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獅子と私  作者: sin
時系列を無視した短編集
26/31

隣の国の王様とお見合い③


「あんたが国王でもなんでも、あえて言わせてもらうわよ!」



敬う気がまるで感じられない堂々の宣言をした小さな女の子は、あっけにとられたように口を開いている王様に、びしりと指を突きつけた。

王様は思った。あ、この女の子、鼻の頭にそばかすがあるなぁ可愛いなぁ。


―――完全なる現実逃避だった。



「あんたがそそのかしたせいで!お姉ちゃんが!お姉ちゃんが!!」



女の子は、ものすごい勢いで、再び絶叫した。



「どこぞの馬の骨と駆け落ちしちゃったじゃないのーっ!!!」



思わず、王様は耳を塞ぐ。

宰相は早々に部屋を退出していた。さすがイケメン、すべての動作がスマートである。







泣きわめく女の子の要領を得ない説明から王様がようやく理解できたのは、まずこの、以前王様が城下で救った女の子がマリーという名前であることと、彼女が偶然にも先日お見合いをした美少女の妹だということと、そのお見合いのなかで王様が美少女の告白を応援する会会長を務めてしまったがゆえに、美少女があの姿絵のイケメンと手と手を取り合って失踪してしまったということだった。



「それは何て言うか…お、俺が悪いの?」



王様は首をかしげた。あの様子では、遅かれ早かれ駆け落ちエンドだったような気がする。

それを見たマリーは、気の強そうな目をつり上げて、憤慨したように王様を睨み付けた。宰相の冷たい目に日々さらされている王様は、それくらいの可愛い視線などへっちゃらだった。いや嘘だ、異性にそうされると笑えないくらい落ち込んだ。



「わたしはね、別にお姉ちゃんが誰とどうしようがいいの!問題はわたしよ!お姉ちゃんの代わりにものすごい量のお見合いが舞い込んできたのよ!」

「ええと、それ、駄目なのか?」

「当たり前でしょ!!わたしは結婚なんてしないで魔術の勉強がしたいの!!」



上級魔術である空間移動、しかも王宮の執務室にいとも簡単にできてしまうところを見ると、この女の子は相当魔術の心得がありそうである。さぞ腕のいい師匠がいるのだろう。


王様が無駄に考察を広げていると、マリーは王様の予想の斜め上方向に怒りだした。



「わかってるわよ!わたしがあんな綺麗なお姉ちゃんの妹だって信じられないんでしょ!」

「えっ」

「でもっ、べつにいいの!わたしには魔術があるし、べつにいいのよ!結婚しないんだから、綺麗じゃなくたっていいの!」



どうも、美少女の姉にひどいコンプレックスを抱えているようである。

王様は、でもそばかすは可愛いけどなぁ、と思った。思っただけで口にしなかった。ここで言っても嫌味にしか聞こえないかもしれないと考えたのである。王様は、恋愛フラグを折る能力と無駄な空気を読む能力にかけては天才的だった。



怒り狂う女の子を見ながら、王様は持ち前のお人好しを発揮して、一度助けた生き物は最後まで面倒を見るべきだという無駄な正義感を心に灯した。しかもその後姉妹で上手く話がまとまれば、この女の子を魔道士として王宮に迎え入れることができるかもしれないとも思った。

馬鹿がつくほど人がいい王様はやる気に満ち溢れた。あの美少女を説得することは出来なくとも、見つけ出すくらいならできるだろう。なんたって、王様は王様なのである。偉いのである。やればできる子なのである。



「よし、ちびすけ、話はわかった。お前の姉さんを探す手助け、してやるよ」

「…あんたにできるの?」

「おちびちゃん、お忘れかもしれないけど、俺一応王様だからね」

「さっきからちびちびってうるさいわね!わたしはもう12歳よ!」

「おーそうか、そりゃあ立派なおちびちゃんだ」



小さな女の子がまた何か怒っていた。王様はなんだかほんわかした気持ちになって、目の前でぴょこぴょこ跳ねるその頭をぐしゃぐしゃに撫でてやった。









王様が、マリーの事をちゃんと名前で呼ぶようになるまであと1カ月。



姉の捜索の経過を頻繁に聞きにくるようになったマリーを、王様が待ちわびるようになるまであと2カ月。



忙しくなったと言って急にマリーが来なくなり、寂しくて切なくてやるせない気持ちを抱いた王様が、もしかしてこれって恋かしら、でも12歳に恋なんて、と思い悩むまであと3カ月。



