【9】
街に出ても、清覧はどこか浮かない顔をしていた。
「どうしたの? らしくないよ」
「……ほんと、らしくないよねー……」
「そうだよ、清覧はいつも元気なパリピでしょ?……私みたいな陰キャと違って」
ぼそっと付け加えて、ああ、中身はやっぱりそう簡単には変わらないなと自覚する。
清覧は並んで街を歩きながら、ビルのショウウィンドウをちらりと見やった。片時も手放さないスマホを握る手にちからがこもった気がした。
すぐに目をそらして、清覧はどこか苦いものを含んだ笑みを浮かべて言った。
「や、俺こう見えて元いじめられっ子ですから」
「…………へ?」
意外な事実に間抜け面をさらす瑠衣に、清覧は他人事のように笑って語る。
「実はガキの頃はトロくてさー、女みたいな顔だったし、運動神経ゼロだったし、挙句の果てには幽霊見えるとか言い出すし、よく『ついてんのかよ? ギャハハ!』っていじめっ子にパンツ下ろされてたワケ。中坊のころまで続いたかなー。最終的には結構エグいこともされたりして。んで、高校デビューでパリピの真似事してたらいつの間にかこんなんなっちゃった。やばたにえんっしょ?」
簡単そうな顔をして過去を明かす清覧。しかし、こういう陽キャは自身の陰の部分を見せることをなにより恐れるということぐらい、瑠衣にでもわかる。現にこうして、必死に明るく取り繕って笑っている。
「……わかるよ」
無性に胸が痛んで、瑠衣は清覧の瞳をまっすぐに見つめた。
「私もいじめられてたから。辛かったよね……でも、清覧は強いひとだよ。私と違って変われたんだもん。幽霊でもないのに、自分のちからで陽キャになってさ。自分を変えるって、すごい勇気がいることだって私わかったんだよ。そりゃあ、辛いっていっても今までのぬるま湯につかってるほうが楽だもんね」
「…………」
「けど、清覧は『これじゃダメだ!』と思ったから変わったんでしょ? すごい勇気だよ。それで今はこうして陽キャな清覧として人生楽しんでるんでしょ? だったら、なにも気負う必要ないよ。それって誇れることだよ」
つたない言葉で力説する。言葉では足りないような気がして、瑠衣はぎゅっと清覧の手を握った。直後、自分のしていることに気付いて慌てて手を引っ込めようとする。
「あっ、ごめ……私みたいなのに触られて、キモいよね……」
「……いや、」
引っ込めようとした手をぎゅっと握り返された。いつしか清覧の笑みからは苦いものが抜けていて、代わりに照れくさそうな色が差している。
「なんか、マジ語りして正直引かれるかと思ったんだけど……うん、これでよかったんだよな。俺、間違ってなかったんだよな」
「……清覧は、間違ってない」
「……瑠衣ちゃんにそう言ってもらえて、すげーこころ軽くなった。スカッとしたっつーか……ありがとね」
そう言って、清覧は瑠衣の手を両手で握った。そして、どこかやさしげに笑う。陽キャなパリピの仮面をかぶっていない、素のままの清覧の笑みなのだろう。
「瑠衣ちゃんはイイコだね」
「わっ、私なんか……清覧と違って、結局変われないまま死んじゃったんだし……」
「今からでも遅くないって。変わろ。瑠衣ちゃんにならできるよ」
生ぬるい幽霊の体温に、生者のあたたかい体温が流れ込んでくる。それがなんだかくすぐったくて、うれしくて、瑠衣は控えめにこくりとうなずいた。
「……おい、公道でなにしてる。こいつは普通のやつには見えないとはいえ、邪魔だ」
そんな折、横合いから密の不機嫌そうな声音が届いた。慌てて手をほどくと顔を真っ赤にして、
「ち、違うんです! これは、なんていうか、いじめられっ子同士のシンパシー? みたいな? そんな感じでして!」
「えー、そうなの? 俺はてっきり瑠衣ちゃんが俺のこと……トクン……みたいになっちゃってたんですけどー!」
すっかりいつもの調子を取り戻した清覧が大げさにため息をついて誤解を招く発言をする。瑠衣は赤い顔のままわたわたと手を振り、
「えっえっ、そんな、私みたいなもんが陽キャパリピ様に恐れ多い……!」
「またまたー、さっきあんなに情熱的に――」
「あー! わー! ごめん言いすぎた! 偉そうなこと言いすぎた! ごめんなさい許して!」
「……あはは、冗談冗談!」
かしこまる瑠衣の肩を強引に抱き寄せる清覧。
「さて、イツメンもそろったことだし、とりまカフェでも行くべ!」
爽快に笑う清覧に、先ほど見た影はカケラもなくなっていた。
陽キャにもいろいろあるんだなあ……と感慨深く思いながら、瑠衣たちは連れ立って近くのオシャレカフェへと向かった。




