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乙女ゲームに転生したら主人公の姉でした  作者: こねこねこはる


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第25話 勉強と妹と私(2)

「うーん、分からないわ……どうして、これがここに入るの?」

「それはですね。この教本のこのページに」


 たぶん、かなり基礎的な質問もしているのだろう。彼は教本のかなり前のページを開くと、丁寧に説明してくれる。


「そうなのね。ここがここに入って、こうなるのね」


 私が書いた式を見ると、彼は笑顔を見せた。


「そうです。エリナさま」

「よかったあ。ねえ、休憩しない?」

「はい」


 彼はそう返事をすると、近づけていた席を少し離して座り込む。


「ごめんね。自分の勉強もあるんじゃない?」

「だ、大丈夫です。帰っても家の手伝いをするだけなので」

「そうなの。大変ね」


 家は商家とかいってたっけ……あれ、妹さんはどうなったのかしら。


「そういえば、あの本はどうしたの?」

「ああ、妹が大変喜んでました。ありがとうございます」

「そう、よかったわね」


 彼の言葉に安堵した私は、ふと窓の外にある大時計を確認する。それは迎えの馬車がもう着いている時間だった。

 早くしないとアメリアとエビを待たせちゃう。


「でも、まだ分からないところがたくさんあるのよね」


 私の質問を彼が答えてくれるのだが、その答えが分からず、また質問するの繰り返し。

 いくら時間があっても足りない……でも、嫌な顔をせずに丁寧に答えてくれる彼。本当、優しいのが救いだ。


「ねえ……妹さんの具合ってどうなの?」


 妹さんのお見舞い。それなら、彼の家に行って勉強を教えてもらえるかも……そんな打算的な考えで出た言葉だった。


「うーん、それがかなり悪いらしくて」

「それは心配ね」

「はい。それで読みたいと言ってた本を読み聞かせているのですが、僕だと上手くなくて」


 よし、それを口実に勉強を教えてもらいに家にいこう。


「それ、私じゃ駄目かしら?」


 そう提案した瞬間、すぐ背後から小さな叫び声が上がった。


「えっ!? お姉さま」


 振り返るとエビが目を丸くして立っていた。

 その横には侍女のアメリアもおり、二人は帰る時間になっても出てこない私を探しにきたのは明らかだった。


「ご、ごめんなさい。待たせちゃって」

「そ、それよりお姉さま。ここで何をしているのですか?」


 エビは彼を睨みつけながら、そんな質問を私にする。


「ヴァルに勉強を教えてもらってたの」

「勉強ですか? お姉さまが?」

「そうよ。ヴァルがね、教えるのが上手いのよ」


 エビはその言葉を聞くと、「お姉さまより優秀な人なんて」とつぶやく。そして彼女がヴァルに視線を送ると、彼は気まずそうに顔をそむけた。

 それを見て、エビは再び私に質問をする。


「読み聞かせって何ですか?」

「ええ、彼の妹が病気らしくて……そうだ。エビって読み聞かせ得意よね」

「えっ、あっ、お姉さま、覚えてくださったのですか?」

「もう、当たり前じゃない。大事な妹のことですもの」


 エリナゼッタの記憶を拝借しただけだが、エビは月に一度、教会で読み聞かせのボランティアをしているのだ。それも評判がいいみたい。

 私の言葉に急に上機嫌になるエビ。


「ねえ、ヴァル。妹も一緒でいいかしら?」

「はい。大丈夫です」


 私の言葉に笑顔で答えてくれる彼。

 よし、これでエビに妹の読み聞かせを任せて、勉強を教えてもらう。

 しかも、彼のエビへの好感度も上がるし、いいことだらけじゃない。


「ところでお姉さま。さっきから彼のことをヴァルって呼んでますけど」

「そうね。ヴァルでいいって言ってくれたの」

「お姉さまから訊いたのですか?」


 私から彼に訊いたことを、さらに目を丸くして驚くエビ。そんなに驚くことなのかしら……少し不安になる私。


「そうよ。ダメ……かしら?」

「いえ、お姉さまが……いや、お姉さまのことだから何か……」


 私の答えにエビが何やらぶつぶつ言い出した。すると、アメリアが私のほうへと一歩近づいてくる。


「お嬢様、お二人でストロム様の御屋敷にいかれるのですか?」

「そうよ。彼の妹のお見舞いに」

「なら、私もご一緒します。良家のご令嬢二人だけだと変な噂を立てられかねませんので」

「そ、そうね。お願いするわ」


 私がそう返事をすると、「ストロム様、日程は後日調整させていただきます」と丁寧に挨拶をするアメリア。

 少し大事になったけど、まあ、彼に勉強も教えてもらえるし。

 そんな軽い気持ちでいた私だった。


 ☆


 帰りの馬車の中で、エビが突然声を発した。


「あっ、分かりました。お姉さま」


 その声にアメリアと私はビクッと驚き、彼女を見つめる。その顔は満面の笑みを浮かべ、私に視線を向けていた。


「優秀なお姉さまが勉強を教わるなんて……おかしいと思ってました。わかりました。お姉さまは彼の妹さんのことが心配で、お見舞いにいく口実のために勉強を教わったのですね」


 そう堂々と私に言った彼女の瞳は、姉への尊敬に満ちていた。

 勉強を教えてもらうのが先なのだが、そうとも言えずに私は一つ、大きく息を吐く。

 そして彼女の期待に応えるべく言った。


「そうよ。彼の妹の具合が良くないらしいの……だから、読み聞かせお願いできるかしら?」

「はい、お姉さま。私、頑張ります」


 エビはそう元気よく返事をすると、「やっぱりお姉さまは聖女です」とつぶやく。

 そして、嬉しそうに私の腕へと絡みついたのだった。

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