師匠の言葉
その後、ひ孫は仲間3人を連れてきた。
精霊達の許可も出たので、改めて約束の森に入ることが出来たのだ。
いきなり飛ばされたひ孫は、精霊達に
「酷いよ。説明なく飛ばして」
村の前で急に落とされたので、地面に転がってしまい、しばらく意識がなかったとか。
その話しに爺バカ師匠は、精霊達に「メッ」と叱っていた。
甘いと思うが、勇者に嫌われるのが異常に怖い精霊達は、涙を流して誤っていた。
ふよふよ勇者の周りを飛びながら、両手を合わせて拝む姿は、可愛らしい光景だった。
爺さんが勇者だとひ孫以外の3人は知らなくて会った瞬間硬直したり、
「うわ、伝説級の人じゃないか」
(でも、凄い髭)
「あ、憧れの勇者様」
(お歳を召しても、威厳があるわ)
「凄い、勘当した。握手してください」
(凄い、凄いや)
それぞれの声も聞こえてきそうだ。
そして2日目には魔物退治の依頼連絡が入り、
「うわ、王都からの伝書鳥だ」
「おう、お前達、腕を見てやるからついてこい」
「ええ~(全員)」
ひ孫達のパーティと師匠、僕と共同で対峙するなどした。
魔物退治もひと段落。また森に戻り、穏やかなひと時。
ひ孫の青年ミラクは、豹耳が似合わないイケメン外見、
温厚だが、無口そうなのにそれに反して、よくしゃべる。
「俺ね、村にいても仕事出来なくて。体力はあったから、ギルドに登録した。
運が良かったよ。こうして仲間が出来たし~」
今までの過去の話しからどんどん披露してくれて、止まらない止まらない。
「お前、婆さん(自分の妻)の口調に似てるな」
と、師匠が呆れていたが、僕は師匠に性格は似ていると思う。
「え、最初の婆ちゃんに似てるの?俺。うわ~、いいのか悪いのか判断つかないなあ。
それより爺ちゃん。俺の婆ちゃん(師匠の娘)が生きているうちに会いに行ってよ。
爺ちゃん後1年なんだろ。婆ちゃん、気にしてた」
彼が師匠の下を訪ねてきたのは、師匠自身がこの9年の間に年1回単位で獣人の里へ行っては
自分の事情を家族に話していたからだ。
「ああ、そうだな。行くべきかな」
自分のひ孫に獣人の里の話を聞きつつ、ふと自分の子供達の事を彼は思いだしていた。
成人した姿、結婚式の様子、孫やひ孫達を思い浮かべる。
そんなしんみりした雰囲気の中
『婆ちゃんて言うから、誰の事かと思った』
『彼はひ孫でしょ。主の娘の事よ』
『そうだった』
こそこそ部屋の端では、契約者達が密談。
そこへ背後からラグナスは近づいて
「貴方方は・・」
ちょっと残念そうな顔をさせる。
『だって、200年近くとなると、つい誰が誰の事かわからなくなるのよ』
大きな精霊が可愛く言うと、ドラゴンと魔族の男性が苦笑い。
『ちょっと。自分達もそうでしょ』
『ま、まあな』
『・・・』
いや、あの苦笑いは、精霊が歳のわりに可愛く言ったからだとラグは思ったけれど
口をつぐんだ。
精霊の機嫌を損ねると、また厄介だからだ。
「爺ちゃん」
爺孫の話しは、まだ続いていた。
「なんだ?」
「いつ来てくれる?俺、その時、家族全員で会いたいんだ」
そんな会話に移っていると、契約者達はこぞって
『行こう、行こう。ついでに人族やエルフ族の里へも行こうよ』
『賛成』
『酒、酒』
ぎゃあぎゃあと表現するほど騒ぐので、ついに師匠も折れた。
「分かった。来週、それぞれ1週間滞在しよう。手紙を書くから、運んでくれるか?」
精霊達はきゃわきゃわと騒ぎだし、魔族の男女は支度があるからとサッサと消えた。
「師匠」
「ラグもついてきてくれるか?」
「はい」
