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超越探偵 山之内徹  作者: 朱雀新吾
第三話 無能探偵のススメ
16/68

無能探偵のススメ⑦

 悲鳴に関してはクリアしたので、いよいよ何の疑問も無ければ事故ということで、これにて終了。今日は解散。民宿に帰って明日はこの村を発てる。

どうにか希望が見えてきたか。

 密室さえ成立してしまえば、後はどれだけ中が不可解な状況でも簡単に手出し出来ない。かといって俺からわざわざ説明も不要。更に村人からの疑問の声もあがらないだろう。誰もそんなオプションは望んでいないのだ。

 一番問題の範人だが、さっきの問答で自分の五感に自信を無くしたのか、浮かない表情で何か考え事をしている。そんな範人に真由美が声を掛けている?ひょっとして、真相を教えてくれている、いやそれは焼石に水だ。「ここは徹君に任せて」的な発言で煙に巻こうとしているのだろう。ナイスだぞ真由美。うんうん、これもお前達の為だからな。

 よし、それではハッタリを終了しますか。

「ではとりあえず、村長は事故という事で、今日のところはおひらき・・・・」

 だが、俺の締めを遮る声。


「コップはどういう事かね」


 ――と誰かが口を開いた。

「はい?」

 俺は聞き返す。

「コップが二つあるが」

 それは村役場の頭の寂しいおっさんだった。またしても、このおっさんか、まいったぜ。あのね、立場分かってるのか?

「村長が倒れる前、誰か来ていたのではないかね」

「・・・・」

 本当に何か恨みがあるのかねこの俺に?え?このまま黙ってやり過ごせばいいじゃんよアンタおいこのハゲ。あ、ハゲって言っちゃった。まあいいや。ハゲはハゲだ。捕まりたいのハゲ?俺に事件解かせたいのハゲ?

「確かにこのコップは変だな。何か理由があるなら聞きたいが・・・・」

 毛皮の服を着たゴツイ猟師のおっさんまでハゲに続いて意見する。

「二つのコップはどういう事なんだい?山之内君?」

 郵便局員のおっさんまで言い出す始末だ。

「このコップはですね・・・・」

 俺はしぶしぶ説明を考える。聞かれた事に答えないわけにはいかない。猟銃持ってる人もいるし、尚更だ。

「どちらも村長の使ったコップです」

「何だと?」

 まあ、こんなハッタリは考えなくても浮かんでくるから構わんが。シナプス料を請求するまでもないが、せめて声帯使用料くらいは戴きたいものだ。

「お茶を飲む用と薬用で二つですよ」

 緑色でちょうど掌サイズの小さなコップである。そのおかげでその中に何が入っているのかは分からない。

「殆どの人が薬を飲む際、コップを分ける様な事はしないでしょう。それでも中には貴重面にしっかり分けて使用する人も中にはいます。水で飲まないといけないと指定されている薬だってあるわけですからね。ね、お医者さん」

「あ、ああ。その通りじゃ。村長に処方していた薬は水で服用せねばならなかったものじゃからな」

 んだよ。ちったあアドリブ効くじゃんおっさん。

「確かに、村長もそういう人でしたね・・・・。お茶を飲むコップと薬を飲む水のコップを分ける様な人でした・・・・」

 俺は窓から見える外の雪景色を遠く見つめて呟く。なんのこっちゃ。

「それに、村長が一人だったという事は外の状況が証明してくれています」

 更に補足を加える。

「今は皆さんが来られたので多くの足跡が地面に作られていますが、僕達が謎の猿の声をきっかけに村長の家に向かった時、足跡はたった一つだけだったのです。なあ範人?真由美、あ、あと、記者さん」

 同意を求めると、範人はハッとなって答えた。

「あ、ああ。そうだった。綺麗な雪面に一人分の足跡があった」

「それに靴跡も、村長の靴の裏の跡でした。間違いありません。私、そういうの覚えてますから」

 ナイス真由美。それくらいの介入は許してやろう。

「私は靴跡があったのかも・・・・覚えていません。お恥ずかしい」

 石コロは黙ってなさい。

「すぐ近くに木や大きな石もありません。何かにつたって村長の家には行く事は不可能です。足跡をつけずには行けないし帰れもしないという事です。今日で言うなら特に帰りですね。行きの靴跡はひょっとしたら早い時間に訪れたなら消えてしまうかもしれません。でも、行きが残って帰りが残っていないあの状況。それはすなわち村長が一人で家に帰ってきてその後、心臓発作が起こったという証明になります。村長が今日一度外に出ていた事は主婦の方達が目撃していますしね」

