開戦
「戦いの後、共に妖精の森を探しましょう」
「妖精の森…………? いいけれど、いったい何を?」
「妖精王オベイロンが女同士の夫婦に子を授けてくれるんですのよ!」
「それは何とも、奇特な王様が居るものね」
「私の様な者はずっと憧れている存在ですわ!」
ミリス奪還から幾月かが過ぎた頃、リハビリがてら紅葉の中を歩いていた。
腕一本の喪失というのは案外面倒なものだ――――腕一本分の物の扱いだけで無く、体のバランスが崩れて歩行も困難に。
こうして普通に歩くことも暫くは出来なかった。
「旅に備えて、もっと動けるようにならなければですわね――――――――」
「テメェさんよ! 急ぎ戻れ!」
穏やかな時間の終わりは、唐突に訪れる。
焦る様子で現れたジュエリーが空間に穴を開け、通る様にと指示。
従った先は住処である城だが、雰囲気がいつもとは違った。
「何事?」
「敵が攻め込んで来よった! エルドラはフリートの回復に一年かかると言っておったが、まだ半年じゃぞ!」
城に戻り連れていかれた先、入った部屋は今の緊急性をこれ以上なく理解させる。
冠級冒険者と一部金級、始祖達とサーニャやマルクス、エルドラやカザリームなどの戦力が揃っているのだ。
「状況はどうじゃ!」
「そう変わらん。この城は包囲され他各地にも戦力。魔界にも万全の防衛線だ。フリートも向こうの城に残り出てこんな――――強いて言うならば、世界規模での話ではこちらにも呼称が必要だろうとの事で、向こう魔界に合わせ人界などと呼び始めた程度である」
「おのれ、どんな手段を使った…………向こうの、フリートの魔法は回復したと見て良いんじゃな?」
「で、あろうな」
「ツ…………仕方ない、戦力の振り分けを決める!」
部屋を見渡すと、空間を曲げて敵戦力を遠視する。
「まず人界じゃが、カイエン、アドミニストレータ、サーニャ、マルクス、ブルーノ、フェーロー、他金級全員は儂の指揮下で戦ってもらうぞ! 敵魔王軍の出現する世界各地に送り飛ばす故、各々防衛と殲滅に努めよ!」
ジュエリーは今回の戦いに於ける指揮官であり、拠点を離れるわけにはいかない。
本来ならば王としてソロモンの果たすべき役割だが、彼の魔法は玉座から離れては発動せず。
ならばいっそ王権都市一つの防衛を単身任せてしまい、他に戦力を割こうというわけだ。
「次に特効、魔界に突入する者じゃが、シフィーをメインとしてエルドラ、カザリーム、ベスター、サレン、ヘルムの少数精鋭で行く! 龍はブレスによる火力支援と殲滅、他はメインのシフィーをなるべく戦闘させずにフリートの元へ送り届け、最高の舞台を整えてやれ!」
通常ならば少数であろうと隊を編成してフリートに挑むべき状況。
だがシフィーを使うならば、巻き込まれる仲間など排除して場を整えてやるに限る。
本来ならば人界の世界防衛に使いたい殲滅力だが、シフィーの全力戦闘がこの世界を破壊する可能性は大いにあり。
ならば敵陣投下が最適だ。
「シフィー・シルルフル君だったかな。お初にお目にかかる――――私の名はヘルム・ダーティネス。これでも冠級さ。よろしく頼むよ」
燃えるような赤髪をした女、ヘルム。
豊満な体のラインが浮き彫りとなるライダースーツを着て、腰にはダブルバレルショットガンがかけてあり。
愛想よく差し出された手を握れば握り返され、心強いアネゴ肌を全ての要素から醸し出している。
「さて、初対面同士の者も、久々の再会だという者も多かろうが交流は後にせよ! 魔王軍は既に進行を開始、もはやこちらに猶予は無い――――これより始まるは世界を守護する戦い! この世の存亡は貴様ら全員の活躍にかかっていると心せよ! そして、ここに呼ばれたに足る猛威を存分に振るうが良しッ!!!」
空間を開き、戦力を投下。
人界も魔界も、魔王軍戦力は大地を埋め尽くさんばかりに広まっている。
ここに、世界存亡の決戦が幕を開けた。
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