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第4話:告白



 僕は衝動的に月波学園の芸能科の敷地内にやってきた。


「来たはいいけどこれからどうすれば・・・」


 既に昼休みは終わっている。


 それに、芸能科の時間割は、外からの犯罪行為などを防ぐ為に、普通科の生徒にも教えられていない。


 つまり、十朱がどこにいるか全く分からない状況だ。


「適当に探すしかないか」


 と、僕が言った時、


「こら!そこの生徒何をしている!?」


 と、誰かに思いっきり怒鳴られた。


「―――やべっ」


 ここでつかまると確実にマズイ事になる。


 唯一の幸運は、制服が同じという事で、顔さえ見られなければバレないという事だ。


 僕はその場から思いっきり駆け出した。


「こら!待ちなさい!!」


 そう言われて待つのはただのバカだろ。


 それに毎朝10キロ、毎夜15キロのランニングを日課にしている僕に勝てるはずがない。案の定、職員だろう人物との距離は離れて行き、そして見えなくなった。


「よし。まずは大丈夫かな」


 辺りの安全を確認した僕は、建物の角に隠れて、これからどうするか考える。


 最終目標は十朱に会う事だ。そこから先は・・・まあ何とかなると思いたい。


「さて、そろそろ行こうか―――っと!?」


 角から出ようとした時、誰かがくる気配を感じて、僕は再び建物の角に隠れる。


「ねえ、こんな所まで連れてきてなんのつもり・・・?」


 女の声だ。


 声音から察するに芸能科の生徒っぽいな。


 でも気配は二人だったからもう一人いる筈だ。


「いいだろ別に。俺もう我慢できねえよ」


 もう一人は男だ。


 声音自体は若いが、どうも高校生っぽいとは言えないな。


「全く、どこのバカップルだ。俺が職員に怒られたって事は確実に今は授業時間だろ。勉強しろべんきょ―――ってマジ!?」


 その二人のカップルはあろうことかいきなりキスし始めたのだ。


 それも舌を下品に絡み合わせるアダルティなやつを。


 つかアホだろあいつら。発情した猿か。


「って、あの男。教師じゃないか・・・?」


 僕は少しだけ顔を出しながら今一度確認すると、その男は制服ではなくスーツを着ている。


 少なくともこの学園内では、生徒は制服着用のはずだ。


 つまりこれは、生徒と教師の禁断の関係ってやつか・・・。


「こんな事に出くわすとは・・・。とりあえず写メ撮っておくか」


 そう言って僕は。ポケットからカメラを取り出し、教師と生徒の情事を撮影する。ちなみにこのカメラ、エマが改造したせいでシャッターオンが出ない優れものだ。「これで女のパンツ・・・特に私のスカートの中を撮れ」と言われ渡され、一度も使用しなかったカメラが役に立つときがくるとは。


