始祖の獣
森が騒ぐ――――比喩表現や風で葉が騒めくのとは違う、木々が伸びて鞭の様にしなりシフィーを襲っている。
これはサレンの生命魔法によるもの。
つまりこれは明確な攻撃だ。
「メリーと違って随分とお利巧な戦い方をするのね」
「私のお母さん? ジュエリーが詳細を教えてくれないからよく分からないのよね」
「でしょうね」
「ねえサレン、貴女なら教えて――――」
「駄目よ」
「そんな事だろうとは思ったわ」
「でもそうね――――私に一回でも勝てたら、少しぐらい話してあげましょうか」
「上手に私のやる気を出してくれるじゃないの」
シフィーは逃げるのを辞めて霧切を構える。
魔力を流そうと一瞬意識を集中させ――――瞬間、刃を木が打った。
今行っているのは、魔力を流すという動作の応用習得。
例えば無意識の魔力循環。
戦闘のさなか一々意識して武器を強化したんじゃ幾つ命があっても足りない。
呼吸よりも自然に、血液を巡らせるが如く魔力を流せねばならないのだから。
他にも流した魔力を魔術や魔法に転用など、やりようはいくらでもある。
「私の間接的な攻撃すら防げないのにどうしてフリートに勝てるの? ほら頑張って」
「死なないでね――――魔力形式・ 10th」
威力調整は魔力を流す訓練によってマスターした。
長々とした手加減用詠唱はもはや不要。
ただシフィーお手製の極短詠唱であるNoを唱えるだけで周囲世界に影響を与えぬ威力での発動を可能とした。
「生意気よ」
放たれた王片閃黒はサレンの目前で消滅。
命無い魔力は育ちも老いもしない――――ならば生命事態を操ればいい。
魔力に自身の寿命を与える事で老いを与えた。
老い無き者に老いを与え、命ある者から命を奪い、その全てを操る――――それがサレンの生命魔法だ。
「そういうの、チートって言うのよ」
「聞き覚えがないけれど、最新の言葉かしら?」
「いえ、もう随分と伝統的よ」
迅速に霧切へと魔力を流す。
突撃すると木々の妨害――――それ全てを斬り落とすと今度はサレンへ急接近する事に成功した。
だがここからも困難。
霧切を握る手の関節を打ち、攻撃の軌道を逸らさせて胴体をがら空きに。
そこへ僅かながら魔力を叩き込み、心臓に関与し停止させる。
「ッ…………!!!」
「さてここからが試練よ――――心臓が止まって貴女が意識を保てる時間は精々三十分。それまでに自分で何とかしなさいな」
二人目の師、サレン・メノスティア。
モード、スパルタ。
⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘
城のとある一室、ベスターが安楽椅子にて寛いでいる所で扉がノックされる。
「許可する、誰だ」
「失礼いたしますわ」
入って来たのはミリス。
普段シフィーの前で見せる溶けた様な表情とはまるで違い、真剣な様子。
「何の用だ? 俺は今すこぶる気分が悪い」
「この魔力、やはりそうですのね…………私、ベスター様に鍛えて頂きたく思いますの」
「却下も却下、ド却下だ――――俺はお前に鍛えてやりたいと思う程の才能を感じねえし、何より興味もねえ。帰ってくれ」
「嫌ですわ。帰りませんわ」
「あ?」
ベスターの眉がピクリと動く。
エルドラによって初の失恋を味わい、シフィによって尊厳を傷つけられ、その上でこれ。
イラつきなどという段階は無い。
何段も飛ばし、ベスターはキレた。
「んなら死んどけ!」
「始祖の獣」
ベスターが様子見として放つ白い炎の様な魔力を、ミリスは同質の魔力を以て相殺した。
違うとしたら、ミリスはそれが全力だという点――――しかし表情は平然を保つ。
大根演技も良いところ、だがそれで良い、それが良い。
「俺の炎だと…………!? 成る程、貴様の魂胆が読めたぞ」
これは面白いと荒立つ魔力を落ち着け、安楽椅子を立つとミリスの真横を過ぎ部屋を出た。
「ついてこい、この力の使い方を教えてやる」
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