 なるほど。俺達が聞いたおばちゃん達の「村長を見た」は嘘だな。このトリックを成立させる為の偽証言ってわけだ。

 まあこれに関してもトリックは色々あるよな。一番オーソドックスなので、「被害者と同じ靴を履いていって後ろ歩きで帰ればいい」ってヤツ。

 あとは足跡は犯人がやって来た際のもの(これも靴は村長とお揃いのヤツを用意)で、「犯人は雪の中に隠れている」とかな。皆が集まって足跡が判別出来なくなった時点で素知らぬ顔で家に入ってくるってトリック。

 まあここでそのトリックに俺が言及さえしなければ良い。そうすれば足跡は村長のものとなり、村長は一人で死んだ事となるだろう。

 終わり終わり。はいもうこれで最後だからね。俺は今度こそ終了の笛を鳴らそうと構える。

「だが肝心のその村長の靴はどこだ?玄関になかったみたいだけれど」

 ロスタイム突入。またしても村役場の禿田ナンタラが言わなくてもいい突っ込んだ問題点を述べる。おいおいおいおい・・・・・・。

 まったくもう・・・・・ねえ?いやはやあなたには参りましたよもう・・・・。

 この・・・・・・・・・・。

 この・・・・・・・・・・。

 このハゲチャビンがああ!!!!!!ハゲチャビンが貴様あああああ!!!!!!ハゲチャビンが貴様ああああああああああああああああああ!!!!!!!!ハゲチャビンがああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!

 さっきからくどくどくどくど余計な事をおおおおおお!!!!!!うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!

 ああ、やばい。マジでキレそうだ。ええ~?もう何で~?何でこんな仕打ち受けなきゃならないんだよ~。何考えてんだよ~。誰の為に俺が体張って神経すり減らして無能探偵やってると思ってんだ。おいコラハゲチャビンよ。そのハゲ、一旦植毛して希望を与えたその瞬間に毛の全てを引っこ抜いて毛穴にアロンアルファ流し込むぞコラこの「今死んで欲しい人ベスト1」!!!!!!!!!!!!

 はあはあはあはあはあはあ・・・・・・・・・。

 なんだなんだ、何がしたいんだ。どMかアンタ?自分を追い込むのが楽しいのか?快感か?たまらんか?俺もな、たまらんのだよ。マジで勘弁しておくれよホント。

 ええと、何だっけ?靴がないって?玄関に村長の?マジか。早速、玄関を探して範人が戻ってきた。くそ、真由美、そいつも大人しくさせておいておくれよ。

「トオル、村長の靴がないんだ」

「何、無いだって?」

「山之内君、これはどういう事だい?」

 範人に続いて猟師と郵便局員のおっさんもまたもや不思議な顔をして聞いてくる。おいおい、頼むよアンタら。

 まあ、確かに言う通り村長の靴はないらしい。うーん、足跡を一つに見せる為のトリックで使用したんだろう?でもアレはさっき述べた様に同じサイズの同じ靴を用意していれば済む話だからな。わざわざ本人の靴を盗んで履いていったなんて事はないだろう。それはリスクが高いからな。そんな極めて凡庸な思考を巡らせている俺の視界の端に再び嫌な光景が飛び込んできた。

 あれは、またしても医者の・・・・太ったおっさん。  

 おお・・・・やめてよ。

 もう嫌だよ。

 どいつもこいつも勘弁してよ。

 俺が目撃したのは・・・・医者のおっさんが自分が履いていた靴を脱いでこっそりと玄関の隅っこに置く姿であった。その靴こそが、きっと、村長の靴なのだろう、と俺はその瞬間、確信した。

 ・・・・・・・・・・。

 ・・・・・・・・・・。

 ・・・・・・・・・・。

 何本人の靴パクって履いて帰ってんだYO!!!!!!!