 ちなみの僕はこの写真で彼らを脅したりはしないし、これを誰かに見せびらかしたりもしない。


 でも決まってああいう教師は、複数の女子生徒と関係を持っている可能性がある。


 だからこの写真で止めさせるのだ。その関係を。別に完全に関係を絶てというわけじゃない。高校を卒業するまで我慢させるだけだ。


 その後は当人しだいだからどうでもいいことだが。


 まあそれは今は置いといて。


 大事なのはどうやってここから抜け出すかだ。だけど、今出れば確実に見つかる。それは少し避けたい所だった。


「何か・・・・あ、これは使えるかも」


 僕は、石を一つ手に取り、それを思いっきり空高く放り投げる。


 そして、綺麗な放物線を描きながら石は、遠くの地面に、「ゴトッ」という音を立てて落下した。


「「!!??」」


 情事・・・といってもディープキスだが・・・にふけっていた教師と女子生徒は驚いたように石が落ちた場所を向いた。


 僕はその隙に、彼らが向いている方向とは逆方向に向けて走り出した。音を立てず、そして出来るだけ速く。


 そして、しばらく走り続けて、僕は、体育館の倉庫に忍びこんだ。


 流石にここなら誰も来ないだろう。


 と、思っていたのだが、再び誰かが来た気配がした。それもかなり複数人。


 そして、その誰かは、ゆっくりと体育倉庫に近づいてくる。


「嘘だろ。僕運無さすぎ・・・」


 流石にこの体育倉庫では隠れる場所は・・・一つしかない。


 くそ。仕方ない。


 僕は覚悟を決め、その隠れる場所・・・跳び箱の中に、いそいそと潜りこんだ。


 僕が潜り込んだと同時に、体育倉庫の扉が、鈍い音を立てて開けられた。


 なんてギリギリなタイミングなんだ・・・。


「えーと、今日の授業では、バスケットをするんでしたよね?」


 ・・・・・・・・・・・・この声は。


「ええそうよ咲。でもあなたは見学だけどね」


 やっぱり十朱だったのか・・・。


「それは岬さんもですよ?」


「そうね。私もあなたと同じ音楽専攻だからね」


 どうやら、専攻科目のせいで体育は見学せざるおえない、十朱と、その友達であろう岬さんという人が、せめて授業の準備だけでも、という事で来たのだろう。


 まあ、何というか十朱らしい。


 二人は得点ボード2つと、バスケットボールが入った籠を持って、そのまま倉庫を出て行った。


「・・・・ふう」


 ひとまず危機が去り、一安心も溜息を吐く。


 流石に今から話しを使用としている女子に見つかるのはマズイ。


 もし十朱に変態だと思われたら話し所ではなくなるのだ。


「まあ授業が終わるまで待てばいいか」


 と呟いた瞬間、再び倉庫の扉が開いた。


 そして入ってきたのは十朱と、その友達である岬さん。


「ねえ咲。あなた昨日合コンに行ったんでしょ?どうだった?」


「どうだと言われましても。楽しかったですよ?」


「まあそりゃあ、あなたのそのスタイルを見て喜ばない男はいないわよ」


「ひあっ!ちょ、ちょっとやめて下さい岬さん!」


 どうやら岬さんが十朱のあの豊満な胸を揉んだようだ。


 ・・・・・・・・・・・・いや別に何も感じないが。


「ああ。ごめんなさい。あなたの胸は優聖様専用だったわね」


 優聖・・・。


 おそらく十朱の許嫁である鏡正院の事だろう。


「別にそういう事では・・・」


「そう照れなくてもいいわ。それに昨日は優聖様に迎えに来て貰ったんでしょ?」


 その言葉で、昨日の事が思い出された。


 鏡正院に背中を蹴られた事。


 そして何より、十朱の前で恥を晒した事。


「・・・・・・はい」


「あら?どうしたの元気がないみたいだけど」


「いえ。別になんでもありませんよ岬さん」


「そう?まあ優聖様が許嫁じゃ合コン自体は面白くても魅力的な男はいなかったでしょ?優聖様よりカッコいい男なんて高校生にいる筈ないしね」


「そんな事ありませんっ!」


 十朱のその叫びに、岬さんはおろか、跳び箱に入っていた僕までビックリした。


「あ・・・。すいません岬さん」


 大きな声を出した事を謝る十朱だが、岬さんは既にそんな事はどうでもいいのだろう。


「え?咲もしかしてあなた、誰か気になる男性でも出来たの?」


 岬さんが「男」から「男性」に呼び方を変えたのは、何故だろうか?


「・・・・・・はい」


「優聖様より?」


「・・・はい。それに私はもともと鏡正院様に対して恋愛感情は抱いていません」


「あなた・・・何を言っているのか分かっているの?」


「もちろんですよ?」


「いいえ。分かっていないわ。あなたと優聖様が結婚するのは既に決定事項なのよ?それを今更好きじゃないっていって止め―――」


「はい。私は鏡正院様と結婚する覚悟は既に出来ています」


 それは、矛盾を呼び起こす言葉だ。


 当然ながら岬さんも混乱をきたす。


「つ、つまりこういうことかしら。優聖様と結婚はするけど愛してはいない」


「そうです。より正確に言うならば鏡正院様を愛することはありえないとなりますが」


 その言葉の意味する事を理解したのだろう。


 岬さんの醸し出す雰囲気が明らかに変質した。


「あなた・・・本気なの?」


 そして、十朱もその言葉の意味することを理解しているのだろう。


「はい。私は今日、岬さんだけには今から言う事を伝える覚悟をして参りました。場所が少々問題ですけが」


 そして十朱は一拍置き、行きを僅かに吸った。


「私には既に―――」


「止めなさい!それを言ったら後戻りは―――」


 しかし十朱は止まらない。


「―――お慕いしている殿方がいます」


 そして、十朱は言ってしまった。


 想いは、言葉にだせばもう取り返しがつかない。例え聞いている人間が一人だとしても、言ったという事実は消えないのだ。


「・・・・・相手は誰なの?」


 岬さんは俯きながらそう尋ねた。


「秘密です」


「~~~~勝手にしなさいっ!」


 駄々っ子のように叫ぶと、岬さんはそのまま倉庫から出ていってしまった。


 僕は、恐る恐る、跳び箱の隙間から、十朱を見た。


 十朱は、微かに震えながら、両手を胸の前で組んでいた。


 そして―――


「・・・・・・・瀬亜くん」


 そう小さく呟いた。


 ―――もう、限界だった。


 僕は、跳び箱の一段目を押し退けた。


 鈍くて大きな音を鳴に、びくっ身体を震わせた十朱は、更に僕の姿を見て、驚愕に瞳を見開く。


「え!?瀬亜くんっ!?ど、どうしたんですかっ!?なんでここ――――」


 そんな十朱を、僕は思いっきり抱きしめた。


「ぁ・・・」


 小さな声を出し、僕の腕の中に入り込む十朱。


 その折れてしまいそうな身体を抱きしめながら、僕ははっきりと思った。


「ねえ」


「は、はい。なんですか・・・?」


「―――――僕は、あんたが好きだ」


 そして、それが全ての始まりだった―――。


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