長梅雨
「おはようございます、フリート様。本日のご調子はいかがでしょうか」
「良いわけがあるかレゴリスよ――――イベリスの奴め、随分な置き土産を残して行きよって」
天蓋の内より、怒りと呆れを孕んだ声が。
今だ体内からイベリスの魔力が消えず、魔力の操作もままならない――――そもそも体が魔力で構成される魔族としては体を維持する事すら難しい日々が続いているのだ。
「以前おっしゃられていた東海岸のクラーケンですが、こちらの損害無く味方と組み込む事に成功しました。また、城付近を飛んで侵入を図っていたワイバーンの群れですが、三羽程見せしめにステーキにしたところ、向こうから降伏の申し出があり、承諾いたしました」
「ゴブリンの騎乗用に欠員が出ていたな…………そこに充てろ」
「仰せのままに――――ところで、そちらの剣は?」
「以前見せたであろう。龍撃の魔剣バルムンクだ」
「ええ、それは覚えているのですが、なんとも魔力の質が…………」
鞘に込められた大剣が放つ魔力――――以前は異質でありながらも魔族からすれば特別な脅威にも感じなかった代物。
しかしながら今では目を向けるだけでも身の毛のよだつ魔力を放っているのだ。
「この魔剣、中々面白い代物でな。斬りつけた対象の魔力を吸ってその構造を解析、結果としては対象への特攻を手に入れるのだ――――故に、我の体内にあるエルドラの魔力を吸えないかと試してな」
言って、フリートは上半身を曝け出す。
幾重にも重ねられた新しい切傷の数々――――普段ならば一秒もかからず完治するが、今はそうもいかない。
「その傷は…………! もうその様な事はお辞めください。御身に障ります!」
「想定は正しかった。バルムンクはエルドラの魔力を吸い上げ、あろう事か我が魔力も吸いよった! これならば一年かかる想定で魔力の回復も半年で済もう――――ああ、待ち遠しいな」
「フリート様…………」
レゴリスの表情に影が差すも、それを気遣う者などおらず。
静かに天蓋を捲り、フリートの腕を撫でる。
「秘書の領分を超えているぞ」
「良いではないですか。どうか、私の体をご利用ください」
指先から砂に変わり、フリートの傷を埋めて肉へと戻し。
魔力の波長をフリートに合わせたので肉体同士が良く馴染む、完璧な出来だ。
「違和感はございませんか?」
「ああ、上出来だ。その言葉道理の意味を持った献身――――何か褒美が要るな。何を望む?」
「褒美でございますか…………ならば、一つお願い申し上げたく」
「うむ、言ってみよ」
唾を呑み、目を伏せて熱を孕んだ息を吐く。
再びフリートの腕を撫でる手は、もう砂になどならない。
「どうか私めに、フリート様の苦痛を紛らわせる権利をお与えください」
「成る程、好きにせよ」
「光栄の極みにございます――――どうか、ご堪能下さいませ」
シャツのボタンを上から順に外し、緊張からか既に震える腰を落ち着けてスカートを脱ぎ。
両の下着もその場に落とす。
ハイヒールを脱いでベッドに上がると、人差し指で眼鏡を直した。
「痴態を晒してしまったら申し訳ございません。その…………今宵は、前戯は不要ですので」
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