 馬鹿じゃねえの!!!!!

 もう嫌。帰りたい。帰りたいのに帰れない。

 もう何で?どういうつもりで本人の靴パクってんの?同じの用意すれば良かったじゃん!馬鹿?馬鹿なの?カプセルといい!鍵といい!!お前は馬鹿なのかああああ!!!!

 鍵の応用みたいに靴を考えんなよ。靴は鍵よりも照合し辛いだろうが。そりゃ然るべき人間が見れば見破られるだろうがどうせ村人全員犯人なんだからよ。もっと大雑把でいいんだよ大雑把で。いや、まあ色々と大雑把な点はあるんだけれどね?そういう趣旨じゃない部分での大雑把さね。何かバランス取れないよね、アンタ達はまったく。

 で、またその光景を俺にまじまじと見せつけてくれるし。よりによって探偵の俺にね。皆どMなのかい?それとも何?新手の嫌がらせ?

 一応医者のおっさんの周りには人の壁が作られてはいる。近所のおばちゃん達だ。アンタらさ・・・・共犯者なのは分かってるんだからさ、もっと隠すならちゃんと隠してやりなよ。誰から隠してんの?俺の所から丸見えなんだからさ、それじゃ意味ないよ。

「トオル、大変だ。村長の靴が無いんだ」

 横では範人が騒いでいる。ホッ・・・・、コイツは見ていなかったか。だったらもう、これも仕方がないか。・・・・くそ。

「あれれーー、範人。靴ならそこにあるよ」

 俺は玄関の隅にある医者の太ったおっさんの脱ぎたてホカホカの靴を指差した。

「あれ。本当だ」

 範人は簡単に騙される。

 とほほ。情けない。何で俺がこんなふざけた事件の片棒を・・・・。


 よし!もう終わろう!

 もういいだろう。俺は十分やった。もういい加減に解放してくれてもいいだろう。ハゲチャビン。な?俺の負けだ。負けを認めるから。どうかもう許して下さい。

 俺の神に縋るかの様な崇高なたった一つの願いである。

 それなのに、ああ、それなのに、

「ところで・・・・」

 ハゲチャビンんんんんんんんんんnnnn!!!!!

 お前本気で俺に喧嘩売ってんな!!??マジだなおい?オーケイオーケイ、了解したぜ。その喧嘩買ってやるよ。勿論定価でな!!お前だけ犯人扱いしてやる。「犯人は百パーセントの確率で、禿田=ハゲチャビン=ハゲンコフ=禿雄。貴様だだだだだあああああああああああああああ!!!!!!!!」って鉄拳で宣言してやるよ。

 お前だけ犯人って言った村の連中はどんな顔をするだろうな。ひょっとしたらお前一人を生贄にしてこの事件の幕を降ろそうとするかもしれんぞ。当然その逆で、俺達の命の危機になるかもしれんが、もう許せん。刺し違い上等だよ!!!!

 俺は決死の覚悟でハゲチャビンを睨みつける。だが、違う!!今の発言、ハゲチャビンでは――――ない!!??

「この謎の出血はどうなるんだい?」

 まさかの伏兵。医者の太ったおっさん参戦である。

 もう何なの何なの?一体全体どうなってんの?ハゲとデブでチキンレースでもしてんの?根性比べならもうやめて。家で二人で勝手にやって。

 ていうかホントこの医者デブがああああああああああああ!!!!!

 お前、さっきから俺には恩がある筈だからな。分かってんだろうな?

 検死・鍵・靴!!三つもだぞ!衣・食・住くらいの価値はあるぞ。大恩人だぞ。なんで恩を仇で返す様な真似をするんだ。

 俺がアンタだったら恩に感じて孫の名前を「徹」にする勢いだよ。それぐらいの大恩よ。その孫が成長して「ふ、祖父からあなたの話を随分聞かされたましたよ。だから、初めて会った気がしません」って俺に会いに来て即配下になるくらいの規模だよ。

