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獅子と私  作者: sin
時系列を無視した短編集
25/31

隣の国の王様とお見合い②



「なんでやねん…!!」



お見合いから1週間が経っていた。執務室で宰相と向かい合って政務をこなしている王様は、机に突っ伏したまま歯ぎしりした。


王様は荒れていた。荒れに荒れまくっていた。あまりに荒れていたので、衝動的に暴れまわって宰相が大事にしていたペンを折ってしまうくらい荒れていた。

その時の宰相の顔の怖さといったら、その晩夢に出てきたせいで泣きながら起きたくらいだった。物理的に手出しをされなかったことがますます恐怖を煽った。それが傷心の王様のための宰相のささやかな優しさだということに、残念ながら王様は気づかない。





結果的にいって、王様のお見合いは失敗した。

王様は確かに社交界での評判は微妙だが、それでもまごうことなく王様なのである。相手がいくら見惚れるほどの美少女でも、喜んでお妃さまになるくらい偉い人なのである。それでも失敗した。見向きもされなかった。

いや、正確にいうと、美少女の方に見向きをする余裕がまるでなかったのである。



さて、お見合い当日、美少女とのお見合いということで朝から張り切りっぱなしでちょっと甘い恋物語を1人で思い描いてはにやけていた王様は、お見合いの開始3分で、世の中はそんなに甘くないことを知ることとなる。それは、姿絵があまりに正確すぎて美少女が言葉を失うくらい美しかったからでも、お互いに名前を名乗った後に早速会話が続かなくて気まずい空気を味わったからでもない。


開始3分で、美少女がいきなり泣き出したからである。



慌てた王様が美少女に理由を聞くと、美少女は涙ながらに『他に好きな人がいるのにここに連れてこられてしまった』というような趣旨のことを懇切丁寧に説明してくれた。美少女は声まで美しかった。

頭が弱い上に馬鹿がつくほどお人好しな王様は、本来の目的を早々に見失い、まるで一編の物語のような美少女の口上に時に唸り時に涙して、我に返ったときには3時間にも渡る恋愛相談会を繰り広げていたのである。最終的には、王様は美少女の告白を応援する会会長となり、ただひたすら恋敵に告白しようとする美少女を応援するという新種の拷問のような状態になっていた。





「今回ばかりは俺悪くないじゃん!泣いちゃうくらい好きな人がいるのに無理矢理つれてきたお前が悪いじゃん!」

「そこでどうしてご自分に目を向けさせようとなさらなかったんです」

「馬鹿野郎!あんなんに勝てるわけねーだろ!」



恋愛相談会の途中で美少女が姿絵を出してきたのを、よせばいいのに王様は変な意地とプライドで見てしまったのである。そこに描かれていた男に、王様は絶句した。

ちなみに、王様がお見合いから帰ってきて開口一番に言った言葉が「どうせ顔なんじゃねーか!ばーか!」である。中身はおしてはかるべし。



「くそ…イケメンは滅びろ…滅びたまえ…」

「手が止まっているようですが」

「うるさい!滅びる筆頭みたいな顔しやがって!何なの?俺にはいったい何が足りないの?やっぱり眼鏡が似合わないのがいけないの?」

「男らしさでしょう」

「真顔で正論言わないでよ!」



泣きながら仕事を再開した王様は、10秒もしないうちにまた顔を上げた。宰相が胡散臭そうに見てくるのも気にならない様子でしきりに周りを見回していたが、王様は最終的に、小さく首をかしげて唸った。


「なにかくる…?」



その言葉とほぼ時を同じくして、王様の執務室に、見慣れた空間移動の魔方陣が展開された。







王様の執務室は、ある程度は魔術を無効化出来るようになっている。それでもなお堂々と魔方陣を展開できるということは、よほどの腕でないとできないことである。


宰相がすぐさま立ち上がり、まるで王様を庇うように魔方陣の前に立った。それはさながらお姫様を守る騎士のようで、王様は感動しながらも、イケメンはやっぱり違うぜと思っていた。こういうとっさの動きがその人間のイケメン度を決めるのである。つまり、宰相の背中にしがみついて、横からこっそり魔方陣を覗く王様は、イケメン度でいえば底辺といっても過言ではなかった。



「…?」



てっきりあの無責任まっくろくろすけが再び現れたのだと思ったらどうも違うようだった。魔方陣の中心に現れたのは小さな人影で、しかもなんだかとても見覚えのあるシルエットだった。宰相の影から覗く王様にはすぐにわかった。以前、城下で暴漢から助けてやった女の子である。


さほど危険性を感じられず、王様は宰相の背中からひょっこり姿を表して、その人影に親しげに話しかけようとした。



「よう、あんときのちびすけじゃねーか。いったいどうし―――」

「でたわね諸悪の根源!あんたのせいよ!!あんたのせいで!!わたしは!!!」



しかしすぐに遮られ、気安く上げかけた手が宙をさまよう結果となった。

女の子は大きく息を吸い込んだ。嫌な予感に耳を塞ぐ暇もなく、甲高い叫び声が、王様の執務室にこだました。



「人生お先真っ暗よー!!!」





王様、25歳。

執務室で小さな女の子に泣きながら怒鳴られた、初めての体験だった。




相変わらずの急展開失礼いたします。

後一話続きます。

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