見送り
「ついてこい」
ジュエリーに言われ、倒れたカザリームのすぐ側まで。
何とか意識を保っている状態で、ここからの反撃はないと判断したのだ。
「おい、カザリームよ。テメェさん何故魔王軍などに着いた」
「強き者よ…………もっとこちらへ寄れ、顔を見せよ」
全てを無視して、シフィーを呼び。
その通りに寄ると、目を細めて見る。
「メリーに似ているな…………お前に任せよう」
「任せる? 何をよ」
「…………魔王に、友が囚われている。名はファフニール。同じ七星龍だ」
「なっ、ファフニールじゃと!? 奴は狩られたと聞いたぞ!」
「アレの魔法は毒だ。細菌に自身の意識を移してそこからの回復など造作もない…………だが、魔力の回復には時間がかかるでな、アレの身一つで逃げ出すことは出来まい」
「じゃあ貴方、友達を助けるために魔王の元へ?」
「ああ、だがあのバルムンクとかいう剣…………龍の俺達にとっては最悪だ。結局は敗北を喫し、こうして致命傷を負うまで洗脳により操られた…………不甲斐ないが強き者よ、俺の代わりに、友を助けて欲しい…………!」
「…………嫌よ、自分で助けなさいな」
一度ジュエリーと目配せをして、傷口の霧を取っ払う。
すると即座に再生――――無傷と戻った肉体で起き上がり、少し驚いたように目をぱちぱちさせる。
「今ね、魔王軍と戦うための味方を集めている所なの――――今回も、その候補の一人が大事なクルスを無くしたとかで取りに来た所。貴方も一緒に、どう?」
「あの軍勢に敵うと言うのか?」
「そうね…………具体的にどんなモンかは知らないけれど、貴方が加わればこっちは龍三体と五人の始祖、それと世界各地の強い人達がサポート何だけれども、どうかしら? 貴方の持ってる情報も手に入れられるなら上々よ」
「…………ならば、麾下に加わりましょう。今から貴女様を君主と仰ぎ、その勝利のために力を振るうと誓います」
身を低くして、伏せの体制――――忠誠を誓う犬の様に、その頭を差し出した。
「君主よ、手を――――」
「? ええ」
言われた通り、頭に触れる。
突如、肉がシフィーの手に接続され体内へと入り込んだ。
激痛を伴ったが外傷は無く――――攻撃がと疑い目を向けるも、カザリームの落ち着いた目に攻撃の意思はない。
「力の一部を譲渡しました――――貴女様が危機に陥る事があるならば、きっと目覚めましょう」
カザリームの体が輝き変形する。
エルドラと同じく人の形を取ろうとしているのだ――――現れたのは、執事の様にタキシードを着た長い黒髪の男だった。
「改めまして、地を踏み締める獣のカザリーム。これより貴女様の忠実な僕として、力を振いましょう」
⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘
「このダンジョンで失せ物ならば、恐らくこの部屋でしょう――――俺の宝物庫です」
案内されてダンジョン深層へ。
何もない通路の壁タイルを押し込むと、その位置が扉と開いて奥に広がる。
そこからもう少し行くと、そこには金銀財宝とガラクタと、はしゃぐサーニャの姿があった。
「あら、ママンにシフィーじゃない! その男は誰かしら?」
「君主よ、お仲間で?」
「そうよ――――お姉ちゃん、これを見て」
言って、ジュエリーに預けていた幾つかのクルスを。
サーニャは一つ一つよく観察して、中から一番綺麗なものを選び取った。
「マルクス、貴方のあったわよ〜!」
叫びながら宝の山にクルスを投じる。
すると、山に潜って己のクルスを探していたクルスが飛び出してキャッチし――――普段は死んだ魚の様な目が、一瞬キラリと輝いた。
「おお…………これで、また貴女を護れます。サーニャよ。感謝いたします…………」
「見つけたの私じゃあないわ。シフィーよ。そっちにお礼なさいな」
「そうでしたか、感謝いたします…………このご恩、決して忘れはしません」
「これで、一件落着じゃのう」
少し安心した様に言うと、ジュエリーはパチンと手を叩く。
視線を一点に集めてから空間を開き、廃教会への帰り道を作る。
「サーニャとマルクスの二人は一度帰れ。フリートとの戦いに備えて力を蓄えるのじゃ――――儂らの拠点は追々伝える」
「分かったわ、ママン! きっと力になるから、期待していて!」
楽しげに笑い、廃教会へ一歩。
マルクスも後に続き、振り返って一度深く礼をした。
「あっ、シフィー! 今度会ったらちゃんとメリーママンの話をしてあげるわ!」
「ありがとうお姉ちゃん、楽しみにしているわ」
サーニャは空間の穴が完全に閉じるまで手を振っていた。
新たな戦力、二人と一体おまけ付き――――そして、シフィーは魔法を手に入れた。
これにてジュエリーとの鍛錬も終了である。
犬王見てる おもしろ
(更新状況とか)
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