ひ孫達は、先に親に知らせると、次の日にはパーティ仲間と獣人の里へ出発。
精霊達は、師匠が書き終えた手紙を持って上空へ飛んで行った。
その様子を見届けて
「ラグ。弟子としてお前を巻き込んだのに、十分教えられなくて済まないな」
普段の師匠とは思えない真面目な言葉。
「いえ。この国で生活出来るだけの知識は頂きましたから」
僕は、ここまで育ててくれたことの方が有難いと思う。
だから、師匠には弟子としてよりの感情よりも、僕のお爺ちゃんであり師匠であり、
家族だと感じていた。
「そうか。後8か月。学べると思うものは、吸収しておいてくれ」
「はい」
その後、精霊達が家族からの返事を持ってきて、師匠はその返事に微笑んだ。
師匠の旅行プランが発表された。
期間は3週間弱。これは予定が変更されるかもしれない為。
最初に人族の里で、孫の代以降しかいないが、会いたいということで。
次にエルフの里。今は奥さんが長をしていて、歓迎してくれるということ。
最後に、獣人の里。まだ子供も孫もひ孫もいるので、たぶん長く滞在するかもと。
そして当日。僕自身は、およそ一か月分の2人分の支度をして大きなカバンを2つ
ドラゴンに預けていると、小さな精霊達にまとわりつかれながら
師匠がやってきた。
「師匠?」
白い髪を綺麗に刈り取り、今時のショートの髪型に。
白い長い髭は、綺麗に剃られていた。
「どうしたんですか?そんなに身綺麗にして」
「いや、最期くらい本来の勇者の姿で会おうかなと思ってさ」
今まで転職したと魔術師風のだらだら服に、フード付マントを羽織っていたのに
今はいかにも勇者風の姿。
渋いイケメン風な騎士を思うような出で立ち。少しひ孫に似ているかもしれない。
腰にもいつも退治する時に使う長剣やグッズ。
「うわ、この9年は何だったのかと思うほど、恰好良いです」
僕は、自分が助けられた当時のだらしない恰好よりは、こちらの姿の時に助けられたら
素晴らしい記憶になったのにと思った程だ。
「ラグ。お前、失礼なこと考えてないか。顔が今までが残念だったと言っているぞ」
「分かりました?流石師匠」
「・・・お前。・・ここの住人達(精霊)に似て来たな」
『ラグ仲間~、仲間~』
ラグの周りを小さな精霊達がふよふよと、喜んで飛んでいる。
「ははは。9年も住んでますから」
僕よりも長く生きている小さな精霊達に
「ね、小さな姉貴達」
と、お姉さん扱いした言葉を伝えると、精霊達はピタッと動きを止め
飛びながら器用にスクラムを組む。
小さな生き物がこそこそする姿は、人や他の大きな姿のものからは、可愛らしい行動だ。
つい微笑ましく思ってしまう。
そうとは知らず、ひそひそ少し話し合いがされ、答えが決まったのか
またラグの周りをふよふよ飛び回る。
『宜しい、私達の弟よ』
『よきにはからえ』
えへんと胸を張る者も。
ラグナスの目は、生暖かいものを見る目だ。
「どこの誰の真似だ?」
勇者は、額に手をあて、なんだこいつらはと投げやりな言葉掛けになっている。
『へへへ、エルフの王かな?』
「くだらん。行くぞ」
勇者の鶴の一声に、全員がそれぞれの位置についた。
ドラゴンの男性は、広い地に走り、そこで元の大きさに戻り勇者を背に乗せる。
魔族の男女は、勇者の荷物を異空間に入れて、飛び立ったドラゴンに続く。
ドラゴンの女性は、元のサイズに戻ると、ラグを背に乗せる。
『ラグ、しっかり持ってね』
「はい」
大中小の精霊達が飛び立つ中、ラグ達も勇者に続く。
最初に向かうは、人族の里。




