#12 『死闘』
剣を正面に構え、猛進してくる大猿の方へこちらからも接近していく。
【死闘】の効果によって命が削れている今、大猿は速攻で勝負を決めに来るつもりだ。
それは早くここから出たい俺にとっても好都合!
まず最初に大猿が起こしたアクションは、ジャンプ。走り幅跳びのようにこちらへ飛んでくる。飛びかかりか!
「【神眼:空刻】ッ!!」
眼の空間操作による短距離転移を発動し、落下地点の少し奥に瞬間移動する。とりあえず一撃!
ザン!という音ともに斬撃が飛ぶ。が、上手く当たらずに逸れ、その脚を傷つけることは無かった。
クソっ、スキルがあるとはいえ、まだ上手く使えねぇ……。剣とか未経験なんだよ……。
斬撃によって、俺が背後に回っていたことに気づき、前方へ一度飛び退く大猿。
逃がすか!!一度攻勢に出れた今、攻撃の手を絶やさずに攻め切る!今この場では大猿の方が格上。ならせめて防御に回らせる!
走りながら剣を振るい、大猿の進行方向を塞いでいくように斬撃を飛ばす。飛んだり跳ねたりしながら斬撃を避ける大猿だが、少しづつ距離が詰まっていく。
本当は、連続で転移しながら攻撃を挟めたら良いのだが、当然そこまでの練度はないので仕方なく足をせかせか動かす。
何回か体表をかすりながらも逃げていく大猿。だがもうすぐで追いつくぞ!
──────ザン!!!
再度飛ぶ斬撃。目の前を通過したそれは大猿の動きを制限し、急停止に失敗したらしい大猿が前方に転んだ。よし!このまま追撃ッ───!?
«【幻術】が自動発動しました»
幻術により、ジャンプして滞空している俺が発生。そしてその俺の幻術を、転んだ姿勢のまま蹴り飛ばした大猿の足。
誘い込まれてた!?罠かよ、危なかった!
「だが!好機だ!!サンキュー【魔神眼:虚欺】」
まんまと罠に掛かってしまったとはいえ、自動発動した幻術のおかげでやり過ごすことが出来た。ならばこの機を有効活用するッ!!
未だ転んだ体勢のままの大猿。少し浮いたその顔の真下に転移し、その流れで真上へ思い切り剣を突き上げる。
死角からの刺突を食らいやがれ!!
──────ビュン!!!
風を斬る音。ギリギリのタイミングで視認したらしく、上手く首をひねられ避けられた。が、まだだ!体勢を整えて次の攻撃に繋げる!
「総剣術の参、『廻り渦雷』!!」
今度はジャンプをして上に飛び上がり、横回転斬りのような技を放つ。
しかしそれに対応して姿勢を低くした大猿に当たることはなく、剣は再び虚しく宙を斬った。段々と動きが速くなってるせいで、攻撃が当たらねぇ……。
って、やばい!空中で動けない間で大猿に起き上がる時間を与えてしまった。ここからは攻守が逆転しそう───ッ言った側からッ!!
俺がギリギリ着地するタイミングを狙い、大きな手が上から迫ってくる。空間操作による短距離転移により回避し、空振りして叩き潰そうとした手がバン!!!と大きな音を立てた。
最初は上手く回避したが、次々と迫り来る拳に体勢が崩され状況が悪化。離脱し立て直しをするために一度転移をしようとしたが───
─────────グオオオォォォ!!!
またかよ咆哮!再びの大音量に体が硬直する。ックソっ、転移がキャンセルされた!しかも動けないところを狙ってまた攻撃しようとしてる。
大きく振りかぶった拳がこちらに飛んでくる。どうする!?何故か転移は使えないし、体は動かないから避けるのもままならない。
このままじゃ当たるぞ!?何か手は─────────
«【絶対騙欺】が自動発動しました»
«【幻術】が自動発動しました»
「ッ!最っ高だ【魔神眼:虚欺】!!!何が何だか分んねぇけどGJ!」
この危機的なタイミングに複数の効果が自動発動する。
【魔神眼:虚欺】が何かをした途端に体が動くようになり、その隙を見て転移。また、同時に発生した俺の幻術に釣られて大猿のパンチは逸れ、俺に当たることはなかった。
拳に手応えが無かったのだろうか、不思議そうに唸る大猿を後ろから見ながら胸を撫で下ろす。あっぶねぇ〜〜。
俺が背後に転移したことに気づいたらしく、地面にめり込んだ拳を再び構えこちらを向く。大猿は既に満身創痍。どうやらこの短期決戦ももう終わりが近いらしい。
「来いッ!」
言葉は通じずとも拳で語る間柄。問答無用、と赤いオーラを湛えた拳を構え大猿が迫り来る。
俺も大猿に向かって走りだし、大きく跳躍。剣を構えながら滞空する俺を目掛けて、大猿の拳が近づいてくる。
お互い命を賭けた最後の一撃になるだろう。そんな極限状態に、超集中を使わずとも周囲の景色が遅くなる。そしてそこには、勝ち誇ったような大猿の顔が見えていた。
あいつは思っているのだろう。空中だから身動きは取れず、避けられなくて死んでしまう─────────なんてな。
所詮は猿か。今まで使わなかっただけで、空中でも転移は出来る!!!
空中操作により拳の真横へ転移し、構えた剣で攻撃を行う。
「【完全逆撃】!!!!」
そして首を切りつけた剣には、俺のステータスに加え大猿のパンチの威力も加わった。
─────────ザン!!
そして戦いが終わった。
«レベルアップしました»
«基礎能力が上昇しました»
«スキル【咆哮[熟]】を獲得しました»
«レベルアップしました»
«基礎能力が上昇しました»
«レベルアップに付随しスキル熟練度を獲得しました»
«スキル【歩行術[初]Lv:3】が【歩行術[中]Lv:1】にレベルアップしました»
«レベルアップしました»
………
……
…
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Lv:36〈第二階位〉
個体名:高峰翔
性別:♂
種族:ヒューマン〔進化可能〕
職業:〔未設定〕
ステータス:
STR:370
AGI:370
VIT:360
INT:380
DEX:380
通常スキル:【鑑定Lv:1】【予測Lv:3】【呼吸法Lv:1】【精神攻撃耐性Lv:6】【歩行術[中]Lv:1】【咆哮[熟]】
特殊スキル:【先駆者】【武術ノ極】【魔物図鑑】【完全逆撃】【命籠】【死闘】
唯一スキル:【到達者】【超学習】
原初スキル:【希望】【強欲】
称号︰〘剣〙〘特異者〙
sp:260
ランキング〔測定済み〕
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「すこし、ヤバかったな」
どう考えても焦りすぎだった。
まだ、外の状況も分からないし、自分の想像だけで美咲が危険だと断定するのは、俺にとっても返って良くない。
だって死んだら元も子もないからな。
慎重かつ適度に焦ろう。
1人反省会を心の中で開催していると、開けた場所の中央部に転移魔法陣が発生する。
「ふぅ。あと何階層あるかわかんないけど、さっさと終わらせて美咲の所に行かねば!!」
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[転移魔法陣]
使用しますか?[Yes/No]
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もちろんYesだ。出来るだけ簡単なとこでお願いします。
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ランダム転移を開始します
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眼で仕組みでも見とくか。じゃあね猿ども!!なんだかんだ全くエンカしなくて助かったぜ。
群れとかとエンカしたら危なかったな。
さよなら73階層!
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転移が完了しました
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