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乙女ゲームに転生したら主人公の姉でした  作者: こねこねこはる


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第2話 転生した私(2)

 もう、駄目。すべて終わった。

 いろいろな意味でそう思う、私。

 しかし次の瞬間、なぜかすっと自分の背筋が伸びた。そして自然と口から言葉を発する。


「おはよう、ディアナ」

「あっ、おはようございますですわ。お姉さま」


 彼女はベッドの上で品よくと座りなおすと、綺麗なお辞儀で私に挨拶をする。


「ベッドに勝手に入られると、朝起きた時にびっくりするわ」

「んー、昔が懐かしかったのですわ。勝手に入ったのはお詫び申し上げますですわ」


 その時、なぜか思い出した。家が近く歳が近かった私たちは、三人はよく一緒に遊んでは同じベッドに寝ていた事を。

 あれ、こんな記憶、どうしたのかしら。

 しかし、妹は……こんな顔だったかしら。

 記憶が不透明ながらも、違う顔だった記憶もあった。

 自分のものか、他人のものなのか、分からない記憶に戸惑う。でも意外と冷静にそれを受け入れる、私。

 自分自身に疑問を感じた私は、思わず視界を下に向けた。


「えっ!?」


 目に映ったのは自分の髪の毛。

 艶やかな金髪。

 あまりの変色ぶりに思わず手で触って確認する。


 わわわ、私の髪だ。


 そして、そのまま周囲を見渡した。

 小さなアパートに一人暮らししていたはずの私。


 何で!?


 広く豪華になった私の部屋。リフォーム? そんな訳ないじゃない!


「ここは? どこ?」


 ☆


「いつものお部屋ですが?」


 声のする方向を見ると、扉のそばに人が立っていた。少し青みがかかった落ち着いた感じのドレスの女性。

 私、あの人知っている。


 あっ、そうだ、侍女のアメリアだ。


 なぜか名前が出てきた。赤い髪が特徴的な背が高い女性。

 少し呆けた表情のディアナを見つめ、彼女ははっきりとした口調で言った。


「ごほん、お二人で楽しそうに話されていましたね」

「あっ、ごめんね。ノックに気がつかなったのね」


 自然と出てくる言葉に違和感がない。そう戸惑い再びディアナを見ると、アメリアが言った。


「ディアナ様、勝手に来られては困ります」

「えっ、何でですの?」

「バーバラが『お嬢様が部屋にいない』と」

「私を探して……大変ですわ」


 彼女はひょいとベッドから降り、すたすた歩いて二歩目でふと立ち止まる。そしてこちらを振り返り、白く可憐な右手を差し出した。

 指先まで綺麗……そんな感想で頭がいっぱいになる。


「お姉さま、それではまた登園時にご一緒しましょう、ですわ。」


 彼女は微笑み、そう言うと扉から出て行った。


「本当に……自由なお方ですね」


 アメリアは彼女が出て行った扉を見つめると、少し息を吐きだすように言う。

 先程の緊張から解き放された私は、気が緩んでいたのだろう。

 出ていったディアナの笑顔に心を少し、いや全部を奪われていた。


 あの子、可愛すぎいいいいいいいいい!!


