ダブルス
「――――堕胎王片閃黒」
ソレはカザリームのブレストの中を真っ直ぐに突き進み、勝る。
あまりの魔力密度によって朱殷が深まり黒に変色。
大気を揺らすまでの威力に、外とは隔絶されたダンジョンの空間が砕け外と一直線の穴で繋がっている。
「相変わらず取り扱いが難しいわね――――それに、痛いわ」
堕胎王片閃黒を撃つために防御から出て晒された掌は、皮膚も肉も焼けて骨が剥き出しに。
完全に攻撃が止んだと判断して魔力形式・5thを解くと、見えた様子に一安心する。
カザリームの頭部が消滅。
ブレスを放っている最中の体制で死んでいる様に見えた。
だがそこは龍のクオリティーである。
残った肉の断面がぶくぶくと沸騰する様に膨れ上がり、元の肉体を再生。
即座に完全体へと戻り、咆哮を上げた。
「俺が! この程度で死ぬと思うたかァァァァァ!!!」
「思ってないわよ、エルドラや蜃と同格何でしょう?」
特段驚く事なく、指を鳴らす。
すると再生した箇所の肉がさらにブクブクと――――その箇所から、新たな魔物が誕生する。
「なぁっ!!!」
「治るとき、私の魔力の残滓を取り込むようにしたのよ」
肉を抉って現れる魔物が、更にガザリームの肉を抉り傷を深める。
空間に漂っていた魔力の残滓と、大ダメージから復活したガザリームの魔力――――どちらが多いかの押し合いだ。
「あっちは暫く無力化したわね――――で、貴方もやるのでしょう? もういいわ、相手してあげる」
「参りましたねぇ。私はそれ程強か無いんですよ」
「なら生捕りね」
エルクアドルが十字の剣を抜くものの、その瞬間魔力形式・8thを無言で発動。
全身の関節が拘束されて脱出は困難となり、眼前には魔物の死骸より降りて来たシフィー。
無策ならば絶望物であろう。
「手の内があるなら、今の内に使う事を勧めておくわ」
「ええ、そうする予定です」
袖より、一つクルスが溢れ出る。
鎖で手首と繋がったソレが魔力とはまた違った力を放ち――――最近聞き及んだ、筋力と魔力を対価と捧げる事で得られる代償付きの力、恩寵。
魔力を大気に溶かす様子は、浄化と呼ぶに相応しい。
「いやぁ、油断して下さりどうもっ!」
「っ…………!」
拘束を解いたと同時に振るわれた剣がシフィーの右肩を浅く切り裂き。
傷口は一瞬で紫に変色する。
「毒ね」
「毒ですね」
振り上げた剣を反す刃で振り下ろし。
魔力形式・5thで即座に防御を展開するも、刃の触れた位置から恩寵の力により溶かされる。
魔力弾を放ち、剣をそれの防御に回させ。
一度距離を取ろうとエルクアドルを蹴り飛ばすものの、直撃と同時に左足脛へと斬撃が浴びせられた。
「いててっ…………警戒深いんですねぇ」
「魔力形式・1st」
霧切を抜き、魔力の柄を被せて鉾とする。
毒によって変色した肩と脚に痛みはない――――故に即効性は無いと見て、距離をとりながらの短期決戦で倒すと判断した。
「前言撤回、生捕りは無しよ――――――――」
言って、駆け出そうと。
漸く気づいた――――痛みは無い筈だ。
毒が蝕んだのは感覚。
一歩踏み出した後、続く筈だった左足が糸を切られた操り人形の様にだらんと緩み動かない。
勢い余ってその場で倒れ、起き上がるよりも早く右脚にも刃が刺される。
痛みは無い――――だが両足の自由は奪われた。
ここから身を護ろうにも魔力は溶かされ無力であり、戦うにも起き上がれない。
故に選んだ選択肢は――――新たな武器である。
「起きてっ!」
叫び、地面に魔力を流す――――巨大ゴーレムを生成し、シフィー自身を投げさせて距離を確保。
体制を整えてから魔力形式・7thて翼を作る。
ゴーレムを操り、エルクアドルを捕獲。
掴んだ状態で魔力を溶かされるも、人形のまま固まり崩れる事なく、拘束は解けない。
「へぇ、中々に厄介――――所でいいんですか? 私ばっかり見てて」
空間に漂っていた魔力の残滓と、大ダメージから復活したガザリームの魔力――――どちらが多いか。
答え、ガザリーム。
ブレスがゴーレムの体を容易く砕き、拘束を破壊。
自由の身になったガザリームとエルクアドルに向き、ため息を。
序盤こそ有利に見えた戦局だが、一転して不利。
思わず大きなため息を漏らす程、厄介な相手が並んだ。
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