接見たわけじゃねえ。だが、その瞬間は知っている」


嫌なものを思い出すかのように眉を顰めたラディアンは視線をエレオノーラへ向ける。


「あれは風の攻撃術だった。見えたのは一瞬だったけど、規模も威力もそこそこ大きい。術が巣に当たって、壊れた所から煙が溢れるみたいに刃蜂が湧き出てきた」


そう言ってエレオノーラは服の下で鳥肌の立つ腕を撫でる。

あの時の恐ろしい光景は、言葉では到底言い表せないものであった。


「風の魔術ですか……腕も悪くないとなると、容疑者は結構絞れますかね?」


怯えるエレオノーラには反応を見せず、黒髪を揺らしてマイペースに思案するシアーシャ。

ノートンはそれに首を振って否定する。


「それはどうだろう。風の魔術師なんて珍しくもないし、森の奥にいた冒険者は皆それなりの等級だからそのぐらいの術を使えても不思議はない。目撃情報などを整理していくには相応の時間が掛かると思う」


犯人は当然、隠すために嘘の証言をするだろう。

激しい混乱を招いた状況下で証言の整合性を取りつつそれを暴いていくのはかなり難しい事のように思えた。


何より……


「それ以前に、生きているのか?」


ジグの疑問に一様に皆が黙る。

森にいた冒険者の四割近くが死亡した今、その可能性は決して低くはない。

むしろ、そのような迂闊な行動をとる冒険者が生きている確率が高いとも思えない。

そうなっていた方が面倒がないという気持ちと、償わせたいという気持ちが彼らの中で複雑に渦巻いた。




「……不味いな」


そんな彼らを余所にジグは人知れず、深刻な表情をしていた。


この惨状を引き起こした犯人など自分にとってはどうでもよい。

一般市民ならばともかく、戦いを生業とする者がたかだか三十人余り死んだ程度で大騒ぎする方がどうかしている。


魔獣の巣という存在。

目の前にありながらも日々の習慣に恐ろしさを忘れていただけで、その脅威度は決して昨日今日上がったものではない。

一歩間違えればこの事態はいつだって起きていた。それが偶々今日だったというだけの事。



傭兵として日々何百もの死人を出す戦争を経験しているジグにとってみれば、三十という小さすぎる数字に思う所があるはずもない。


ならばなぜジグは焦っているのか。

それはこの依頼の成果にある。


「たった三人……シアーシャと割れば実質一人半、か」



ジグは渋い顔をしてカークとの依頼内容を思い出す。

一人当たり二万、歳が三十以下なら四万。

つまり実質今回の報酬はたったの六万ということだ。


冗談ではない。

事情が事情だ。数が少ないのはカークも理解してくれるであろうが、それと報酬とは話が違う。


当然だが、走るというのは疲れる。装備と大人二人を抱えて走ったのはジグにとっても相当な負担であり、消費したエネルギーも並ではない。


つまり、腹が減っている。


体が大きければ食べる量もそれに比例して多いのは生物の常。

ましてやその肉体は鍛え上げられている分、燃費もそれ相応に悪い。傷の治療という理由が無くともジグの食事量は常人の三倍以上にも及ぶ。

六万ぽっちでは三日もつかどうかと言ったところ。

装備はほとんど使わなかったのでそちらは問題ないが、酷使したブーツはかなりへたってきている。

総合的に言うと、今回の依頼はくたびれ儲けもいいところだ。


「ぬぅ……」




失った人命に気を落とす冒険者たちと、払った労力に見合わぬ報酬に肩を落としたジグ。

救助隊はそれぞれの理由で暗い雰囲気のまま、ギルドへの帰途に就いた。


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― 新着の感想 ―
[一言] やっぱノーラちゃん頂いとけば?w(あとの苦労は知らない)
[一言] 巣に風の魔術を当てたヤツって、何かの伏線なのかな? 続き、楽しみにしています。
[一言] ノートンが、今回はジグ&シアーシャの おかげで全員救助出来た。 って証言してくれたらウハウハなんだけど。 無いのかなー。
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