第30話 ストーカーと女生徒と私
ディアナと一緒に廊下の角を曲がると、男子生徒とぶつかりそうになる。
いけない、ついうっかりしてたわ――この学園の廊下は基本、右側通行。
騎士クラスや戦士クラスの生徒が武器などを持っていることもあるから、危険防止のためにそれは厳しく決められていた。
「あっ、ごめんなさい」
「エ、エリナゼッタ様」
「えっ!? ケインじゃない」
「はい」
思わぬところでエビの幼馴染のケインと出会った私。
隣のディアナはそれを気にもせず、楽しそうに私の腕に絡みついている。
「おい、急ぐぞ」
彼の隣、剣を腰に差した男子生徒がそう言った。
たぶん騎士クラスの生徒で彼の友達だろう。
「あ、後から行くから」
「わかった」
ケインが言うと友達はそう頷く。
友達は私とディアナに一礼すると踵を返し、一人、廊下を奥へと歩いていった。
「ねえ、どこに行くの?」
どこに行こうか悩んでいた私は、つい彼に訊いてしまう。
もう、そんなの彼の勝手じゃない。授業かもしれないし――そう思い直すと、私はすぐに謝った。
「あっ、ごめんなさい。そうよね、どこでもいいわよね」
「いえ。実は彼の友人の女生徒が、最近、悪質な付きまといにあっているらしくて」
「えっ!? それは大変ね」
「ええ」
こちらの世界でもストーカーとみたいなものがいるのか――そう思った瞬間、ディアナが私の腕を引っ張った。
彼女は小さな口をきゅっと結ぶと、その可愛らしい顔を私に向ける。
「お姉さまも気をつけないといけませんですわ」
私は静かに首を横に振って答える。
「大丈夫よ、私なんか。それよりディアナのほうが可愛いんだから、気をつけないと」
私なんかより、あなたのほうが可愛いじゃない――そんな素直な気持ちをディアナに伝えると、私は自然にその黒髪に指でそっと触れた。
嬉しそうに目を細めたディアナ。さらさらの良い髪ね。
「いえ、エリナゼッタ様のほうが……」
ケインが小さく呟いた。
「えっ、何?」
その言葉に髪を触っていた手を止め、彼へと顔を向けた。
ケインが一歩近づいていたことに気づかなかった私は、間近に彼の瞳があることに驚く。
そのまま数秒間、表情を固めた彼は、顔を真っ赤にすると私から視線を逸らした。
「そ、その――エリナゼッタ様のほうが可愛い……いえ、美しいので気をつけたほうがいいかと」
恥ずかしそうに小さな声で話すケイン。
「もう、ケインまでそんなこと言うのね」
もう美しいとかそんなわけないじゃない。
「い、いや、冗談とかじゃなくて」
その彼のようすに首を傾げる私。それをじっと見つめるディアナ。
そして、ケインはそのまま下を向いて黙り込んだ。
やだ、怒っていると思われたかしら。
「ねえ、私も一緒に行っていいかしら?」
気まずさもあり、私は話を変えることにした。
ストーカーも気になるし。
「えっ……いいんですか?」
「ええ。男二人より女の私たちのほうが、話しやすいこともあるかもしれないし」
「それも……そうですよね」
彼はふと顔をあげると、真剣な顔でこちらを見つめた。
「一緒によろしいですか?」
「いいわよ。ディアナは一緒にいく?」
「お姉さまと一緒がいいですわ」
ディアナの返事とともに、ケインは前を向くと「こちらです」と言って踵を返す。
そして、私たちをストーカー被害者のもとへと案内してくれたのだった。
【第一部・完】
突然の事件、そして悩める女生徒。
エリナゼッタとエビ、そしてケインたちは――?
物語が大きく動き出したところで恐縮ですが、
本作品の構成の見直しと改稿作業のため、連載はここで「第一部完」として区切りをつけさせていただきます。
ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました!
また新しい形の作品でお会いできる日を楽しみにしています。
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