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事態は突然始まるもの

 アルプ機関の調()()()()が来てから、三日が経った。

 その間、特に何事もなく時が過ぎて行った。


(なんだ、大した事ないじゃないか)


 アーレント含めた隊員達がそう思い始めた頃の、午後の訓練終わり。今日の夕食までまだ時間がある。

 休憩時間の間だけでも、コールフィールド姉妹と……特にラヴィニアと会話がしたいと思っていた。完全に下心だが、どうしても彼女と親密になりたいのだ。

 それくらい、惹かれているのだ。彼女に。

 二人はいつも一緒に行動している。だから目立つはず……なのだが。


(おかしいな? どこにいるんだ?)


 普段ならすぐに見つけられるはずの二人が、見つからない。不思議に思っていると、倉庫の方向からセルジュが歩いて来た。

 声をかけようとして、その瞳にゾッとした。

 彼の目は……虚ろだった。


「セルジュ? どうしたんだ? セルジュ!」


「あぁ、アーレントか。なぁ、お前ラヴィニア()に惚れてたよなぁ。今なら、いいぞぉ……」


(様? 何を言っているんだ? 同僚だろう?)


 違和感を覚えつつ、アーレントがセルジュに近寄ろうとして不意に腕を掴まれた。予想以上に強い力に驚いていると、そこにいたのは同僚の一人だった。


「なんだ、ビックリさせる……な?」


 そこで言葉が詰まる。何故なら、その同僚の瞳も虚ろだったからだ。


「お、おい。お前どうしたんだよ? なぁ!?」


 流石に身の危険を感じたアーレントは強引に腕を引き離すと、彼から距離を取る。周りを見れば、虚ろな目をした同僚達に囲まれていた。その中にはセルジュもいる。


(何がどうなっているんだ!?)


 動揺しながらアーレントは必死に逃げ道を探す。だが、完全に包囲されていて、逃げ場がない。

 どうするべきか? 冷や汗を垂らしながらアーレントが思考を巡らせている時だった。

 突然、耳に響く不協和音が聞こえて来た。途端、同僚達が次々と倒れて行く。どう見ても異常だった。


「い、一体なにが?」


 困惑するアーレントに、若い女性の声が響いた。


「アーレント・ボーイェン少尉! こちらに! 急いで下さい!」


 声の主はアルプ機関から来たという、ハナだった。彼女は肩掛けの黒いボックス型のスピーカーを抱えながら、アーレントを手招きする。


「こちらへ! 疑似怪獣(ハイ・カタストロイ)が動き始めました! この基地内に、()()しているんです! それも、とてつもない速さで!!」


「は……?」


 状況が飲み込めない。だが、彼女に着いて行かなければ、自分の身が危険である事だけは本能で分かった。

 体格に似合わず、動きが素早いハナの後に続く。

 急いで向かえば、そこは司令室であり、他にも何人かの隊員達が避難して来ていた。

 その中心で、司令とアルプ機関の調査員達の()()()()と紹介されたハリスが話し合っていた。その表情は真剣であり、事態が深刻である事だけは理解できた。


(何が起こっているんだ……?)

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