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乙女ゲームに転生したら主人公の姉でした  作者: こねこねこはる


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第19話 ハンカチとエビと私(1)

 私の感覚ではお茶会というよりかは豪華なパーティ。

 せいぜい五、六人でのんびり紅茶を飲む程度だと思っていた私が馬鹿みたいだ。これならエビとジュリエが会わなくても帰れるかもしれない。

 男女数十人はいるであろう会場で、そんな期待が私の心を少し軽くした。


 さらに一点へと集中している視線。さっきまでステージで演奏していたであろう者たちは、その真ん中に空間を作るべく端に身を寄せ合っていた。

 壇上の中央には王子が、その両横には従者が一名ずつ並んでいる。


「フェリエ王子だわ。何ごとかしら?」

「それにしても、惚れ惚れしちゃう……」


 令嬢たちは格好いい王子様に夢中である。


「誰も私たちには気がついていないみたい」


 そう安心するとさらに心に余裕ができたのか、私はふと王子様へと視線を移した。

 王子の赤みのある金髪は柔らかなウェーブを描き、陽光を受けて淡く輝いていた。その琥珀色の瞳はまっすぐに前を見据え、揺るぎない意志を宿している。

 健康的な焼けた肌と金刺繍が施されたロングジャケットが相まって、まさに理想の王子そのものだ。


「ああいうキャラが流行ってるのかしら」


 友達が何度も話していた王子様、一回だけ画像を見せられたことはあるが、それは主人公との結婚式での正装姿だった。この格好の王子様は見たことがない。

 ただ彼はちょっと周囲に厳しそうな感じにも見てとれる。まあ、話してみればいい人だったということもありそうね。


「お飲み物はいかがなさいますか?」


 私たちが何も手にしていないことを気づいた男性の給仕が私たちに声をかけた。

 白いシャツに黒いベスト、まさに貴族の給仕といった感じ。


「私はこれを」


 給仕の左手のお盆の上、そこにあるオレンジ色の飲み物を手に取ったエビ。

 どんな飲み物があるのかもわからない私は、残っている透明な飲み物を手に取る。


「すみません、私もこれで……ありがとうね」


 学生時代に飲食店で似たようなバイトをしていた私は、その大変さを身に染みて分かっていた。貴族相手ではもっと大変だろうなと思う。

 私は彼の労をねぎらうべく、満面の笑みで言葉を返した。


「あっ、あっ、はい……いえ、し、仕事ですので」


 私の態度に顔を赤らめ動揺した彼だったが、すぐに姿勢を正すと静かにそう言って足早に去っていく。


「お姉さま……」

「私、なんか変なことしたかしら」


 グラスを少し持ち上げ、光の反射を眺める。エビの視線も気になるが、それ以上に給仕に何か悪いことをしたのではないかと気になった。


「素晴らしいです。お姉さま」

「えっ、何のこと?」


 エビの言葉に顔を上げる私。その時、ふと向こう側に給仕が何人か並んでいるのが見えた。

 さっきの男性が私のほうを見ながら、何か同僚に話しているのが分かる。やっぱり何か変なことをしてしまったのかしら……そんな不安で彼らから視線を逸らした私。

 壇上の王子様のほうはまだ時間がかかるようで、従者とこの屋敷の使用人とで何やら話をしている。


「やっぱり、あの人に何か悪いことをしたのかしら」


 持っていたグラスを少し下げると、何気なくそんな言葉が漏れだした。本当、こんなことでこの世界でやっていけるのかしら。そんな不安が私の心に一気に押し寄せてきた。


「そ、そんなことはありません!」


 私の言葉に思わず声を上げてしまったエビ。彼女の声は周りの視線を一気に集め、一瞬壇上の従者もこちらへと視線を向ける。

 だが、恥ずかしそうにエビがドレスのスカート、その両端をちょんと摘むと皆にお辞儀をして見せた。


「し、失礼しました」


 その言葉に何事もなかったかのように周囲は視線を再び王子様へと戻す。

 何か揉め事かと思ったのだろう。違ったので王子様へと再び皆が集中したみたいだ。


「大丈夫です。お姉さま……私、ちょっと感動いたしました」

「……感動?」

「いえ、その……」


 私の質問に顔を少し赤らめて、エビは左手で何度もスカートを握り直している。なんか恥ずかしがっているような、我慢しているような感じ。

 その瞬間、会場の雰囲気が一変した。長い待機にしびれを切らし、雑談していた人々も一斉に壇上に注目する。


「静かに! これから重要な話をしますので、お静かに願います!」


 壇上の従者が低いがよく通る声でそう叫ぶと、黄色い歓声を上げていた令嬢たちも一気に押し黙った。

 壇上の使用人たちが同じ言葉を何度か繰り返す。やがて従者が何やら布を使用人から受け取った。


「お姉さま、あれ……私のハンカチです」

「えっ!?」


 その言葉に驚き、思わずドリンクをこぼしそうになる私。

 危ない、せっかく着替えたドレスが汚れるところだった。周囲の令嬢のドレスも高そうだし、こぼしたら大変なことになるわよね。

 そんなことを心配して近くのテーブル、その空いている箇所へとグラスを置く。

 すると近くの令嬢のささやきが聞こえたのだった。

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