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Everlasting  作者: 水無月
行きつく未来

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いつも感想・誤字脱字報告などを下さりありがとうございます。

27話から投稿しております。

23日にも連続投稿(出来たらしたい…!)する予定です。




「ヘレン、少しいいかしら?」

「お婆様…? もちろんです」


 ノアがヘレンを妻に、と言ったその日の夜。エリザベスはヘレンの部屋を訪れていた。かつて彼女の部屋を訪ねた時、ヘレンは幼いにも関わらずはしたないのかもしれないと恐れていた。

 しかし今は、当然のように来訪を受け入れている。それがいつどこで恐れを緩和させたのかは知らないが、いい傾向だとエリザベスは感じていた。…かつてのヘレンは、常に気を張っているように感じられたから。


「夜分遅くに悪いわね」

「いいえ。お婆様、今回のことは……」

「言わないで頂戴、ヘレン。私がちゃんと見ていなかったということも、しっかりしていなかったことも悪いの。貴女に謝られたら、私はどうしていいのか分からなくなってしまうわ」


 エリザベスの言葉に、ヘレンは少しだけ眉尻を下げながらも微笑みを浮かべた。


「何か飲まれますか?」

「そうね…私は温かい紅茶でも頂こうかしら」

「分かりました」


 ヘレンは一度頷くと、卓上にあったベルを鳴らし、マリリンを呼んだ。


「はい、ヘレンお嬢様」

「夜遅くにごめんなさい。温かい紅茶と…葡萄酒をお願いできる?」

「かしこまりました」


 ヘレンがそう話すを見て、エリザベスは驚いた。


「ヘレン、貴女お酒を飲むようになったのね」

「あぁ…カロリアンで少しだけ嗜むようになったんです」

「そう…」


 自分が知らないうちに、ヘレンはどんどん大人になっていく。そのことが嬉しくて、そしてその成長を見られなくて、少しだけ寂しく感じた。

 そうして少し待つとマリリンが紅茶と葡萄酒をもってやってくる。それに手を伸ばしながら、エリザベスは可愛い孫を見つめた。


「…今まで、カロリアンではどのように過ごしていたの…?」


 ヘレンのことは、ノアからも聞いている。彼女がどのようにかの国で過ごしていたのかも。だが、エリザベスはヘレンの口から聞きたかった。彼女は聞かないと、話してくれないことが多かったから。


「カロリアンで、ですか…? ノア様のお家でお世話になっていて……」


 ヘレンの少しだけ低い声を聞きながら、エリザベスは笑みを浮かべる。思ったよりも楽しく過ごしていたようで、安心していた。


「そういえば、恐れ多いことながらお城に勤める方ともお会いして……」


 話し方こそ落ち着いているが、頬を紅潮させながら話すヘレンの様子に、エリザベスは頬を緩める。そしてカロリアンでは楽しく過ごしていたのだな、と感じた。


「……ヘレン」

「はい」


 ヘレンの話がある程度落ち着いたのを見計らって、エリザベスはヘレンにある問いかけをした。


「…ノア殿のことは、どう思っているの?」

「っ……!」


 その瞬間、ヘレンの頬が赤く染まる。そしてノアの独りよがりな考えではなかったのだな、と感じた。


「その……」


 言葉に詰まるその様子が、年相応に見えて可愛らしい。そう、自分の孫娘はとても可愛らしいのだ。ヘレンもカレンも、アンドレアスも……。


「ふふっ……好きなのね?」

「えっ!? あ、あの、その…」

「どこが好きなの?」

「!? あ、えっと……」


 はっきりいってノアからヘレンへの求婚の話を聞いたとき、戸惑いを隠せなかった。どうしてヘレンを、とも。確かにヘレンは頑張り屋で、エリザベスにとっては自慢の孫だ。だが、相手は公爵家であり、さらには他国の人間だ。どうしてそのような人物がヘレンを求めるのか理解できなかった。

 確かに、恋情でそのようなことを望むことはあり得る。だが、ノアはそのようなことだけで婚姻相手を望むとは思えなかったのだ。

 可能性としては、国家間の繋がりを強化するためかと思えたが、だがカロリアンとバーゲンムートはとても遠い。わざわざ遠い国を選ばずともいいはずだ、とも。

 …要は、エリザベスの目にはノアという人物は個人の感情だけで婚姻相手を決めるとは思えなかったのだ。


「……ノア、様は、とても、優しくて…」

「それで?」

「私の悩みも、たくさん聞いてくれて……」

「お優しいのね? 他には?」

「っ、おばあさま、恥ずかしいです…!」


 恥ずかしがるヘレンの姿を見て、エリザベスは本当に好きなんだと感じ、安心する。そうでなければ、ヘレンのこのような姿を見ることは叶わなかっただろう。


「……ヘレン」

「っ…なんでしょうか、お婆様?」

「…本当に、ノア殿と結婚して、貴女は幸せになれる?」

「お婆様…?」


 可愛い可愛い孫娘。たくさんの苦労をさせて、そして放り出された娘。他の孫も同じように可愛かったが、ヘレンは殊更目をかけてしまっていた。

 エリザベスはヘレンの両手を手に取り握りしめる。


「ヘレン。貴女には幼いころからたくさん寂しい思いや、辛い思いをさせたわ…。私がもっと早くに気づけていれば、防げたかもしれない……。いいえ、気づいていたのかしれないけれど、わざと気づかないようにしていたのかもしれないわ…私の、罪ね」

