【49】 絶体絶命 1
冒頭の二行が【48】話と重複します。
「なんで……あれを」
それを見たマリエルが呟いた。
水平に腕を上げたルドア殿下の手に握られていたもの。それは真っ直ぐにわたしたちに向いている。
「回転式拳銃……」
それを凝視したマリエルの声は、さっきよりも硬く張りつめていた。
回転……? え? なんて言ったの?
「それなに?」
小声で訊く。マリエルの緊張から、物騒なものであることは想像がつくけど。
「銃だよ」
「銃……!?」
でも、銃ってもっと長くて、大きくなかった?
狩りのときにお父様が使う銃はもっと……。
「最新型。弾を込め直さなくても連続して撃てるの。気をつけて、ルナ」
そういえば……ノア様とオーギュスト様が話していたときに、そんなようなことを聞いたような気がしないでもないような……なんて言ってたっけ……ええと……『今はまだ高価で量産はできませんが、大量に出回るようになれば戦闘が根本から変わります』とかなんとか。
「ふん。その娘はこれがなんだか知っているのか……。だったら話は早い。そこから動かないことだ」
ルドア殿下は唇の端を歪ませて笑うと、「やれ」とフラン伯爵に指図をした。
慌ててローブのポケットに両手を突っ込んだフラン伯爵。なにかを探していたけど、ポケットから出てきた手にはなにも持ってはいない。それから一瞬だけ思案顔をすると、着ていたシャツの裾を大きなお腹からおもむろに引っ張り出した。それを細長い紐状に裂く。
その布きれを手にして近づいてくると、マリエルの手首を掴んだ。
「手を後ろに回すんだ」
「痛いっ!」
「マリエル! 大丈夫っ!?」
左の手首を無理矢理に取られたために、マリエルは体勢を崩した。その拍子に身体を捻ってしまい、わたしの左腕が支えていた右肩も外れてしまう。痛めている右足を地面に着いてしまったマリエルは、横に倒れこんだ。
「きゃ」
「マリエル!」
「貴様は動くな!」
思わずしゃがみこもうとしたところに、ルドア殿下の鋭い声が飛ぶ。
「わたしは大丈夫……」
痛みに眉間をしかめたマリエルが上半身を起こすと、フラン伯爵は両手首を後ろに回して縛り上げた。
マリエルの次はわたしの番。同じく後ろ手に縛られた。
「余計な真似をするなよ。命が惜しければな……」
満足そうに見届けたルドア殿下は腕を下ろす。
どうしよう……。どうしたらいい?
ものすごく胸の鼓動が早い……苦しいくらいだ。だけど、落ち着いて考えなくちゃ。
……ルドア殿下が王宮からの秘密の通路を使ったのなら……。テオ殿下だってその存在を知らないはずはない。あのとき、秘密の通路は見つかったのかを訊いた。テオ殿下の答えは――『残念ながら、そのときは見つけることができませんでした』。
きっとノア様や近衛護衛騎士たちとすぐに追ってくるはず。
だったら……時間を稼がないと。
このままおとなしく言いなりになんてなってやらないんだから。
「人質って……わたしたちをどうするつもりなのですか?」
「解りきったことを……私が無事にここを離れるまで、連れていくに決まっているだろう」
ふんと、灰色の瞳を馬鹿にしたように細めながら、こちらへと歩いてくる。
「ここを離れるまでというのは、このサリファ王国を出てイルギスに行くまでということですか?」
ぴくりと眉間が動く。
「……余計な口をきくな」
図星なのかはわからないけど、あまり訊かれたくもなかったことのようだった。
それから座り込んだままのマリエルを軽く蹴飛ばす。
「貴様、早く立て」
「痛いでしょ! やめてよ!」
「誰に向かって口を利いている」
ルドア殿下の銃口がマリエルに向けられた。肩がびくっと動いて緊張が走る。
身体を滑らせて、ルドア殿下とマリエルの間に割り込んだ。
「マリエルは……彼女は足を怪我しています。歩けません。連れていくのならわたしだけにしてください!」
「ルナっ!? そんなのダメよ!」
「だってマリエルは歩けないでしょ?」
「だけど……!」
「うるさいから黙れ」
ルドア殿下の冷酷な響きの声に、ふたりでぴたっと口を閉じる。
「麗しの友情というやつか。ヘドが出るな。まあ……いいだろう。歩けないならかえって邪魔だ。貴様だけ連れていってやろう。行くぞ」
顎でフラン伯爵に合図をだす。
フラン伯爵の肘で押されて歩き出そうとしたとき――
「ルナっ!!」
ルドア殿下が姿を現した茂みの陰から、名前を呼ぶ大きな声がした。ざざっと枝が揺れて黒と白の軍服姿の大きな身体が飛び出してくる。
テオ殿下っ!!
その後ろからノア様と近衛騎士団の騎士様たちも姿を現した。
「ちっ」
舌打ちをしたルドア殿下の左腕が首に巻きつくと同時に、ぐいっと引き寄せられた。
「おおっと、動くな! この女がどうなっても知らないぞ」
こめかみに銃口をごりっと押し充てられる。鉄の固くて冷たい感触に思わず唾を飲み込む。これは、紛れもない凶器だ。
「そうだぞ! おとなしくしていろ!」
フラン伯爵はそれだけ言うと、ささっとルドア殿下の後ろに隠れた。
テオ殿下の灰色の瞳は揺れながら、わたしとルドア殿下を交互に見つめる。
「貴様らがここに来たということは……奴らは足止めさえろくにできんのか……まったく使えない」
苛立たしげに吐き捨てるルドア殿下。
「兄上……どうかもうこれ以上、罪を重ねないでください」
苦しそうな表情のテオ殿下。灰色の瞳はルドア殿下に定まる。
テオ殿下……。




