第13話 ケインとお茶と私(3)
どうなることかと思ったが、エビを中心に雑談が弾み時間が過ぎていった。
その話の中で、治療魔法によって私の怪我が治ったこと。それに魔法は限られた人にか使えないこと。比較的適性が高い王族でも、使える者はごくわずかだということを知った。
誰でも使える訳じゃないのね、残念。
私は今まで目にしていないことから、あまり一般的ではないことはなんなく感じていた。
だが自分も使えるかも……そんな期待もあった。無理だったけど。
「お嬢様、そろそろ……」
アメリアが申し訳なさそうに、私に向かって耳打ちする。
私はその言葉に「わかったわ」と返事をすると、立ち上がろうとした。
「お姉さま、そろそろ終わりにしませんと、明日のお茶会もありますし」
するとやり取りを見て察したのか、エビがそう言って話を切り上げる。
楽しそうに皆の話を聞いていたディアナもその言葉に私の顔を見つめ、瞳に悲しみを浮かべた。
「さ、ディアナ。部屋に戻りますわよ」
エビにそう言われ、ディアナはテーブルにしがみつく。
「嫌、ですわ」
「またここで寝ると、バーバラさんに怒られますよ」
「バーバラ……しょうがないですわ」
よっぽどバーバラさんという侍女が怖いのか。その名前が出たとたんに大人しくなるディアナ。力なく立ち上がると私のほうをじっと見て、呼び寄せるように手招きする。
「お姉さま」
彼女の身長に合わせるように少し屈んだ私。ディアナは私に向かって一言そういうと、頬にキスをした。
ちょっ、あっそうか。挨拶のキスね……。
私はそう思い、彼女に笑顔を返すとその白い頬にキスを返す。
「お姉さま!! やったあああ、明日みんなに自慢ですわ」
そう言って飛び跳ねながら、楽しそうに手を振って扉から飛び出ていくディアナ。
本当に自由で活発な子だなと思う。
「お、お姉さま……私も……いえ、なんでもありません」
エビはそう言って力なく肩を落とすと、もう一度席に座り込んだ。
もう欲しいなら欲しいって言えばいいのに……。
「ほら、ねっ」
私が彼女の頬にキスをすると、その顔はぱっと明るい太陽のように輝きだす。
ふふ、その反応は嬉しいわね。
「お、お姉さま! あ、ありがとうございます! 私、とっても嬉しいです! 感激です! 嬉しいです! 感激です! 嬉しいです!」
「えっ、あっ、そ、そうね。明日もよろしくね」
「は、はい!!!!」
その力強い返事に、私は一瞬引き気味になりつつも小さく頷いた。
「お嬢様。ご姉妹とはいえ、あまりそういうことはなさらないほうが……」
「えっ、あっ、そ、そうね。気をつけるわ」
えー、挨拶のキスじゃなかったの。ディアナにつられて二人にしてしまったけど……まあ、妹と妹みたいなものだから、大丈夫よね。
私はそう心に言い聞かせて、自分を落ち着かせた。
「では、俺もこの辺で……エリナゼッタ様、お呼びいただいてありがとうございました」
「ううん、いいのよ。また暇な時にでも遊びにきて」
つい、前世の感覚でそう返事をする私。その返事に動きを止め、驚いたような顔をしたアメリアとエビ。
そして心から嬉しそうに微笑むケイン。
「は、はい!!!!!」
さきほどのエビよりも力強い返事を、ケインは私に向かってすると敬礼する。
「お姉さまがいくらお優しいからって、調子にのってはダメ。アメリアとちゃんと時間を調整してから来なさい」
「う、うん、わかったよエビ。では、エリナゼッタ様」
「じゃ、またね」
そう返事した私に対し、ケインは扉の前で再び一礼すると部屋から出ていった。
「お、お姉さま! ケインを二度も部屋に呼ぶなんて」
「も、もちろん貴方も一緒よ」
「えっ、そ、そうですよね」
エビとケインを仲良くさせるためのお誘いである。当然、エビも一緒にいないと困る。
「でも手を握り合ってましたし。いや、お姉さまがケインを……そんなことないわよね」
なんか勝手に納得しているエビ。そして彼女は急にキスをした頬へ手を当てると、「でへへへへ」とにやけだす。
「お姉さま、明日のお茶会。よろしくお願いしますわ」
「うん、そうね。こちらこそよろしくね」
「はい」
切れのいい返事をしつつも、にやにやが止まらないエビ。彼女はそのまま楽しそうに部屋から出ていったのだった。
「はああああ、疲れた」
「お嬢様、はしたないですよ」
「そ、そうね」
足を放り出し背伸びをしていた私に、強く注意するアメリア。彼女はそんな私を横目で見ながら、黙々とテーブルの上を片づけたのだった。




