四人で夕食①
エリシアとラフィを女子宿舎まで送り、俺は男子宿舎に戻った。
「遅かったな」
宿舎の入り口に入って直ぐ。
構えていたように、入り口付近で声を掛けてきたのはファルトだった。
既に制服から着替え、ラフな格好をしていた。
どうやら二人を宿舎に送り届けている間に、ファルトに追い越されていたらしい。
「待たせたか?」
「いや、おれもさっき戻ったとこだよ。
先に席を取っておくから、着替えたら食堂に来てくれ。
それと、こいつも一緒するが問題ないよな?」
こいつ。と言ってファルトは隣にいた小人族の少年の頭に手を置いた。
身長の高いファルトの隣にいると、まるで親と子だ。
だが、ファルトはどこか飄々とし、掴みどころがない雰囲気だが、
この小人の少年からは、穏やかで優しそうな顔立ちをしている。
よく見ると、先程生徒会でも顔を合わせている一年生だった。
「か、カネド・ライネットと言います。
先程はご挨拶もできず申し訳ありませんでした。
マルス先輩さえ宜しければ、ご一緒させていただいても宜しいでしょうか?」
緊張しているのだろうか?
身体もガチガチで頬も強張っている。
ただ一緒に食事をするということだけで、そこまで硬くなる必要もない。
それを見兼ねてか、ファルトがわしゃわしゃとカネドの青緑色の髪を撫で回すと、
「や、やめてくださいよ、ファルト先輩」
表情を歪め、ほんの少しだがムスッとした語調になるカネド。
「ガチガチの後輩の緊張をほぐしてやろうと思ってたな」
「……もう……」
だが、少し硬さが取れたように思える。
「それじゃ、俺も着替えたら直ぐに行くよ」
「おう!」
俺は階段で三階まで上がった。
部屋に戻り、鞄を置いて部屋着に着替えていると。
コンコン――と扉をノックする音が聞こえた。
俺の部屋に来る人物はかなり限られている。
恐らく部屋の外にいるのは、
「セイルか? 入っていいぞ」
俺が言うと、部屋の扉が開き、
「マルス、良かったら飯でもどうだ?」
予想通り、狼人が部屋に入ってきた。
「おう! 俺も今から行くところだ」
既に夕食は始まっているが、セイルがまだ食べていなかったことが意外だった。
「セイル、もしかして俺を待ってたのか?」
「は、は? なに言ってやがる! そんなわけねえだろうがっ!」
強く否定された。
そこまで強く否定することでもないだろうに。
「そっか。
ま、さっさと行こうぜ。人を待たせてるからな」
「待たせてる?」
誰を? とセイルの目は語っていたが、俺はそれに答えることなく歩き出した。
付いてくれば、直ぐにわかることだからな。
食堂に着き、俺とセイルは今日も勤労に励む家政婦のネルファから食事を受け取った。
今日の夕食も、食べたことがない物ばかりだったのでかなり選ぶのに苦労した。
(どれも美味そうなのが問題なんだよなぁ……)
まさかこんな贅沢な悩みを持つことができるなんて。
「マルス、こっちだこっち!」
名前を呼ばれ目を向けると、ファルトが手を振っていた。
どうやら、ちゃんと席を取っておいてくれたらしい。
なぜか周囲にいる生徒達の視線が俺とファルトに交互に移っていく。
「……なんで編入生がファルト先輩と?」
「まさか、マルス先輩が当代最強に喧嘩を売るんじゃ?」
「いや、ファルトが生意気な編入生を絞めるって可能性もあるんじゃ?」
様々な憶測が飛び交っている。
「……おいマルス、まさか待たせてる相手っていうのは」
眉を顰め聞くセイルに、
「ああ、あそこで手を振ってるヤツだぞ」
「……マジかよ」
自分の目を疑うみたいに、狼人は目を見開いた。
ひらひらと手を振る飄々とした男の姿を凝視しているが、何か不満でもあっただろうか?
「セイル、もしイヤなら無理しなくてもいいぞ?」
「い、イヤじゃねえよ。ただ、意外過ぎる相手だったから驚いただけだ」
意外過ぎる?
どうしてだろうか?
もしや、この学院では年上の人間と飯を食う機会が中々ないのか?
「なにを話してんだ? さっさと来いって。
料理が冷めちまうぞ!」
ファルトに急かされた。
だが、あの男の言うことは最もだ。
折角の至高の料理だ。
最高の状態で食べなければ。
「待たせた。
俺の友達も一緒でいいか?」
「おう!」
俺が腰を落とすと、セイルは俺の隣に座った。
俺はファルトの向かい、セイルはカネドの向かいという形になっている。
「一応、紹介しておくな。俺の友人のセイルだ」
ファルトとカネドに狼人の紹介をすると、
「セイル・ルハウルです。
ファルト先輩、宜しくお願いします。」
もう一度、セイルは自分から名前を名乗った。
耳をピンと立たせ、荒っぽいこの狼にしては珍しい殊勝な態度。
こいつは本当にセイルなのか?
(実は誰かが魔術で、俺に幻覚を見せているのでは……?)
心配になった俺は、
「――っ……お、おい、なにをしやがる!」
セイルの耳を触ってみた。
うん、幻覚ではない。
確かにこの狼耳に触れている。
温かい体温もあるし、モフモフとした感触もある。
「いや、てっきり幻覚でも見せられているのかと思ってな」
「……は? なに言ってんだ?」
如何にも頭のおかしそうな人を見るようなセイルの目。
俺は耳に触れていた手を引いた。
「ははっ! お前ら仲がいいな!」
俺達を見ていたファルトが、そんなことを言って笑った。
なぜ今の様子を見て仲がいいと判断したのかわからないが、
そう言われて悪い気はしない。
「俺の数少ない友達だからな」
「まだ編入してきたばかりなんだ。
これからもっと多くの友達ができるさ」
ファルトは言った。
本当にそうなってくれたらいい。
そうだ――もしファルトさえよければ、
「セイル先輩、カネド・ライネットと言います。
生徒会に所属しています」
俺が口を開く前に、小人の少年が会釈をした。
緊張も解れたのか、かなり自然体だった。
「おう」
折角の後輩の自己紹介にも、セイルはむくれっつらだ。
「無愛想だな」
「も、元々だってえのっ!」
そのことに突っ込むと、声を荒げるセイルだったが、
「まあまあ落ち着けって。
全員紹介も終わったんだ、そろそろ飯にしようぜ」
ファルトはニヤッと笑みを浮かべた。
昨日はエリシャがいなくなって、少しだけ物足りない気分の夕食の時間だったけど。
今日は賑やかになりそうだ。




