第15話 お茶会に向かう私(2)
少し気分転換が必要ね。
一旦落ち着かせてから……それもこの子がよく知った場所がいいわね。
そう考えた私は、アメリアに指示を出す。
「少し学園に寄ってもらえるかしら」
「学園ですか……」
「大丈夫、時間には間に合わせるわ」
「わ、わかりました」
彼女はそう返事をすると、御者へ「王立学園へ向かって下さい」と指示を出した。
御者は大きく頷くと手綱を引き、大きく馬車を右へと旋回させる。
「お姉さま?」
「ちょっと礼拝堂に寄りたいの……付き合ってくれるかしら?」
「はい! お付き合いします」
ふふ、笑顔になったわね。そのエビの元気な返事に小さく微笑むアメリア。
彼女と視線を合わせると、お互いに小さく頷いてみせる。
馬車は別の大通りにでると、坂道を駆け上がり始めた。少し石畳の振動がきついが我慢する。
その坂を上りきったところで、馬車がピタリと止まった。
「やはりお休みの日は、あまり人もいないのね」
「そうですね」
正門は開いているはずも無く、礼拝堂へと続く裏門から入ることになる。当然、エスコートの男性もいないので、アメリアが代わりに先に降りた。
「ごめんなさい、わがままを言ってしまって」
「いえ、当然の務めですので」
アメリアはそのまま裏門に向って駆け出す。
だが門は鉄製で重く、その細い両足で踏ん張るもビクともしない。
建付けが悪いのかしら……。
「私も手伝うわ」
思わず鉄門に手を添え、足を思い切り踏ん張った私。でも、その瞬間アメリアの顔がこわばった。
「お、お嬢様いけません」
「いいのよ。私が頼んだのだし」
私の言葉に、アメリアは呆れたように表情を緩めるとさらに力を込めて押しこんだ。その勢いのせいか、重厚な音の響きとともにゆっくりと門は開いていった。
「ふう、開いたわね」
「お嬢様。もうこんなことはなさらないでください。もしお耳に入ったら、『侯爵令嬢ともあろう者がはしたない』と奥様がお怒りになりますよ」
「えっ、あっ、ごめんなさい」
アメリアの言葉に謝る私。だが、その私の顔を見て慌てたように右手を胸の前にかざすと、彼女は優しく言った。
「でも、助かりました。お嬢様、ありがとうございました」
アメリアは深々と私に向かってお辞儀する。
「えっ!? あっ、いいのよ――――――」
私はそこまでされることはしてはいないと、彼女に手を差しのべようとした時だった。
突然、私の後ろから拍手が聞こえる。
「お、お姉さま! 私、感動しましたわ」
振り向くとそこにはエビがおり、そう歓喜の声を上げた。その顔は輝いており、目からは一筋の涙を流している。
えっ、なぜ泣いているの。
その光景に戸惑いを感じていると、彼女は涙を拭ってこう続けた。
「お姉さま……私、感動しました。困っている侍女を見過ごせず、周りにどう思われようと手を貸すお姉さま。ああ、お姉さまは―――――まるで、そう物語に出てくる聖女様のようです」
「えっ!? ……そんなこと」
両手でスカートを掴むと、彼女はふわりと舞い上げる。そしてそのまま跪き、両手を前に組んで祈りをささげるようなポーズをとった。
な、何をしだしたの?
動揺して何もできない私。
「お姉さま……」
そう、一言。彼女の祈りは私に向けられてた。
「えっ、ちょっ……!」
周囲の通行人の視線がこちらへと集まっている。
やばい、そう思った私はエビの腕を掴むと、さっき開けたばかりの門を通り抜けた。
「お嬢様、わたくしは入れませんので」
「わかったわ」
後ろでにこやかに見送るアメリア。
なぜエビの行動を止めなかったのかしら……。そんな思いが交差するなか、なぜか嬉しそうな顔で走る妹エビ。
私たちはそのまま礼拝堂へと向かったのだった。




