#8 『目が合ったら───』
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目を開くとそこはさっきの部屋ではなく、岩山の頂上だった。
周りは森に囲まれ、離れた所により高い岩山が見える。
転移が完了したのか。
さて、ここは何処だ。
この空間全体を【超解析】で視る。
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[73階層]
備考:大きく、岩山フィールドと森林フィールドに別れており
それぞれが石巌巨猿と 森大猿の縄張りとなっている
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猿?
1番最初は猿か。
なんかパッとしないな。
今いるのは石巌巨猿の縄張りっぽいな。
取り敢えず、山から降りるか。
そう思い、山の頂上から離れ、下山しようとする。
そして目が合った。
それは猿であった。
見た目は普通の猿と余り変わらない。
違いは少しガタイが良い事。
特に違う所は腕の肘から先が岩で出来ているところだろうか。
手がある筈の所は、岩の先が5つに別れ、鋭利になっている。
あれで食べたり出来るのか疑問だが、そんな事はどうでもいい。
俺は思う。
これ、ちょっと不味くない?
目が合ったら5秒でバトルとかそういう感じじゃないことをいのr
その瞬間、轟音が鳴り響く。
さて、今起こったことを整理しよう。
1、急に猿が飛びかかってきた
2、反射的に俺が回し蹴りをした
3、頭にクリーンヒットして猿が吹っ飛んだ
4、猿が岩にぶつかって物凄い音がした
え?なんで吹っ飛ぶん?
«スキル【完全逆撃Lv:1】を獲得しました»
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【完全逆撃】
Lv︰1
タイプ︰特殊〈技術〉
レアリティ︰特殊
効果︰敵の攻撃に合わせて反撃した時、反撃の威力に関わらず敵の攻撃と同じ威力のダメージを与える
取得条件︰敵の攻撃に完璧に合わせて反撃する
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こいつか
俺のステータスは低いのに敵にあれ程のダメージを与えられる訳がないから。
俺の勝ち筋はこいつしかないっぽい。
剣も使えるが、今回は超接近戦闘の方がいいだろう。
剣はカウンターには向かないと思うからな。
それに俺に剣を使える自信がない。
スキルがあると言っても、何処まで使えるのか信用がまだ出来ない。
てかあんなに吹っ飛んだけどそんなやばい威力だったのか。
砂埃が晴れ、猿の姿が顕になる。
そういえばこいつのこと視てなかったな。
というわけで。
【超解析】
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〖巌猿〗
Lv:23
性別:♂
種族:巌猿
職業:歴戦猿
ステータス:
STR:1000
AGI:300
VIT:200
INT:20
DEX:30
通常スキル:【体術[達]】【道具作成術[上]】【歩行術[熟]】
特殊スキル:【命籠】
称号︰〘変異種〙
sp:230
備考:岩山に生息する魔猿の一種である石猿の変異種
進化した石猿である〖石巌巨猿〗をボスとする、30匹ほどの群れで暮らす
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ふむ
これほどの情報が解るのか。
ステータスはおいといてこの山に30匹程度の猿と、そのボスがいることは分かった。
猿が30匹にその進化系がいるとか大変だな。
まぁ全部倒さなきゃいけない訳でもないが。
てか力つっよ。
俺の10倍か。
「きいぃぃぃい!」
猿改めて巌猿が、煩わしそうに体を震わす。
それなりにダメージは受けてる見たいだ。
さてどうするか。
と言ってもカウンターしか勝機がない気もするが。
最悪の場合、目を使えば何とかなるが、一つ一つの戦いでどれだけ成長出来るかが生き残る鍵だと俺は思う。
この非日常の中では、強くならなければ生き残れないだろう。最初に目にした乱闘を見て俺はそう確信している。
ならばこれはいい機会だ。強くなるための。
成長できる機会に巡り会うことが出来たなら、成長することに全力を尽くす。
これが俺のポリシーだ。
まぁこんな事態は初めてだし、強さの面での成長とは思わなかったけどな。
「こいよ、お猿さん」
その言葉と同時に巌猿が近くの岩を掴む。
そして振りかぶり、投げた。
うおっ?!
