【46】 裁判
裁判にはお父様とお母様、クロス男爵夫妻、オーギュスト様が出席することになっていた。
マリエルとわたしは第三王子宮でお留守番。
サリファ王国での王族の裁判には、伯爵以上の上位貴族は義務として参加しなければならない。本来ならば下位貴族には結果のみが通達されるだけなのだが、今回は関係者ということで特別に許可されていた。
裁判中には、王宮にある裁判所の法廷に、ティリアンの監獄から罪人となった者たちが護送されていた。
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この裁判は量刑を決めるためのものではない。そうオーギュスト様が教えてくれた。
叛乱罪は重罪だ。罪の重さは最初から決まっている。
首謀者と協力者は貴族の身分を剥奪されて、すべての資産や領地を没収される。その上でほとんどの場合は、懲役刑を受けた罪人が労働する過酷な鉱山へと送られる。
王国によって管理されているそこからは生涯、出てはこられない。
サリファ王国の鉱山は王国の北に位置している。隣国との国境線をその山々で引き、囲まれてちょうど窪んでいるその土地は、夏には蒸し暑さに苛まれる。冬には雪が降り積もるために、厳しい寒さに苦しむ土地となる。
場合によっては極刑もあり得る罪なのだから、生命が助かるだけましだろう、という者もあれば、あんな過酷な土地に送られるくらいなら極刑にしてくれと嘆願する者もいるという。
巻き込まれた一族はどうなるかというと、女子どもも容赦なく身分を剥奪される。禍根を残さないために。そしてやはり鉱山の町へと送られ、そこでの仕事に従事することとなる。彼らもまた、生涯をそこで過ごさなければならない。……無慈悲なようだが、国を守るためには仕方がないことだとオーギュスト様は言った。
では量刑が決まっているのなら、なんのための裁判なのか。
それは王家に敵対して剣を抜き、叛乱を起こした者たちの末路を貴族たちにみせしめるためのものだ。王家に対して決して野心を抱かぬように、忠誠を誓わせるために。
それに今回はもうひとつ重要なことがある。
イルギスに対する脅しだ。
第二王子派から、背後で操っていたイルギスの名前が出されれば国際的な大問題となる。サリファ王国は敢えてそれを表沙汰にしないことによって、イルギスに対して上位に出られる手札を握ったのだ。この裁判は、それをイルギスに暗に告知するためでもあった。
事前に取り調べと調査が済んでいたために、第二王子派の裁判にはあっさりと判決が下った。
想定通りに貴族身分を剥奪の上、すべての資産と、領地を持つものは領地の没収。そして王都からの追放。収監先は鉱山だ。
「外交って、いろいろと複雑なのよね」
オーギュスト様の説明を聴いたマリエルは、ほっと息をついてティーカップに口をつけた。
「あの、量刑はもう決まっているのなら、ルドア殿下は……?」
ルドア殿下側の近衛護衛騎士がテオ殿下と剣を交えたはず。明らかにテオ殿下を害そうとしたわけだし、つまりそれは……極刑、なのでは。
「ルドア殿下はティリアンに幽閉でしょうね。政治的な利用価値があるので極刑は免れるはずです」
『政治的に利用されて、罪人として生きてゆくしかないのです』
……そうテオ殿下も言っていた。
「ルドア殿下はフラン伯爵を通して、イルギスと手を組んでいたことはほぼ間違いない。つまり、イルギスが関与していたということの証人になるのです。ですから生かさず殺さず。生涯、ティリアン監獄に幽閉となるでしょう」
オーギュスト様は淡々と告げる。
「……」
ティリアンに幽閉……もうこの先一生、解放されることはない。
同情するわけではない。
ルドア殿下は自分でその道を選んでしまったのだ。
ただ……テオ殿下の胸のうちを考えると、複雑な気持ちになる。
「お兄様。それじゃあ、西の塔に幽閉されたネル第二王妃様はなにか罪に問われるの?」
「いや、ネル第二王妃様は幽閉以上のことはないみたいだ」
「どうして?」
「ネル第二王妃様に対する……国王陛下の恩赦だよ」
恩赦?
オーギュスト様はティーカップを置いた。
「ルナ様もマリエルも知らないことだと思うけど……というか、私も今回の件で初めて知ったことです。今後のクロス男爵家の諜報活動のためにも、知っておくべきだということでノア様から教えていただいたことがあって」
「お兄様。前置きが長いわよ」
遮ったマリエルを横目に、オーギュスト様はこほんと咳払いをする。
「つまり、表沙汰にはならなかったことですが、ネル第二王妃様の輿入れは曰く付きだったのです」
「曰く付き、ですか?」
オーギュスト様は「はい」と肯くと、テーブルに両肘をついて指を組んだ。
「ネル第二王妃様には婚約者がいました。当時のルイード侯爵……ネル第二王妃様のおじい様が決めた婚約者でした。相手の方は伯爵家のご令息。おじい様の友人のお孫さんだったそうです。決められた婚約者とはいえ、おふたりは深く想い合っていた。ところが……おじい様が落馬事故で急逝すると、侯爵を継いだ父親はその婚約を強引に白紙にもどして、第二王妃として国王陛下に輿入れさせたのです」
えぇ……。
「国王陛下も事情は御存知でしたが、貴族内の勢力の均衡をはかるためにご決断されたそうです」
「そうだったのですね……」
貴族の結婚は契約のようなもの。それでもおふたりが想い合っていたのなら、引き離されるのはとてもつらいこと……。
ネル第二王妃様がルドア殿下やご自分の立場、テオ殿下とステラ様にも興味がないようだったというのは……それでなのかな。
でも……。
ルドア殿下はイヤな奴だけど、ちょっと……。
「そういう事情で恩赦なのね。それにしてもルイード侯爵はやっぱりかなりの野心家だよね。おじい様の落馬事故っていうのも怪しいかも」
マリエルは腕を組んでぷくっと頬を膨らませた。
「それについてはもう、調べようがないからね」
組んでいた指をほどいたオーギュスト様は、そう言ってティーカップを口に運んだ。
「あ! そうだ! この際だからお兄様に言っておくね。いくら好きでもクリスタだけは絶対にダメだから!」
思い出したようにテーブルに身を乗り出したマリエルに、オーギュスト様は「はぁ?」と口をぽかんと開けていた。




