対峙する天使達と悪魔は
最初に動いたのは、ロディだ。
キルヒェンリートの専用武器、銃鎌を構えると、エネルギー弾を放つ。
だが……
『案の定、弾かれるか……』
通信越しにロディの声が響く。ここまでは想定内。というのも、疑似怪獣が障壁を張る確率が高いため、カタストロイ本体もより強固な障壁を張るだろうと、予想されていたのだ。
「どうされるんです? ロディ副隊長殿?」
アイクが尋ねれば、ロディからすぐに返答が来た。
『とりあえずデータ収集だな。現時点では、カタストロイ本体は倒せん。逃げ出すように仕向けるしかないだろう』
今までの戦闘履歴において、カタストロイ本体を討伐出来た記録はない。というのも、強敵なのは勿論、少しでも弱まると撤退して行くからだ。
その撤退時に、信徒になったものを疑似怪獣にして行く事が多く、その対応で終わってしまう。
勿論、カタストロイ本体が出現していない場合でも、信徒が疑似怪獣になり、対処する事も今まで幾度となくあった。
それ故のアイクの疑問。
(この状況下において、信徒はどこにいるんですかね?)
ハワイ諸島の住民達は、全員シェルターの中。加えて、信徒かどうかの検査も念入りにされている。
だからこその違和感。
何が起こるかわからない故に、アイクは警戒心を上げた。
それはロディもシャオも同じだったらしい。
陣形を組み、カタストロイ本体からの攻撃に備える。カタストロイは全身を震わせ……吠えた。
途端、突風が吹き荒び、機体が揺れる。
(くっ! トーデスでも揺れますか……この野郎)
トーデス・エンゲル、ヴュルク・エンゲル、シュッツ・エンゲル。
アイク、シャオ、デューイとハナの乗るこの三機には、特徴がある。
それは……いずれも十字架小型兵装を所有している事。
当然、三機が共通して持っているのには理由がある。だが、その機能を利用するのは今ではない。
金のラインが入ったトーデスと、銀のラインが入ったヴュルクが並んで、キルヒェンリートの前に立つと障壁に向かって二機とも、特殊な実弾を放った。
考えていた事が同じであった事に、アイクは複雑な表情をするが、パイロットスーツを着ている状態かつ、機体の中では見えるわけもない。
(シャオジェン・レェリャン……アンタ、何のために戦っているんですか?)
口に出して聞きたい言葉を飲み込むと、アイクはシャオに通信を入れる。
「シャオジェン曹長、自分が前に出ますので、副隊長殿をお願いしますよ?」
『わかったぞー! まかせろー』
相変わらずの彼に、アイクはあえて私情を無視する事にした。そうでないと、戦えないからだ。
キルヒェンリートは、単機では本領を発揮できない上、この状況では不利。
援軍が来るのを待つしかないだろうと、アイクは既に覚悟を決めていた。
上空で滞空しているズィーゲリン内で、今まさに発進して来るであろう残りの仲間達の事を――