はやっ!!
プロ野球選手顔負けの豪速球ならぬ轟速岩が飛んでくる。
それを俺は屈んで避ける。
余りの速さから生じる風圧が感じられる。
巌猿の方を見ると、また岩を掴もうとしていた。
「させるかっ!」
巌猿の方に走り、距離を詰める。
巌猿は俺の方を向き、掴もうとしていた岩を離し、拳を構える。
殴り合いは俺の方がステータス的に不利、と言うより無謀であるが、別に一か八かでは無い。
猿が間合いに入り、俺も奴の間合いに入る。
先手を取ったのは巌猿だ。
俺の顔目がけてパンチを繰り出す。
俺はそれを顔をずらして避ける。
信じられないほどに速いが、反応できないほどではない。
これはステータスの影響だな。
前だったら間違いなく頭が巌猿の拳に貫かれていただろう。
拳を避けた俺はすぐさま奴の顔を殴る。
だが、巌猿はそれをものともせず、更に攻撃してくる。
っ!?効いてない?!!
カウンターのタイミングが悪かったのか。
まぁいい。
巌猿の拳の連撃を避け、蹴りによる追撃を躱し、後ろに跳び距離をとる。
奴には攻撃に耐えかねて、逃げたように見えただろう。
だが、こいつは罠だ。
俺がカウンターに成功したのは、飛びかかってきた巌猿に回し蹴りをかました時だ。
そいつを再現する。
奴の間合いから抜ければ、追撃してくるはずだ。
脚を空振りした巌猿は、少しイラついたように此方を見据える。
そして、睨み合いが終わり、俺の読み通り、巌猿が飛びかかってくる。
速さは恐ろしいが、動きが読めれば対処は容易!
【完全逆撃】!
俺の回し蹴りが、巌猿の顔にクリーンヒットし、吹き飛ぶ。
そしてすかさず追撃する。
カウンターで奴が吹っ飛んだ距離はおよそ20m。
昔の俺がダッシュで2.5秒程度の距離だが、ステータスの影響でより早くなり1秒弱になったとすれば、奴はまだ起き上がり初めの筈だ。
ところで、人は目の前に突然虫が現れたらその人はどうするのだろうか。
その答えはだいたい3パターンほどに分かれる。
無意識に目をつぶるのが1つ
反射的に手で追い払おうとするのが1つ
そしてその両方を行うパターンが1つだ。
これらに共通するのは、無意識且つ反射的ということだ。
さて、俺に攻撃を避けられ続け、多少興奮し、イラついていて俺の事を鬱陶しく思っている巌猿が、目を開けた途端俺の殴り掛かる姿を見たらどう行動するか。
その答えは簡単だ
そもそもパターン1は、虫が目に入れるサイズ感だからそうするのである。
つまり奴の次の行動は…
巌猿は、起き上がった目の前に俺がいることに気が付き、思わずパンチを繰り出す。
俺の読み通りだ。
土壇場から放たれた火事場の馬鹿力とでも言うべきそのパンチは俺を殺すには十分すぎる威力を持っていた。
だがしかし、先にその攻撃を読んでいれば対処は容易!【完全逆撃】で終わりだ。
翔の危険性を不適当に理解し、本能的に、これを外せば死ぬと思考した巌猿は、己が持つ唯一の自己発動型スキルを使った。
そのスキルの名は【命籠】
己の生命力を消費し、一撃の速度と威力を底上げするスキルである。
ステータスが上がっていても、速度が1000倍以上にもなったその必殺の一撃は、攻撃されたことも認識させずに敵、つまり高峰翔を葬る…筈だった。
俺は念には念を入れて【極集中】を発動していた。
知覚速度が1万倍ほどになった俺に拳が迫る。
こいつ何かしたのか?