 私の心の中ではテレビに映っていたアイドルが今まさに目の前に出てきた、そんな感じの気持ちである。

 その言葉を心の中で二十二回目叫び、まさに二十三回目のループに入ろうとした時……アメリアの言葉に気がついた。


「………………あっ、そ、そうね」


 私は不思議そうに見つめるアメリアに笑顔で返事をする。


「お嬢様、ご体調がすぐれませんか?」

「だ、大丈夫よ」


 しばらくぼうっとしていた私を心配して声をかけてくれたのだろう。彼女に悪いことをしたと思う。

 そして、登園と言う言葉に学校に行くんだろうと察した私は、準備をするためにベッドから降りようと体を動かす。

 するっと投げ出した自分の脚の綺麗さに驚き、違和感で少しバランスを崩しそうになる。

 なんで、なんか、どうしてかしら、嬉しい体が軽いわ。


「やっぱり、どこかお体の具合が悪いのでしょうか?」


 普段と違う様子を見て思ったのだろう。ベッドから降りてくる私にアメリアは不安そうに声をかける。


「なんでもないわ」


 と言いつつも、自分の視界に入る金色の髪に違和感がありまくりである。


 小さな机にポンと置いてある櫛、あれを使うのね。


 そう思い、私は前に置いてある椅子に座ると、櫛を手に髪を梳こうとした。

 だが一連の流れについていけてなかったのだろう、慌ててアメリアは私のもとにやってくる。


 あー、そか。やってもらうんだっけ。


 黙ってそれを渡すと、彼女は私の身なりを整え始める。

 体がなんとなく覚えている感覚に身を委ねながら、ここに来る前のことを思い出した。


 ☆


 確か、夜の0時を過ぎたくらいだろうか。

 次の日が休みなのをいい事に、夜中に電話してきた友達。その話を聞きながら飲酒……いや、普段の鬱憤うっぷんをはらすように泥酔でいすいしていた私。

 テーブルの上の食器が目に入り、それをがらにもなく……そう本当に柄にもなく、きちんと片付けようと片手で持って立ち上がった時だった。


「あっ、ここ行った事ある」


 私は右手にスマホ、左手に食器。しかも通話をしながらテレビに映ったテーマパークのニュースを見ていた。


「誰と?」

「妹と」


 面白い話が聞けると思った友達が少しがっかりする。その感じに、私は勝ち誇った気がして少しいい気分になった。

 その時だった。


「おっとっと」


 その言葉のニュアンスとは裏腹に盛大にすっ転んだ私。

 皿とその上にのっていたコップが宙に舞い上がる。私はその様子を見ながら倒れ込み、机の角に頭を思いっきりぶつけた。


 いてててて。


 大量の血が私の頭から流れ出た。

 それでもスマホを離さなかった馬鹿な……本当に馬鹿な私。


「たぶん、だいじょ……あれ」


 体に力が急に入らなくなったかと思うと激痛がはしる。

 なんで、なんで、なんで。


「痛い、助けて……」

「えっ、えっ、だ、大丈夫?」

「血が……駄目か……も」

「今、救急車呼ぶから!」

「ごめん。おねが…………」


 記憶はそこで途切れていた。

 あちゃー、なんて死にかたなの。

 しかも一人だったから、結構大胆な格好してたのよね。

 どう考えても死んでいた。

 あそこから朝になったら普通に動けているはずないもの。


 そこまで思い出したところで、侍女がすっと立ち上がった。


 ☆


「服装を整えますので、お立ちいただけますでしょうか?」

「あ、はい。よろしくね」


 アメリアの言葉に、はっとして急ぎ立ち上がる。

 すると彼女は慣れて手つきで私の身支度を整えていく、さすがプロだ。

 そんな事を思いながら、いい香りがする部屋の中をアメリア越しに眺めてみる。

 綺麗な花、高そうな花瓶……あんなの見た事ない。

 高級そうな絨毯じゅうたんとカーテン、芳醇ほうじゅんな花の香りが部屋中に満ちていた。

 凄い、こんな部屋って見た事ないよって……いま見てるよね。


「いい香りね」


 私はそう口に出すと落ち着いたのか、前世で今日やろうとしていた会社での業務を思い出した。

 あー、あの書類の整理終わってなかったな。

 そのまま同僚、そして少し気の弱そうな年下の後輩の顔を思い出す。

 あの子、一人で大丈夫かな。私、いなくなったから一人でやらないといけないよね。

 それに救急隊員の人って男の人だよね。きっと……そうよね、まいったな。

 友達はたぶん泣いているよね……ごめんね。

 いろいろな思いが一瞬で頭の中を交錯した。


「……お疲れでしょうか。体調が優れないようでしたら」

「あっ、大丈夫よ。やあね、私、ぼうっとして」

「それなら、いいんですが……」


 私が悩んでいるのを見て、気を使わせてしまったようだ。スマイル、スマイル。

 もう死んでしまったのは仕方ない。


 ――――こんな感じで私、転生しました。


 で、転生した私は……。

 ここで侍女が満足した顔で私に声をかける。


「整いましたわ」


 その明るい声とともに指し示された大きな鏡に映るのは、大きな青い目に長く大きなウェーブの金の髪。

 すっきりと背は高く、脚もスラリとしている、胸はちょっと……でも、理想的なモデル体型ではないだろうか。

 白を基本とした制服は、さっき言っていた学園のものだろう。

 派手過ぎず、気品のあり上品な感じ。

 私の数少ないボキャブラリーでは、ここまでが表現の限界だ。


「わあ………」

「本日も、お美しいです」


 侍女は嬉しそうに微笑む、よかった喜んでもらえた。

 気の弱い私は侍女にも気をつかってしまう。


 しかし、このタレてる目だけは気にいらないな。

 そう思うと、少し両手で目尻を上にあげてみせた。

 こうなれば、完璧なのに……私が鏡を見て、そう思っていると。


「お嬢……さま?」

「あっ、ごめんなさい」


 侍女が変な行動をし始めた私を不審な目でのぞきこむ。

 なんでこんなにタレてるの……まあ、優しそうな美人でいいけど……。

 そんな事を思いながら、自分の名前をこの子の記憶から引き出した。

 エリナゼッタ・キャンベル、侯爵令嬢、十六歳。

 三十路の私が転生した人物であった。

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