奪還
「この城全体に魔力を広げるわ――――道が複雑だから少し時間がかかるけれど十五分で終わらせる」
「いや五分だ。我が波長を合わせてやろう」
「心強いわね…………!」
言うとエルドラは魔力を放ち――――魔力譲渡技術の応用。
波長を完全に合わせているので、魔力同士が触れさえすればシフィーでも操れる。
城中に魔力を広げる利点は四つ。
敵の魔法や魔術の発動阻害、敵とミリスの居場所探知、エルドラの空間操作魔法の発動準備。
そしてこれはシフィーが気づいていない利点ではあるが、スポーツ選手が試合の前にウォーミングアップで体を温める様に、魔力を放つことで体が戦闘に備え魔力放出量が増え。
今の行いと、ミリスが攫われた際から魔力を大量に垂れ流していた事から普段なにもしていない状態との差は、優に五倍を超える。
「…………見つけた」
エルドラの宣言通り、五分で魔力は広まった。
それを探知に使ってから呟くと同時、方向を指で示し共有――――空間操作魔法で真っ直ぐの道を拵えるとそこを突き進む。
道中霧切を抜き戦闘準備を整え、狙った姿が見えると同時に振るった。
魔力探知でミリスを見つけるのと同時に気づいた人質の守護者――――それは憎きメリュジーヌに他ならないのだから。
「随分お早いご到着ねぇ」
回避して、部屋の奥まで引くと余裕を持って言う。
ダンジョンのボス部屋に似て広々とした空間だ。
「安心しなさい。今は殺しやしないから…………」
「あら、良いの?」
「時間がないのよ…………それより、ミリスを出しなさい」
「囚われのお嬢様と感動の再会…………本当はもう少し間が欲しいのだけれど。まあ良いわ」
部屋の奥、傍に置いた大きな壺へと手を突っ込む。
ぬっぽっとネバついた水音が鳴り、壺いっぱいに込められていたローパーの個体が零れ落ちその細い触手を動かしている。
「もっと奥だったかしら…………あっ、これね!」
何かを掴むと思いっきり引き抜き。
見えたのはメリュジーヌのフェロモンを濃縮した粘液に身を浸し、ローパーに犯され続けたせいか茹蛸の様に全身を真っ赤にし、刻印術による追跡妨害のため左腕を奪われたミリスの姿であった。
「ミリス――――!」
飛び掛かるも、二人の間には前もって用意された結界が。
殴打一撃で砕くも、破壊と同時に衝撃が帰って来る。
僅かに眉を顰めるも大した問題ではないと進み続けるが、結界は一枚でなく幾重にも重ねられており。
一枚砕く度にシフィーは己の力によりダメージを負う。
遠距離攻撃で済ませてしまうのは簡単だが、その先に居るミリスに万が一があってはいけないのだ。
「まさか、我を失念しているのか?」
「勿論見てるわよ」
メリュジーヌの真横に現れミリスを取り返そうと手を伸ばす。
だが察知されており蹴とばされ、間が開いた瞬間矢が飛来する。
どこに隠し持っていたか、サキュバスの秘宝――――魔弓クピド。
ブレスで矢を落とし、一歩引くと見せかけて持たれるミリスの真上へ移動。
ゆらりと避けられるも、この一瞬警戒を惹き付けられれば良かった。
「返してもらうわよ――――そして、暫く苦しみなさい」
「なっ、早――――」
全ての結界を砕いて来たシフィーが左手に持つ霧切でメリュジーヌの両腕を斬り落としミリスを開放。
続く右手から放たれたボディーブローが、体内に魔力を叩き込んだ。
「エルドラッ!」
「分かっておる!」
すぐさま元の世界に繋がる穴を開き、ミリスを抱き上げ突入。
叩き込まれた魔力が全身に渡らなかったメリュジーヌがクピドの弦を引き、矢を放ち――――ミリスを奪還した安堵から油断の生まれたシフィーはそれに気づいていない。
矢が届くのが速いか、穴を閉じるのが速いか。
結果としては、僅かに矢が勝った。
だがシフィーは無事。
矢が太刀に叩き斬られる音のみが鳴った。
「見ておったが、散々やりおって…………しかも最後に油断とは、まだまだ鍛え足りんのう、テメェさんよ」
「やはり覗いてたか。素直ではないな」
救い主は、帰還を見守っていたジュエリー。
敵に見つかるのは世界を渡ると同時、戻るまでの時間は二十七分、シフィーは魔法の使用をせず。
一応は条件を守ったとして、咎めは無い。
「良く帰って来たの――――先ずはミリスを休ませてやれ。話はそれからじゃ」
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