 ああ、もう落ち着け。俺よ落ち着け。M☆A☆Z☆I☆D☆E。

「確かに・・・・出血はおかしいな」

「うん、変だ。一体どういう事だろうか?」

 猟師と郵便局員の追随コンビも続く。

 ・・・・分かったよ、もうこうなったらとことん付き合ってやるよ。

 確かに腕からの出血は言われると思ったけどな。思ったけどよ。

 俺はてっきり「心臓麻痺ゴリ押し」の医者のおっさんももうこの出血に関しては「見えないモノ」扱いでスルーする覚悟くらいに思っていたが、このタイミングで聞いてくるか?まったく。この村の人間は「困りたい症候群」にでも罹ってんじゃないだろうね。

 ええと、村長の腕の傷だろう?血が出てはいるが、凶器は無い。それは見れば分かる。

 あとはその周り、ちょうど出血している腕の中心部分から円を描いた場所直径30センチくらいの部分の袖と床がびしょびしょに濡れている。

 正直これは俺、あんまり真剣には考えていなかったのだ。

考察していなかった。

いや、目を背けていたと言った方が潔いか。

 難解なのではない。

 だって、考えれば考える程、考えられないというか。

 これは・・・・まさか。まさかだよな?

 そんなまさか。この平成の時代に。

 いや・・・・・。まさかね~~~~。はははは。

 その時、俺は足元にごとりと何か当たるのを感じた。

 それは、大きな氷の塊だった。

 

 まさかの「つらら殺人事件」!!!


 もうびっくりした。 

 本当にびっくりした。

 声出そうになったよ。

 まあ、とにかくツッコもう。今はとにかく全てを忘れて、心のままに、生の躍動を讃えて、ツッコもう。


 何でだよおおおお!!!!

 化石もんだよ、こんなトリックうううう!!!!!

 実際に使うヤツが現れて逆に感動を覚えたわあああああ!!!!!!!


 これ一体どこから・・・・。俺は上を眺めて声を失った。天窓が少し開いていた。うーん、あそこか。梯子か何かで屋根の上に登って、天窓から大きなつららを押し込んで、それから?何か上から降らす様な仕掛けがあるのか?ここから見る限り時限装置やロープの類は見つからないな。

 まさか、ひょっとして、室温で解けるのを待って、なわけないよな?天窓の幅よりも大きな円錐のつららを用意して枠に引っかかる様に仕込む。しばらく経ったら室温で氷は解け始め、つららは小さくなる。そして天窓をするっと抜けて下へと落下。たまたま下にいた被害者に刺さる。

 そんな・・・・まさか。それはもうまさにトリックなんてレベルじゃない。ただの悪戯だよ。あ、トリックも悪戯も同じ意味か。ハロウィンだからか?ハロウィンだからトリックオアトリートにもじって、こんなにたくさんのトリックを用意したって言うのかい?どこかに仕掛けがあるよね?お願いだ。仕掛けよ、あってくれ。

 だが、何度周囲を窺っても電球だったり歓迎会用のくす玉だったり、首吊りさせられて股間にボウガンの矢が刺さっている案山子だったりで、結局俺は仕掛けを見つけ出す事は出来なかった。

 いや、まさか。まさかだが・・・・まさか?

 ていうか今日俺どんだけ「まさか」言えばいいの?今日だけで俺の「年間まさか量」を上回っちゃったんじゃねえの。

 でも、言わせてもらおう。まさか、と。

 え、マジ?マジでただつららをぶら下げていただけ?

 ・・・・・・マジかよ!!!

 おいおいおい、なんて稚拙な犯行なんだよ。

 どんだけ確率低いんだよ、ニートが家で就職情報誌見ながら「まあ俺はいつでも本気だせば就職出来るからな。履歴書は明日にして今日はネトゲしよう」って言ってるのと変わんねえぞ。一生就職出来ねえぞ。あ、でもこれはその奇跡が起こったって事か?腕にかすっただけみたいだけど。「一次試験TシャツとGパンで行ったけど二次面接まで通った」ぐらいか?スゲエなニート!全く。

 ていうかまあいいよ。もういいよ、どうでも。実際被害者に奇跡的につららは当たったみたいだし。まあ実際「毒も使っているからコレ全く必要なかったんじゃ・・・・」なんてありきたりな事も言わないで、仕掛けに関してもズサンだし、ちょっと天窓開いちゃっているけど、良しとしよう。天窓が開いていても侵入は出来ても外に出る事が出来なきゃ密室は成立するからな。

 それを置いて、いや実際はここらへんもかなりのツッコミ所で、そうそう簡単に良しとは出来ない問題なんだけれども、それでも一応、ここは心を大仏にして一旦置こう。で、そんな恩赦だらけの状態に於いても、絶対に見過ごせない、許せない、現実一番の問題が・・・・・・・・・ありますね。

 

何残ってんだよ!!!

