偉業樹立
「よしっ、これで最後じゃのう」
埋葬機関を三人生け捕りにして、他は始末。
胃にあった自爆用の魔石を全て吐き出させると、その一つ一つに刻まれた刻印術を確認。
間違いなく、過去にスピカが吐き出したものと同じだ。
「成る程読めて来たぞ…………テメェさんら魔王の手先じゃな?」
答えは沈黙――――一先ず放置しかないかと判断して倉庫に空間を繋げ三人を投じ。
遠方より感じている、少し前に突如として現れた莫大な魔力へ意識を向ける。
空間を繋げて向かおうにも、先の魔力密度が濃すぎて空間に対して干渉出来ない。
ならばと可能な限り近くへ空間を開き、そこから駆け急ぐ。
いくら今のシフィーが魔法の開花によってガンギマリ、魔力の扱いが精密になっていようと、一人で龍の相手は無謀と言って遜色ないのだから。
そんな考えでダンジョン内を駆け抜け五分。
到着した先に広がる景色は、目を疑うものだった。
カザリームの首が無数に転がり、それらからポコポコと新たな魔物が生まれ母体であろうカザリームへと襲い掛かっているのだ。
新たに生まれる魔物の一体一体はそれ程強くないが、数が多すぎる。
「もはやこれ程とは…………」
思わず呟いたジュエリーの眼前をシフィーが通過。
両足と右の肩が毒で変色しており、力なくだらんとぶら下がりながら羽ばたきに合わせて揺れている。
「無事か!」
「見ての通りよ――――それより敵、ヤバいわよ」
「…………こっちにも来とったか」
カザリーム、エルクアドルと、埋葬機関の人員がいくらか。
魔力の雰囲気からして、因子覚醒という技を使っていると判断した。
「この様子ではサーニャ達の元にも居るんじゃろうな――――逃げるか?」
「いえ、ぶち殺していくわ」
「作戦は?」
「あの角生えてるやつから」
「ならば合わせる」
飛び出したシフィーを、空間入れ替えでエルクアドルの背後へと送り。
対応し振るわれた剣を歪めてへし折る。
隙が出来たと魔力弾を放つものの、恩寵による魔力の浄化が間に合ってしまい無力化。
だが物理で殴り飛ばしてから、拳を確認して安堵。
体が魔力でできている魔族が溶けないという事は、浄化にも限界がある証拠に他ならないのだから。
「それ、割り込み禁止じゃ」
シフィー目掛けて放たれたブレスは空間を歪める事で威力そのまま送り返し。
カザリームの目に直撃すると、悲鳴の様な咆哮を上げ怯む。
エルクアドルが体制を整えるより早く、霧切を抜いて魔力の武器以外で接近戦。
一撃目で殺してしまおうと鋭い突きを放ったが、恩寵による防壁で防がれた。
浄化ではなく、物理を防ぐ壁――――その中心には、五つのクルスが掲げられていた。
「恐らくそのどれかがマルクスの物じゃ!」
「じゃあ、全部取っておきましょう」
物理耐性が高いならばと、思い切って魔力攻撃を。
単純な魔力による衝撃波で、簡単に砕けた。
「普通に魔力も防げるモノなんですけどねぇ」
「さよなら」
首を掻っ切る。
確実に頭と体を切り離して死亡を確認してから、血だまりに落ちたクルスをジュエリー目掛け放り投げる。
「あとは私がやるから」
「本気で龍を殺すつもりか?」
「何よ、今回はルール無用よね?」
「やっぱし怖えわテメェさん。やるのかじゃなくて出来るのかを聞いたんじゃ」
「それは、今に分かるわよ」
霧切から姿隠しの霧を放ち、その中を突き進んでカザリームの首元へ。
そこから足元まで一筋の切傷を刻み付け、傷口を抉る様に霧を流し込む。
「なにぃ!!!」
「魔力が迷って治らないでしょう? フリートを殺すために色々と考えたのよ」
「この程度の事態、珍しくも無いわァ!」
肉の柱が乱立――――よく見ればそれは手の集合体であり、なんとも気色悪い。
「貴様も俺の一体となるが――――――!」
「エルドラや蜃と比べて、貴方随分と小物クサいけれど大丈夫?」
言い終えるより早く、肉の柱は霧によって魔力が散り崩壊。
ただの肉となって地に転がっていた。
「魔力形式・ 10th――――首を切る天の巫女、枯れ腐ったカサブランカ――――禍殃、死刻、天の桟橋――――遍く王は失明し、泣けどあやさず殺す乳飲子。重ね砕き飲み込み吐き出し、祈りの母が賽を取る」
詠唱に気づいたとてもう遅い――――既に魔力の再装填は済み、あとは撃ち放つだけ。
「今度は再生出来るだなんて思わないでね――――堕胎王片閃黒」
一見、白い魔力砲だ――――その実は蜃の霧にて白く見えているだけに過ぎず、中はやはり黒い。
ガザリームは肉の壁を重ねて身を守るが、全てを貫いて直撃。
今度は土手っ腹に大穴を開き、肉を再生しようにも残った蜃の霧が魔力を散らしそれを許さない。
巨体が血を揺らしながら倒れる。
魔力には依然として余裕を持ち、龍特効の武器を持つこともなく、前準備すらなく龍の討伐を達成した。
未だ誰も成し遂げたことのない偉業の樹立である。
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