The new king
狂乱、混乱、地獄の沙汰――――入り乱れる魔物の姿はこの世の景色とは信じ難く、積もる死骸の山の頂点にて笑う少女の姿は鬼か魔の王に見える。
「London Bridge is falling down, Falling down,Falling down.London Bridge is falling down, My fair lady――――」
何処かで聞いた歌を口ずさみながら死骸の上を跳んで踊る。
普段の戦闘とは違う、自分の力に酔いしれ夢心地に浮かぶ様な感覚――――シフィーは分かっている。
今この瞬間、自分は夢見た主人公では無いのだと。
どちらかと言えば、聖剣を持つ勇者を待ち、人類の敵と討たれる日を待つ魔王の姿をしているのだと。
だがそんな事がどうでも良くなるぐらい心地よいのだ。
ならば、一時酔いしれたとて仕方ないであろう。
「あららぁ。魔王様から聞いた様子とは随分と違う様でぇ」
「…………んぁ?」
魔物達の絶叫の中より、気の抜けた男の声が聞こえた。
目を向けると、そこには黒の僧服を着た男が。
深い黒の髪から生えた山羊の様なツノと横長の瞳孔、そして魔力の質を見ると、魔族と獣人が混じっている事が分かった。
「貴方、誰?」
「魔神教司教、エルクアドル――――魔王様より貴女の回収を命じられ参りました」
「そう、不快よ」
目を逸らす――――瞬間、エルクアドルに対して数体の魔物が襲いかかる。
その時響いた笛の音。
操られる様に動きを変えた敵対する魔物達が、一斉にシフィーの魔物を食い殺す。
「随分と急ですねぇ。私としましてはぁ、大人しく着いて来て貰いたいのですがぁ…………」
「私が不快と言ったら消えるのよ」
次は魔物でなく直接――――完全無詠唱にて放たれる王片閃黒だが、直撃寸前にて弾かれる。
肉の様な鱗――――それは少し前に貫いた記憶がある、容易かった記憶のある対象。
しかし今回は傷の一つも付かず、シフィーは目を細めた。
「地を踏み締める獣、ガザリーム。死んで操られている…………って魔力でも無いわね」
漲る魔力、死骸からは感じられない威圧感。
そこに居る龍は間違いなく、生きている。
ジュエリーですら想定しなかった事態――――龍の裏切り。
緊急事態が不意を突いて現れた。
「ガザリームさん。殺さない様にお願いしますよ」
「心得ている」
一言呟き、大口を開く。
シフィーはこの構えを知っている。
龍の持つ高火力広範囲高射程高持続性高速の五冠を持った定番の攻撃手段――――ブレス。
「魔力形式・5th!」
即時間に合わせ防御を展開――――魔力量魔力密度共にシフィーが上であり、間に合えさえすれば防げはする。
自分を覆う球体を操り、ブレスの中でも移動を可能に。
攻撃範囲を抜け出そうにも、攻撃範囲の指定はブレスを放つ口の向く方向を変えるだけと操作性も抜群。
ならばといっそ真っ直ぐ突き進み、段々高まる威力の中で呟く。
「魔力形式・ 10th」
壁面に手を触れる。
僅かに伝わって来る熱でブレスが継続されている事を確認しながら、掌に当たる位置を壁を解き。
無防備に晒されて皮膚と肉が削れながらも一度深く深呼吸を。
「首を切る天の巫女、枯れ腐ったカサブランカ――――禍殃、死刻、天の桟橋――――遍く王は失明し、泣けどあやさず殺す乳飲子。重ね砕き飲み込み吐き出し、祈りの母が賽を取る」
威力を削る為に行う鎖としての詠唱では無い。
込めた魔力によって本来放たれる最高威力以上、百二十パーセントの威力を放つために行われる、儀式としての詠唱だ。
巨大な地下空間が小さく見える程の体躯を持つ龍に大しての攻撃ならば攻撃は上に向くので、星に対しての心配は無用。
近辺に人の痕跡がない事は魔法の鍛錬中に知った。
ならば抑える必要はない――――一点、世界を壊してしまう可能性に対しての考慮を除けば。
「――――堕胎王片閃黒」
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