 

どんだけ大きいつららだったんだよ!!!作ったか持ってきたかは知らんけどよ、それぐらい計算しろよせめて!!!!

 いいか、良く聞けよ。散々俺も馬鹿にしたみたいな口利いててホント今更だが、「つらら殺人事件」には良い点が、世界のトリック事情を変えた素晴らしいメリットがあるんだよ。その珠玉のメリットとは「凶器が消える」という事だ。消える凶器としてミステリ界を震撼させたんだからな!!!

 だからもう一度言わせてもらおう。

 

それが何残ってんだよ!!!!

 

だいたい今で直径20センチはあるぞ・・・・。事件発覚して20分は経ってるだろう。てことは最初どんだけ大きかったんだよ。で、残してどうすんだよ。どうすんのコレ。ゴロンって転がって。置物か?置物って言うのか?テーブルの下だから何とか範人の目には入ってないみたいだから良かったけど。マジで信じられない。

 そして、それを駐在が気が気でない表情で見ている。目は泳ぎまくりのバタフライ。全身が震えてバイブレーション。なんとも分かり易い・・・・。ああ、そうね。そうなのね。それでさっきから気もそぞろだったわけ。お前のヤツかこれは。「うわあ・・・・残ってるよお。やばいよお」みたいな顔してんじゃねえよ。当たり前だろ。でっかいの用意したお前が悪いんだからよ。何やってんだよ、駐在さん。しっかりしてくれよ。

 ホントもうずっと思ってたんだが・・・・この人達本当にバレたくないの?

 言っちゃあ悪いけど、コイツらより先月のブルマ大泥棒津村君の方がよっぽど立派なトリック駆使するよ?そう考えたら最高の好敵手だったよ、先月のブルマ大泥棒津村君は。200人が総動員して行った殺人よりもよっぽど高尚で難解なんだからよ!!

 本当にズサン過ぎる。計画性も実行性も滅茶苦茶だ。まるで漫画と小説と手品の本が入った本棚の中身をばら撒いたかの様に、一貫性がない。本気を出せば三秒で解けるぞこんな事件。

 これをフォローして隠蔽しなくてはならないとは・・・・。

 ああ、もう。ったく。

「少し寒いですね」

 俺は家の中の暖炉に薪を足そうとした。だが、どこを探しても薪がない。ふとテーブルの上を見るとエアコンのリモコンが。なるほど。暖炉は飾りなのね

 リモコンを操作し、俺は室内の暖房をマックスにした。

 みるみる上がる室温。解ける氷、渇く村長の服。ホッとする駐在の顔。

 ああ・・・・もう本当に情けない。

 あともう一人ホッとしているヤツがいる。八百屋だ。

 あんた・・・・ずっと外にいただろう。これは靴とはまた違った足跡消失トリックだ。ああ、さっき俺が説明したっけ?朝早くにでもスタンバイしておけば来た時の足跡は降雪で直に消える。帰りの足跡を残さない様に雪の中に埋まっているってヤツ。騒ぎを聞いた皆が集まってくるのを待って雪から出て、家の中に入ってきた。というトリックだろう。

 で、騒ぎを聞きつけて村人が入ってきた時、コイツ一人だけ雪で真っ白だったからね。「はい。そうです私、今の今まで雪の中に埋まっていました」って感じで、震えが止まらないくらい寒がっていたし。それに不思議な事に凄い脅えてんの。駐在とはまた違った感じで「世にも恐ろしい物を目にしてしまった」様な感じで、寒さと相まって震えている。一体何を見たんだ?だが成程、推理小説等では簡単に表現されているこのトリックも現実にやると凍死の恐れがあるんだな。まったく、勉強になるぜ。

