鼓動
「先ず前提として、この力は名を白亜の炎という――――魔力と俺の血が混じって出来上がるものなんだけどな、お前の場合は魔法で俺の血を作り出してるらしい」
「え、私の魔法ってそんな仕組みだったんですの?」
「無自覚タイプか。まあそんな訳でお前の魔法は血を生み出す魔力と、その生み出した血と混ぜる魔力の両方を消費するから消耗が酷でえ。大前提としてこれを忘れるな」
ある程度廊下を進んだ先でベスターは言う。
欠伸を漏らし、試しに床を蹴り強度を確かめ、満足そうに頷いた。
「白亜の炎は全身に纏わず、使用箇所に一点張れ。魔力の管理は時間じゃなくて回数だ――――じゃ、俺逃げるから捕まえてみろ」
言い残すと、ベスターは目にも留まらぬ速度で廊下を駆けだした。
ご丁寧にも炎が足跡と残されており、後追いだけならば子供にだって難しくない。
こうしてミリスも鍛錬を開始――――元々ベスターは群れを率いる身。
教える事は下手じゃない。
⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘
「心臓が止まって貴女が意識を保てる時間は精々三十分。それまでに自分で何とかしなさいな」
「出来なかったら…………」
「勿論死ぬわ。心臓が止まってるんだから当たり前じゃないの」
「…………何とかね」
最悪胸を切り開いて直接手を突っ込み心臓マッサージをすれば良いと判断。
一先ず目を瞑って全身に魔力を巡らせようと――――瞬間、横っ面が木に打たれる。
「あいったあー!」
「何目を瞑っているのよ――――私との戦闘は続行よ」
「…………馬鹿じゃあないの!!!」
叫ぶと、一目散に逃げ出した。
木々が行く手を阻むが対処に専念すれば問題ない――――だが逃げるだけでは死んでしまうという事で、片手間で魔力を全身に巡らす。
片手間といっても命がかかっているので適当ではない。
全力の片手間だ。
「全身に魔力を巡らせるだけでも、経路選びが中々難しいでしょう? 骨、筋肉、血管、内臓――――開けてみると色々詰まっているものね」
「もう追いついて…………アドバイスでもくれるのかしら?」
「いえ、戦っているのだから追いかけるのは当然でしょう?」
魔術で背に蝶の様な羽を生やし追いついてきたサレン。
手元まで伸ばした枝から草を一枚取ると、それを成長させて弓を作る。
同じように葉で矢も作ると、即座に狙いを定め撃ち放ち。
シフィーは当然回避するが、落ちる葉が風に揺られるが如し――――矢はゆらりと軌道を変えて肩を貫いた。
「手を緩めるつもりは無いわ――――矢も、枝も、貴女をどこまでも付け狙う」
「やっぱり同時並行で処理しなきゃかしら…………!」
全身に対して雑に魔力を流していつも通りの身体強化を。
霧切で接近戦に持ち込みたいが、近づくため霧をバラまいたとてその霧を構成する魔力自体老いさせられてしまう。
ならばやはり、できる事は単純な接近のみ。
枝を蹴って接近するも、草の矢が厄介。
腕、顔、脚、肩と傷とつけられ、その個所から身体強化用の魔力が漏れる。
「血と魔力が漏れているわよ。これではどんどん私が有利になってしまうわね」
「ホントね、参っちゃうわ…………まいっちんぐってやつよ」
「そんな暢気なこと言ってられるのも今の内ね」
より一層弓を引き絞り、矢を放つ。
高速、不規則な軌道、そして通常の矢とは違い薄い葉の形状。
それらが重なり、今度はシフィーの額を深く裂く。
出血が多く、視野が狭まる上に眩暈と思考能力低下。
こうなってくると、なんでも考えが短絡的になる。
傷は追っても魔力で覆って塞げば良い、枝は斬れば良い、矢も斬れば良い、サレンも斬れば良い。
何でもかんでも斬りたくなる――――そんな考えをしていると、さっきまでのきちんとした思考にも疑問が浮かぶ。
何で体内で魔力なんて流すんだ、何でこんなに出来ないことを繰り返すんだ、何でこんなにちゃんとやるんだと。
「面倒になって来たわ。もうこれでいいじゃないの」
「――――!? へえ、思い切ったわね」
シフィーは自身の腕を斬り落とした。
その断面は滑らかで、筋繊維や血管を一切潰していない。
残った片手に魔力を集めると、その断面へ叩きつけ――――勢いよく血管へと入り込んだ魔力は一瞬で全身へ巡り心臓へと達した。
確認せずとも分かる、シフィーの魔力がサレンの魔力を押しのけた。
確かに鼓動が再開された。
無理を通して道理を殺す――――暴力が権力としてまかり通るこの世界と照らし合わせれば、合理的な行いだ。
読んでくださりありがとうございます!
もし面白いと思ってくださった方は、レビューや感想、ブクマなどもらえると嬉しいです!
(更新状況とか)
@QkVI9tm2r3NG9we(作者Twitter)