宰相が、「なぁ…小さい女の子ってさ…お前どう思う?」と真剣な顔で聞いてきた王様に仕事をしてほしい一心で「いいんじゃないですか」と言ってしまったがために、宰相は幼女趣味だという噂が王宮内でささやかに広まるまであと4カ月。



「お前のそばかすさぁ…うん、なんか、可愛いと思うけど」というふっきれた王様の精一杯の告白に、残念ながら馬鹿にされていると受け取ったマリーが氷より冷たい目で「は?」と返してくるまであと5カ月。



悩みに悩んだ王様が宰相にようやく相談を持ちかけ、「なんでもっと早く言ってこないんです」「え!?知ってたの!?」「逆に聞きますがあなたそれで隠せていると思ってたんですか?私を幼女趣味に仕立て上げてまで?」と冷たくあしらわれるまであと6カ月。



すっかり恋愛相談役と化した宰相から伝授してもらった包容力の溢れるイケメンを目指すべく、とりあえず近くにあった銅像に向かって「ほらおいで」「何も言うなよ…辛かったんだろ」などと練習する王様を偶然見かけてマリーがどん引きするまであと7カ月。



例のお騒がせ魔道士が急に王宮に現れ、王様と、「やっほー王様、元気ー?」「おま、よく普通に顔出せるな!悪魔の申し子か!?あの後マジで大変だったんだぞ!」「シツレーな王様だなぁ!こんな天使みたいな僕を前にして悪魔なんて!それより王様、あれから魔道士見つけられた?」「聞いて驚け!候補は見つけたんだもんね!お前なんか用なしだもんね!ばーか!早く帰れ!」などと言葉を交わすまであと8カ月。



再び王宮を訪れたまっくろくろすけとじゃれあっている間にマリーが訪ねてきて焦る王様を尻目に、驚いた彼女が、「…師匠!?こんなとこでなにしてるんですか!」と衝撃の師弟関係を暴露し、「あららぁ、王様が見つけた魔道士候補ってお前のことだったのマリー!僕びっくり!」「はぁ!?マリーお前まさか悪魔の申し子の弟子なの!?」などとぎゃあぎゃあ騒いだ挙句、なぜか王様だけが宰相にしばかれるまであと9カ月。



「わたしって、綺麗かな」といつになく自信なさそうなマリーに、王様がどぎまぎしながら「まぁあの…綺麗っていうのは人それぞれの価値観だと思うよ」と励まして、その後「俺は綺麗だと思うけどな」とかっこよく決めようとするが、それを聞く前に彼女が泣きながら走り去ってしまい、よくよく考えたらものすごく遠回しの否定の様にも聞こえるなと気づくまであと10カ月。



マリーが王宮に来なくなり、王様がパニックになって国中を探しまわった挙句、お見合いしようとしている小さな女の子をやっと見つけて、わけもわからずやぶれかぶれで「俺はお前の姉さんより、お前のそばかすの方がすっげー綺麗で可愛いと思うよ!!」と腹の底から叫んでマリーの手を掴み、彼女が泣きながら笑うまであと11カ月。




「年齢差なんてさしたる問題ではありません。甲斐性があるか無いかです」と、いい加減うぜぇと顔に書いてある宰相のものすごく投げやりな励ましに背中を押され、王様がマリーに決死のプロポーズをするまであと1年。






街で暴漢を退治してくれた国王を名乗るヒーローに心を奪われた妹のために、姉である例の美少女が宰相と手を組んで、妹を王様と引き合わせるよう画策していたと暴露されるまで、あと、1年とちょっと。



全ては美少女の掌の上だったのよ、ということで。

美少女が見つからなかったのも宰相が匿っていたからよ、ということで。


王様のお見合いは以上です。王様の1年間を駆け足で追いました。細かいところは各々の脳内補完ということでご勘弁ください。 

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