 ただ一つ気になる事があるとしたら、この八百屋何でそんな事してたんだ?ていうかそもそもコイツは一体何のトラップ担当だったんだ?クレセント錠か?ひょっとしてつららにやはり手動の仕掛けがあったのか?あ、屋根に登った時の梯子の隠蔽とか?雪に埋めないとだしな。

 だがまあ、全く、どいつもこいつも、揃いも揃って本当にヘタクソだな。

 そうこうしている内に村長の服も乾いたし、つららも消えてなくなった。これでいい。後一つ。

「出血に関してはですね」

 さあ、ハッタるぜ。真由美の親父。悪いが使わせてもらうぜ。

「心臓発作によって倒れた村長が、倒れたその先に」

 俺はテーブルの上、先日と同じ位置に置かれている東京タワーの置物を手に取った。

「これがあった。その証拠にほら、返り血で真っ赤でしょう?」

 そう言って俺はニッコリと微笑んだ。

「もともと真っ赤やないかーい」

「何で東京タワー転がらずにそのまま綺麗にテーブルの上に乗っとんかーい」

「おかしいやないかーい」

 とツッコんでくれるユーモアを持ち合わせているヤツはそこにはいなかった。まあ、言われたら言われたで困るんだけどさ。でもさ、いいさ。ああー、茶番だ。まったくとんだ茶番だよ。

「結局どういう状況だったんだ?事故だってお前は言うが、あのクラッカーは?説明してくれないか」

「そうだクラッカーだ」

「クラッカーはどうなんじゃ」

「クラッカーだよ」

「クラッカー」

 活発に意見が飛び交う様になった現場の様子を察して、範人が復活した。更にその尻馬に乗って、ここで今日初めてハゲとデブと猟師と郵便局員が同意見を口にした。ハゲデブガンポスト協定である。

 ここまで来たらもう全て説明する方が自然だろう。実際クラッカーは多分塔子ちゃん達が絡んでいるのだろうが、それを今言うと裏口の件や悲鳴の件に言及してしまいそうなので、ここは当然ハッタリだ。

「つまりはこういう事です」

 俺は、何も問題はないよ?当たり前だよ?って顔をして平然とハッタる。

「村長は数日前に僕達の歓迎会で使用されたクラッカーが余っている事に偶然気が付きました。そして、残すのもなんだからと、使ってみようとしたのです。子供心ですね。ですが、これがマズかった。お医者さんから処方されていた心臓病の薬を飲み忘れていたのです。自らが割ったクラッカーの音に驚いた村長は心臓発作を起こして、倒れ込んだ。そしてその下には東京タワーの置物が。これが今回の悲しい事件の全てです」

「・・・・なるほど」

 この状況だと村長自分に向けてクラッカーぶっ放した事になるけどね。どMか、村長も。だが、密室が確定されて、それでこの状況を説明するなら、これぐらいぶっ飛んだ仮説でないとどうしようもない。現場が不自然なのは変えようがない事実なのだ。なら推理も不自然なのが自然だろう。

 ハゲチャビンも太った医者も一度投げかけた質問に対しては更にツッコんではこない。何かを警戒している様にも思える。まあ、それは「俺が事件を解決する事」なんだろうが。やはりこれは一応、目に見える問題点をある程度指摘しておかないとそれこそ不自然では?という危機感があるからだろうか。犯人ってやましい事してる自覚があるからやっぱりどこか違和感を感じるんだよな。額に書いてあるのを知っているからでもあるのだろうけど。

 だがまあ、これでもうハゲチャビンも太った医者も言う事はないだろう。もう全部言ってしまったからね、俺が。ざまーみろだ。

「ダイイングメッセージはどうなんだい」

「そうだ。ダイイングメッセージがあるぞ」

「説明してくれないか」

 今度はハゲと猟師と郵便局員だが、今何と言った?ダイイングメッセージ?

 そんなものあったっけ?

 俺は死体の指先をじっくりと観察する。

 あ、本当だ。

 確かに村長の指先が赤くなっている。そしてそこには赤い字が。これには気が付かなかった。出血しているから手に血ぐらい付いているだろうという考えが頭に浮かんでいたのかもしれない。

 どれどれ、あ、これは確かにダイイングメッセージだな。血の付いた指の先に何やら文字風の染みがある・・・・。

 これは・・・・「あ」と「り」と「か」

「ありか」?