スキル欄にあった【命籠】か。
【極集中】を使ったのにさっきより10分の1くらいしか速度が落ちてない。
どうやってか分からないが、恐らく大幅に強化された一撃なのだろう。
当たったら100%死んでたな。
まぁ当たればの話だがな。
パンチを避けながら俺もパンチを繰り出そうとし…あれ?まって!?体が動かない!え、まって、ちょ、しぬ!なんで!??
あ
意識加速系か〜。
どうしよ
猿の拳が近づいてくる。
自分の体は動かせない。
もしかして、このまま俺は俺が死ぬのをじっと見ていなければならないのか。
いや、まだ何か出来ることはあるはず。
幸い考える時間は残されている。
さぁどうする
俺の体は動かない。
…はい解散詰みましたね。
何も出来ないんじゃ…待てよ、眼はどうだ?
そうだ、メチャ強の眼をなんで使わなかったんだ!
確か神眼:空刻に空間操作があった!
詳細は分からないが本能的に使い方がわかる。
此奴で俺とサルの距離を俺の拳が当たるように縮めれば…!
力を発動する。
と、俺の腕と奴の距離が無くなる。
放たれた(?)拳が、巌猿の急所に当たる。
【完全逆撃】が発動し、戦いが終わった。
«スキル【命籠】を獲得しました»
«レベルアップしました»
«基礎能力が上昇しました»
«スキル【歩行術[初]Lv:1】を獲得しました»
«レベルアップしました»
«基礎能力が上昇しました»
«レベルアップに付随しスキル熟練度を獲得しました»
«スキル【歩行術[初]Lv:1】が【歩行術[初]Lv:2】にレベルアップしました»
«レベルアップしました»
………
……
…
レベルアップとスキル獲得の通知が鳴り響くのを聞き、
気が緩み、思わず尻もちを着く。
あぶねぇ〜距離の縮め方ミスったら俺の頭が吹き飛んでたな…。
最後の一撃の威力やっば。
山の表面が大きく抉れてるとかどんだけ強かったんだよあのスキル。
成長がどうのこうのとか言ってたけど、眼を使わない舐めプしてたら直ぐに死んでしまいそうだ。
あの巌猿は変異種だから、普通の石猿はあんなに強くない…んだよな?
他の猿もこいつと同じくらいだったら詰みではないがだいぶ辛い。
そういえば俺のステータスはどうなったんだ?
確認するか。
【鑑定】
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Lv:18〈第二階位〉
個体名:高峰翔
性別:♂
種族:ヒューマン〔進化可能〕
職業:〔未設定〕
ステータス:
STR:190
AGI:190
VIT:180
INT:200
DEX:200
通常スキル:【鑑定Lv:1】【予測Lv:2】【呼吸法Lv:1】【精神攻撃耐性Lv:6】【歩行術[初]Lv:3】
特殊スキル:【先駆者】【武術ノ極】【魔物図鑑】【完全逆撃】【命籠】
唯一スキル:【到達者】
原初スキル:【希望】
称号︰〘剣〙
sp:80
ランキング〔測定中〕
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ステータスの伸びは何故か器用が1番だな。
戦いでカウンターを多用したからか?
カウンターを使って技術が成長したのか。
さて、これからどうしますかね。
取り敢えず今死線を潜り抜けて分かったことは、魔物とはいえ、動物に近い生命体を殺すことに抵抗が無かったということだ。
常識的に考えたらとてもおかしい。
今まで普通に生きてきた好青年が突然変なことに巻き込まれて命の取り合いしたのにメンタル万全おkなのは本当はありえない。
でも今はフィクションがリアルになった世界だ。
必死だったからかもしれないが、必死でやれば殺れるのであれば十分だ。
今は深く考えるのをやめよう。
それより生き残って外に出なければ。
やっぱり移動するか
下山を開始しよう。