「そんな、お婆様!!」


 否定しようするヘレンの言葉を、エリザベスは否定する。だって、本当にそうだから。


「……ヘレン、貴女がもし、ノア殿を本当に好きで共になりたいと思うのであれば、私は全てを使ってでも応援するわ」

「お婆様……」

「でも、もし泣かされるようなことがあれば、同じように全てを使ってでも貴女を守るわ」


 それが自分にできることだろうとエリザベスは思う。…それが、自分に出来る贖罪だろうと思う。


 前マイヤー伯爵…エリザベスにとって夫であり、大切だと思う人が亡くなり、エリザベスは気が塞いだ。言い訳にしかならないかもしれないが、息子であるドナルドが大きかったのもある。ドナルドとその妻、ジャクリーヌの間に子が長年出来ずに悩んでいることも知っていた。夫が存命の時に二人は結婚し、そして長年子が出来ずに悩んでいる時、夫が体調を悪くした。

 夫の代わりに二人の相談に乗るか、貴族として二人を離婚させるかを決めるべきだったが、愛した夫を優先させた。それに、ドナルドがジャクリーヌを愛していることを知っていたから、エリザベスは夫を理由に二人に干渉することをしなかった。

 ……結局、エリザベスも弱かった。

 政略結婚かもしれなかった夫を愛した。そして夫も愛してくれた。ドナルドを授かり、とても幸せだった。家系なのか、子供が授かりづらく、悩んだ時期もあったが、それでも夫はエリザベスを愛してくれた。

 亡くなったとき、この世の終わりかと思うほど泣いた。


「……ヘレン、貴女は、絶対に幸せになるのよ」


 自分は幸せだったと思う。ドナルドも、愛する人と共に出来て幸せだろうと思う。だが、それで終わりではないのだ。それに、自分たちは気づけなかった。自分たちが幸せになって、終わりではないのだ。物語ではないのだから。


「貴方が幸せになって、そして生まれてくる子供を幸せにするの。それが一番最初に出来るのは、両親だけよ」


 愛し愛されて生まれてきたのだと、そう教えてあげるのは両親だ。そうして子供が、愛されて生まれてきたのだと知れば、自分がこの世に生まれてきたことを幸福に思える。どんなことがあろうとも、誰かに愛されたのだという記憶は、その人にとって一生ものになる。

 例えその人生がどんなに苦しく、悲しく、絶望に満ちていても。言葉に出来ないほどの悲哀にくれたとしても。それでも、産み、名をくれた愛はあったのだと。

 自分が生まれてきたことが間違いではないのだと。

 

 だが、それは言葉にしなければならない。

 どんなに愛していると本人は思っても、言葉にしなければ相手は理解できない。自身の子供だとしても、結局は他人なのだから。言葉にして、重ねて、初めて少し理解できるくらいがいいのかもしれない。

 …エリザベスがそれを知ったのは、この年になってだが。


「お祖母様?」


 自分の言っていることが当たり前なのか、それとも理解できなかったのか。ヘレンが不思議そうにエリザベスを見る。その純粋な瞳に、まだ若い芽だとエリザベスは感じた。

 自分が他人の考えに寄り添うことは出来ても、全てを理解できることはないと彼女が知るのはいつだろうか。

 それを理性で理解できても、本当に理解できるのはまだまだ先だろう。

 ただ、良かったのはヘレンが自分が両親に愛されているのだと分かっていることだろうか。


「……ヘレン、貴女、ドナルドたちをどう思っている?」

「……とても、感謝しています。少なくとも今の私があるのは、お父様とお母様…そしてお婆様のお陰ですから。…でも、褒めてもらいたかったとも……思います」

「!!」


 その言葉は、エリザベスにとって衝撃的だった。かつてのヘレンは、褒めてもらいたいと口にしたことはなかった。ただただ、頑張ればいつかと思っていたことは知っている。それを口に出来るようになったということは、何かしら自分の心と折り合いをつけられたということだろうか。

 人によっては、口にして認めることが出来ず、酷いときであれば一生認めることが出来ずに壊れていくことがある。正直、ヘレンもその可能性があった。


「そう…そう…っ」

「お婆様? どうかなさいました?」


 それを知っていながら、自分は何もしなかった。ヘレンが頑張っていることを知って、そして褒められたいことを知っていながら、自分はドナルドに注意するだけ、あるいはドナルドの代わりをするだけだった。本当なら、ドナルドやジャクリーヌを叱り、ヘレンを…カレンをもっと見るように言うべきだった。

 孫二人は、いや、三人は、ドナルドたちの愛の被害者でもあった。それを理解しておきながら、何も言わなかった自分にも罪はある。


「いいえ……!! ヘレン、幸せになって…。貴女はたくさんの辛さを知っているわ…だからこそ、幸せになれるはずよ…」

「お祖母様……」


 幸せになって欲しいと思う。いったいこの世界のどこに、自分の家族に不幸になって欲しいと思う人がいるのだろうか。確かに、親や子によって不幸にされた場合、そう願ってしまうことはあるだろう。だが、エリザベスは家族の幸せを願う。

 誰もが幸せになれたらいいと願う。

 他力本願かもしれないかもしれないけれど。

 自分に出来ることなんて高が知れていると、長い人生で知っている。だからこそ、願うしかないのだ。


「ヘレン…貴女が本当にノア殿と幸せになれると思うのであれば、ドナルドの代わりに結婚を許可するわ」


 その言葉を聞いたヘレンの瞳が見開かれた。

 そして嬉しそうに頬を染めたのを見て、エリザベスは自分の判断が間違っていなかったのだと思えた。






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