「ありか」って何だ?「宝のありか」?村に古くから伝わる財宝とか?そりゃ知りたいね。それとも「この殺人計画ありかなしか」って事?そりゃなしだけど。段取りも現場もぐちゃぐちゃだしね。被害者にツッコまれるってどうよ。ううむ、どういうダイイングメッセージなんだ。さっぱり分からんぞ。

「ありか」って何だ?ヒントがいるぞ。俺はこっそり斜め後ろにいる真由美に尋ねようと思ったら先手をうたれた。

「相川さん。お医者さんの名前」

 ああ、「ありか」じゃなくて「あいか」か・・・・。

「あいかわ」ね。

 医者の名前か。これまた村長のダイイングメッセージだけだよまともなのは。最後の良心だな、村長、流石?まあ本当に最後になったけど。確かに毒盛ったのはコイツだろうし、鍵捨てたし、靴履いてたし。今裸足だし。確実に実行犯ではある。

 毒を飲まされ苦しくなった村長は倒れ、更には上からつららが降ってきて(これにはびっくり)出血。血が出て幸いと、最後の力を振り絞って、まあこれは間違いなく「あいかわ」と書こうとしたんだよな。

 医者は医者で目に見えてびくびくし始めたし、こりゃ確定だな。ダイイングメッセージは「あいかわ」だ。

 村長の最後の意志ってわけか・・・・。

 どうするべきか・・・・。

「『ありか』・・・?すいません。この村に『ありかわ』さんっていらっしゃいますか」

 ごめんなさい村長。命には代えられないんです。

 俺は最初の通り、ダイイングメッセージを「ありか」と判断した。

「村長が残したダイイングメッセージ『ありか』。この後に『わ』が続けば、人の苗字になります。『ありかわ』さんという方は、いらっしゃいますか?」

 村人達は首を横に振る。医者のおっさんは倍ほど振る。

「そうですか、では、このメッセージには特に意味がないのかもしれませんね・・・・分かりませんねえ」

 まったく、自分自身、惚れ惚れする程の無能っぷりである。

「分からない」ときたもんだ。だが、仕方がない。「あいかわ」と言う訳にはいかないのだ。

 さあ、とにかく、これで一通り片付いたかな?

 あとはクラッカーとかくす玉だとか、ちょっとは残っているけど、まあ、もう十分だろう。さあ、もう終わらせよう。

「ちょっと待て」

「そうじゃ、明らかにおかしなものがあるぞ」

 ハゲとデブが名乗りを上げた。もう、一体何だってんだよ。というか残るはアレしかないよね。うん、もうアレしか・・・・・・。

 そしてハゲ、デブの順で口を開き、その件について言及する。

「窓の外の吊られた案山子は何なんだあ!」

「股間にボウガンの矢とは、一体何事じゃああ!」

 それはこっちが聞きたいんじゃああああ!!!!!!!

 てめえら何をさらしとんじゃあああああああ!!!!!!首吊り案山子、股間にボウガンって・・・・恐ろし過ぎるだろがあああ。俺家の外から見た時超ビクってなったんだからな!!!おしっこちびりそうなったわ!マジで!とんだハロウィンだよまったく!!

 ああ、もう、これまでずっとスルーしてきても誰も何も言わないし、ああ、いよいよこれは俺にしか見えてない股間にボウガンの矢が刺さっている案山子なのかなって思ってたんだけど、やはり皆さんにも見えてましたか。ああ、そうですか。

「あれですか・・・・」

 俺は窓の外を見る。うわあ・・・・やっぱ滅茶苦茶怖いんですけど。信じられない、マジで。何か黒魔術とかの儀式で使われた人形みたいなんだよ。

 ていうかまあ、このトリックも俺、知ってるな。うん

 吊るされているロープを目で追っていく。屋根まで続き、屋根の下端には滑車が。滑車を伝って、今度はそのロープが宙を渡りどんどん家の外へと繋がっていく。その先端は村の奥にまで及び、見えなくなっている。

