因子覚醒
大鎌は前提として使いずらい――――他の外に刃がある武器とは違い、刃をかけてから斬る二度手を要するからだ。
だがそれにさえ慣れてしまえば、手前に居る敵の攻撃が背後から襲いかかる空間を広く活用する多様な攻撃方法で敵を撹乱出来よう。
しかし、今回は敵が悪かった。
ジュエリーの魔法は空間の操作。
空間把握能力は世界随一であり、背後からの攻撃だろうと魔力探知と空気の流れ、そして経験で易々と回避する。
未だ鎮まらぬ疼きを隠しながら応戦――――他の武器と違う動きをするとはいえ、手元以外で動くわけではない。
ならば意識するべくはやはり敵の手元のみ。
それさえ読めれば、攻撃に対する死角など無いに等しいのだ。
「その程度の腕前で儂を狩れると思うたか。爆笑モンじゃのう」
「私一人では、少々難しいかも知れませんね」
「ではどうする?」
「助けてもらいましょう」
突如、周囲から女と同じ格好をした影の様に黒い人間が。
一斉に大鎌を投じ全方位からの攻撃――――しかもジュエリー相手には無暗に近づかないという警戒っぷりだが、まあ無意味。
空間を歪めて大鎌を垂直に落下させ。
魔力の足場に立つジュエリーへは届きやしない。
「端数でこのジュエリーちゃんに勝てると思うたか?」
「いえ、まさか」
落ちる大鎌が人の形に姿を変え、下からの攻めが。
夜闇に紛れる黒いダガーから放たれる鋭い刺突は、何か見えない壁に阻まれた。
「勘違いするでないぞ――――魔法でも、魔術ですらないぞ。魔力固定の応用。ピクリと動くことすら叶うまい」
抜き身の太刀――――鋒を天に向け、手を放す。
これも同じように魔力固定の応用。
何に使うかは一部の者だけが理解した。
「ヤマト流抜刀術――――雨枯らし」
魔力の鞘から放たれる、下方に向けた抜刀術。
軌道は直線的でなく湾曲――――捕らえた敵達を一太刀で仕留めた。
「さて、次」
「勝てそうにありませんね、このままでは――――皆、因子覚醒の使用を許可します」
「因子覚醒じゃとお? 何じゃそれは、説明せい――――――――」
瞬間巻き起こったのは、爆発的な魔力の放出。
しかもその魔力全てがジュエリーにとって憶えのあるものであった。
「この魔力、皆既に死んでおる筈じゃ…………!」
「ええ、違いありませんよ」
さっきまでとは比べ物にならない速度で接近し、ジュエリーの腹に掌底を叩き込む女。
掌には魔力の塊が込められており、腹部からジュエリーの魔力操作を乱す。
それに加え、ここまで雑魚だったはずの敵達も動きが大幅に強化され――――単純な身体能力だけならばジュエリーに並んでいる。
「どんな仕掛けじゃ…………!」
魔力の足場を維持出来ず、落下した後に両足を骨折。
路地にて動けず、魔力操作も不可――――前後左右と周囲民家の屋根には敵がびっしりと。
危機の中、ジュエリーは片手で太刀を肩に乗せた。
「さて来い、遊んでやろう」
「その威勢はいつまで続きますかね」
一斉に襲い掛かる――――魔法、接近、決して単純ではない攻撃の数々は、有象無象による攻撃としては完璧に近い。
「サファイエット流守式、伍の型――――斜瓦」
坐して攻撃を流す――――剣の腹や拳の甲、流し切れない攻撃の被弾によってむき出しとなった骨と、その全てが盾になる。
「畳みかけなさい、限界は見え透いているわ!」
「おうそうじゃ、急げ急げ! でなければ儂の魔力が戻ってしまうぞ!」
攻撃の手は激化する。
次第に防御も間に合わなくなる――――一手一手、対応が遅れ始め、そしてついに、再度腹に重い一撃が打ち込まれた。
ダメージは内臓まで響き、たまらず嘔吐。
これが好機だと一斉攻撃が仕掛けられ、周囲から見たジュエリーは絶体絶命であろう。
「おかげで助かったぞ、良い一撃じゃった」
呟き、それに危機を察知したがもう遅い。
ジュエリー以外の首が一斉に捻じれ、弾け飛ぶ。
嘔吐で胃の内容物と共に敵の魔力を吐き出し、無理矢理魔力操作能力を取り戻したのだ。
「あ゙〜しんどっ。帰って続きでもするかのう」
言いながら、自分の首を太刀で斬り落とし。
飛び散った血の一滴から全身を再生して、全ての傷を無かったことに。
残った己の死体から服を剥いで、残った肉は亜空間に放り込んで塵と変えてしまう。
「因子覚醒か…………要研究じゃのう」
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