第26話 食堂と私(1)
「しかし……綺麗な庭ね」
次の日、私は学園内の食堂で一人、昼食をとっていた。
エリナゼッタには友達がいないわけではない。むしろ、エビが嫌っているジュリエ嬢などが、授業の合間には私の周りに集まり多少の雑談などをしている。
「ランチは、前から一人でゆっくり食べていたみたいね」
学園に入りたてのころは複数人で食べていたらしい。だが、他の生徒が学園外のレストランなどで食べる中、彼女は食堂の料理を食べることを選んだ。
少しでも学業に当てる時間が欲しいと皆には話していたらしかったが、たぶん一人でいることを好んだのだろう。数理応用学もそんな感じだし。
「お姉さまああああ」
ちょうど紅茶を一口飲んだタイミングで、ディアナの声が食堂に響いた。
戦士クラスの彼女がここに来るのは珍しい。一般クラスとは授業の組まれ方が違うので、昼休みの時間が合わないからだ。
「どうしたのディアナ?」
「うーん、お姉さま。今日もすべすべで気持ちいいですわ」
私の言葉も気にせずに、彼女は後ろから腕を絡ませると頬を擦りつけてくる。
ディアナって本当に可愛いし、すべすべの肌も凄く気持ちいい。
そんなことを思うが、それは言わずにもう一度訊いてみた。
「ねえ、授業は?」
「クラスの模擬戦で全員を秒で倒したら、今日はもう帰っていいと言われたのですわ」
「えっ!? そ、そうなのね……」
「で、お姉さまに会いたくて、急いできたのですわ」
戦士クラスは男子生徒がほとんどのはず……そこで全員を秒で倒すとかありえるのかしら。
そんなことを考えながら、豊かな香りがするスープを口にした。
うーん、これ美味しいわ。
心の中でそう思いながら、楽しそうな視線をこちらへ向けているディアナに気がついた。
「ねえ、お昼は?」
「さっき、携帯食を食べたので十分ですわ」
「えっ……これ、食べる?」
秒で倒したのは大げさにせよ、模擬戦をやったのだ。携帯食だけじゃお腹が空いているだろうと、私はパンを半分ちぎって渡してやる。
すると、ディアナは瞳を輝かせ、私に向かって言った。
「い、いいのですか、お姉さま!?」
彼女の可愛い唇が、言葉に合わせて踊るように動いていく。それと同時に左手でパンを受け取ると、その唇の間に入れていった。
そのままの状態で食べるのね。
私はそう思いながらも、中庭へと目をやった。
色とりどりの花々。まるで舞踏会の正装をまとった男女が、風に合わせて優雅にダンスをしているようだ。
「ねえ、綺麗ね」
「はい、お姉さま」
と、一応は返事はするものの、私のほうを見続けるディアナ。
もう、庭のことを言っているのに……そう思った時だった。なにやらざわつく人だかりが、周囲を取り囲んでいる。
「何か騒がしいわね」
私はまた、皆が「あのお茶会のことを噂しているのだろう」と思っていた。
何か聞かれても「ええ」とか「そうね」とか愛想笑いをするくらいの反応しかできない。それが面倒だから、一人で食べていたのに……。