 電話等で「窓を開けて外に顔を出して」的な指示をする。本人が顔を出したらロープの延長線で結んでいたバイクを家から離れる方向へとスタートさせる。自然とロープは引き上げられ、対象者は首吊り状態となる。実際ならその後ロープは回収するんだろうが、トラブルでもあったのだろうか、何故かそのまま残ったままだった。何ともお粗末な。

 ボウガンの方も、どっかで聞いた事があるトリックだな。この家の対面50メートル程の所に一本の木が立っている。


 そこにボウガンが仕掛けられているのが見える。

 

 これは直接窓に糸かピアノ線を仕込んで置き、窓を開けたらボウガンの矢が家の中へと自動的に発射される様にしてあったのだろう。これもボウガンの仕掛けは放ったらかしだった。

 お片付けしなさいよまったく。散らかしたら散らかしっぱなし。困るのは探偵さんなんだからね。言及しないけどね。とにかくトリック三昧で行こうぜ!みたいなノリになっちゃったのかもしれないね、ひょっとしたら。テンション上がって仕込んだは良いけど後片付けで面倒くさくなる。うんうん、あるある。

 で、前哨戦はこんなものにして、こいつらの一番の問題点に移るとしましょうか。

 はあ、もう溜息しか出ないなこれは。

 ・・・・・・何で「窓」がキーになる仕掛けを一緒くたにしちゃったかね?

 そら同時に作動しちゃうよ。窓が開いた。バイク発進で首吊りトラップ発動。ボウガンから放たれた矢が案山子の股間に命中。

 それで結果、こんなシュールな画に、と。

 で、そもそもが案山子と村長を間違えるって・・・・もう何やってんだよまったく。

 まあでもここは案山子で良かったって事か。このトラップにもし本当に村長が引っ掛かってたら、最悪な光景になってただろうしな。

 で、何で窓が閉まっているのか。あ、まさか、ここでクレセント錠の密室トリック使ったのか?それ案山子を外に締め出しただけじゃん。

 どういう意味があんのコレ。八百屋のおっさんよ。ねえ。

「あの案山子はどういう意味なんだ」

「これからこの村で起こる連続殺人を暗示しとるんかのう?」

 ハゲとデブが仲良く唾を飛ばして俺に詰め寄る。

 ああ、もうウゼえなまったく。あ、でも郵便局員と猟師はちょっと静かになったか。どうしたんだ?

 ああ、はいはい仕方がないね。答えてあげましょうかね。

「この案山子はハロウィンの飾りつけですね」

 俺はとにかくあっけらかんと宣った。

「ハロウィンの飾りつけ?」

 医者に向かって頷く。

「そうです。今この『股間矢案山子』が都会で流行っているんです」

「『股間矢案山子』・・・・」

 馬鹿らしいトリックには馬鹿らしく返すに限る。

「都会では今、同じ様に股間にボウガンの矢が刺さった案山子が至る所で吊るされています。なあ、真由美?」

 範人や石コロじゃアドリブが効かん。俺は仕方なく真由美に振る。

「はい。その通りです。地域に寄っては鶏の生き血をどっぷりと浸からせたこけしをお地蔵さんの頭頂部に乗せる時もあります。『こけし血地蔵』と呼ばれています」

 怖えよ!!アレンジ効かせすぎだよ!!何「こけし血地蔵」って?夜思い出したら眠れなくなるレベルのフレーズだよ。

 まあ、そんな感じでなんかごまかしました。窓の外の伸びるロープとか木に仕掛けられたボウガンとか、後始末に関しては聞かれなくて良かったよ。

 はい!これで、無能探偵の推理は終わろう!あ、だが最後に。

「一応!一応、アリバイを聞いておきましょうか」

 いくら無能と言えども探偵然とした仕事はしておかないとな。簡単にアリバイを聞いて終わりだ。

「じゃあ、まず駐在さん」

「わわわわわわわっわわわっわわわわわ、わたわたわたわたわわあたく、わたーーーくしわわたくし、わたくしですはね、あのそのあどぼぼぼぼぼおぼぼぼおぼぼ」

 おおおお、頼むから落ち着いてくれ。

 俺は泣きたくなった。

 とにかく俺はそのままひたすらに「事故説」を押し続けた。当然、村人は何も言わなかった。



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