同種
「サーニャの母は、ジュエリーはどこへ?」
「シーツを濡らしに帰ったわ」
「…………そうですか」
マルクスに対し気まずさのおすそ分けを済ませて満足。
さてサーニャを探しに行こうと考えた所で、ふと気になっていた事を思い出す。
「ねえ、クルスについて聞きたいのだけれどいいかしら?」
「…………? ええ、まあいいでしょう」
質問された側とはいえ、こうも教師の様な顔が作れるかと感心。
「新しいものを用意するでもなく、ダンジョンへ拾いに行くだなんて、クルスってそんなに大事な物なの?」
「ええ――――制約というものをご存じですか?」
「制約と誓約」
「何です?」
「忘れていいわ」
「制約とは、神に誓いを立て行う己への試練です。我々修道騎士は皆、クルスを介して神に筋力の半分と全ての魔力を捧げ、その代わりに恩寵と呼ばれる魔力と似て異なる力を授かるのです」
「やっぱり制約と誓約ね」
「知りませんが、その恩寵を扱えるのはクルスを所持している者のみ。そんなクルスを奪われた今の私は、筋力半減と魔力皆無の試練だけを背負った状態という事です」
「ヤバいわね」
「ヤバいですよ」
意味が食い違う。
シフィーの言ったヤバいは状況でなく、マルクスに対して。
そんな状態で、全力でないにしろ自身の魔力弾を防いだ技量に対して言っているのだ。
「そんなに大切な物なら絶対に取り戻さなきゃいけないわね――――頑張ってあげる」
「――――本当に、姉妹なのですね」
「知っていたの?」
「微かですが、貴女からはサーニャと同じ匂いがしますから」
「キモいわね――――ねえ、そのサーニャの居場所って分かる? お姉ちゃんと仲直りしなくちゃいけないのよ」
⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘
「わっ、ホントに居るのね――――魔力探知も出来ないでしょうに凄いわ」
「…………どうして来たのよ」
「貴女と、お姉ちゃんとお話したいのよ」
廃協会の直ぐ傍――――見張り用の灯台を上ると、レースのあしらわれた黒いドーム型の傘をさして座り込むサーニャの姿が。
この世界だと違和感がないが、黒いドレスも相まってシフィーにある前世を過ごした世界ではいわゆるゴスロリ極まれりと言えよう。
「話の概要だけはジュエリーから聞いたわ。だけど私のこの姿のどこがお姉ちゃんを不快にさせるかはやっぱり分からない。ちゃんと教えてくれないかしら? 私、お姉ちゃんと仲良くしてみたいのよ」
「そういう所が、嫌いだって言ってるのよっ!」
再び、サーニャ手元から血の槍が放たれた。
だが今度は寸止めではなく本気の攻撃――シフィーもそれに気づき、身を逸らして回避しながら手刀で槍を砕く。
「魔力形式・8th」
言うと、突如現れた十本の魔力製杭がサーニャの全身を床へと抑え込む。
関節の全てが杭により抑えられ脱出は困難――――だが、体を霧に変えてしまえば問題ない。
「その赤い魔力、ママンと一緒ね! 私には遺伝しなかったわ!」
さっきと違い逃げることなく、背に蝙蝠の羽を生やし上空より血を固めた弾丸の雨を降らせる。
一発一発が石造りの灯台を貫通する威力。
これならば当たっても問題ないと腕で防いだ瞬間、弾丸が溶けて腕に纏わりつく。
急ぎ他を回避――――数発回避し切れず、血を纏った箇所は動きが鈍い。
「そう、お姉ちゃん羨ましいのね」
「知ったような口を利かないで!」
「分かるわ、持ってる人を見るのがどれだけ惨めになるのか――――自分の事の様に分かるの」
実際体験してきたように、記憶に刻まれているのだから――――だからといって、甘んじて負けるつもりはない。
「魔力形式・7th」
羽を作り、血で鈍った機動力をカバー。
その意図を悟ったサーニャは森に向かい飛び出す。
狭い木々の隙間を飛び抜けるなら、シフィーの剛翼よりも蝙蝠の薄い羽が速い。
「逃げた所ですぐに追いついて――――っ!」
突如、目の色を変えた魔獣がシフィーに襲い掛かる。
一体や二体ではない――――視界を埋め尽くさんばかりの量であり、その全てにサーニャの魔力が込められている。
「魔力形式・ 10th」
四撃一斉に放ち、それを操る事で全方位の魔獣を掃討。
説明などなくとも理解したジュエリーの真意。
今起きた現象は、シフィーの魔法と限りなく似ている。
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