依然変わらぬもの
「誰がタイムアタックを仕掛けろと言った!!!」
城にジュエリーの怒号が響いた。
指で耳栓をするシフィーだが、それを貫通して声は鼓膜を震わし――――うぅと弱弱しい声を上げる。
ミリスの眠る部屋に、向かい合って置かれた椅子二つ。
そこに座った二人は、依然良い雰囲気とは言えない。
「声を下げて頂戴な。ミリスが起きてしまうわ」
「起きれば良かろう。でなければ話も聞けぬ」
「ミリスには休息が必要よ。今も、起きてからもね」
「まさか、次の戦いにミリスを参加させぬつもりか?」
「あの疲弊と、腕の欠損。心身共に戦える状態じゃあないでしょ――――私が人のタガを外れてでも魔物を出しまくればミリス分の戦力ぐらいは補充できる。それで文句はないでしょう?」
「人のタガを…………!? テメェさんよ、出来るのか…………?」
「確信があるわ。貴女のその驚き様、きっとメリーも出来なかった事なのね」
ため息を漏らすと、床タイルに魔力を流して小さなゴーレムとする。
そのゴーレムはシャドーボクシングで己の力を誇示する様に見せてから、シフィーの足や腕を伝い肩に登った。
「出来るわよ」
「…………ならば、認めても良いな」
「じゃあ報告に移りましょう――――私が向こうで見た敵戦力について」
「やべえ奴らは儂も見ておった。メリュジーヌとか言う色魔王と、不死王、精霊王と…………あの鱗の男。ありゃ間違いなくファフニールじゃろう」
「やっぱりそう? 不吉な感じしてたのよ」
「して、他戦力の具合は?」
「これまたやべえのよ。一応あの閉まった城の中だったから魔力で制圧できたけれど、外なら駄目ね。私一人じゃまず手数が足りないわ」
「数は?」
「ざっと五百万は超えていたと思うわ。大型の魔物を空間操作で小さな枠に押し込めて、拡張した地下空間に収納しているの――――城に在中してるだけでもこれ。全体は倍居ると思うべきね」
「いや、スケールを見誤っておるぞ。儂らが世界中から仲間を集めている様に、敵の戦力も世界一つと見た方が良い――――儂らの敵は、向こうの世界総人口じゃろう」
「全員が軍人なわけではないでしょう?」
「そこが計り知れぬのじゃ。向こうはこっちで言う脅威である魔物が戦力となる。一般的に暮らしているのも魔人や魔物であって、こちらとは前提の個体最低値が段違い――――農夫が金級冒険者に並びかねんのじゃよ」
「ズルね」
「ズルじゃよ――――魔力総量じゃて、テメェさん含めてやっとどっこいどっこい。今回は魔力切れを想定せえ」
「そうね、魔力切れを…………」
そこまで言って、シフィーは言葉に詰まった。
ふと疑問に思ったのだ、自分の魔力はそこまでなのかと。
確かに魔力切れを起こしたことはない。
最大火力の攻撃を幾度放とうと戦闘続行は余裕――――多いのだろうとは思っていたが、冠級冒険者から見れば少し秀でる程度だと考えていたのだ。
だが、この口ぶりからは違和感を感じる。
「…………ねえジュエリー、私の魔力量ってどんなもんなの?」
「何じゃと…………?」
怪訝な表情で返された。
それもその筈――――この世界に於いて私の魔力量はどんなものなの? などと言う質問は、私の財布って今いくら入ってるの? なんて質問と大差ないのだから。
「呆れたわい、自身が把握していないとは――――いいか、回復どうこうを一旦無視して、今の総量を見たとして、テメェさん一人でこの先千年はこの世界の魔力消費量に並べよう」
「そんなに?!」
「テメェさんが様子見感覚で出す魔力のナイフ一本でも王権都市一年は賄えるじゃろうし、二本あれば儂の魔力総量をちょっと超える」
「信じられないわ」
「本っ当に何も考えず戦ってたんじゃなあ――――加えて、テメェさんはまだまだ若い。総量はこれからも伸びるぞ」
「我ながら、馬鹿らしくなる話ね」
「全くじゃ。その馬鹿げた魔力量、努努無駄にするなよ」
「分かってるわ。私今回は結構ブチギレてるの」
ミリスを奪還するも、殺意に一切の澱み無し――――これは結果としては良かったのかと飲み込んだジュエリーは、小さく鼻を鳴らした。
最近、すけべなもの見ないとものが書けない
(更新状況とか)
@QkVI9tm2r3NG9we(作者Twitter)




