アトランティスの影
「一年か…………対処すべき問題が多いな」
ジュエリーが去ったアトランティスの城、ソロモンとシャンティーが応接室にて公務をサボっていた。
双方向かい合ってソファーに座り、テーブルに土足で足を乗せ、片手にドーナッツ。
「ええ。アトランティスは闇が深いですからねえ」
「一毛打尽が定石であろう。宣戦布告をするぞ」
「随分と急がれるのですねえ」
「当然であろう。アトランティスに居る時間も特別長いわけではない。すぐに動け」
「全く、人使いが荒い――――では行ってきますよ」
言うとシャンティーは席を立ち、テーブルの籠にあるドーナッツをもう一つ取って退室。
元々の恰好にコートを一枚増やすと、街の観光地とか隔絶された地下海中都市に入る。
煙草に火をつけ、吸った煙を吐き出す――――するとその煙が数ある進路の内一つへ進み、シャンティーはそれに続く。
辿り付いた先は金に困っていても利用しないであろうボロい外装の宿屋。
加え煙草のまま入ると早々、隠し持っていた魔導銃で受付の頭を撃ち抜く。
目撃者はゼロ。
それを良しと二階に上がると、最奥ね部屋へ真っ直ぐ突き進み、煙草を床に落とす。
二度ノックするが返事はない――――なので勝手に入ると、へリアル含めた八人の男達が扉を睨んでいた。
「へリアルですね?」
「…………どこのモンだ」
「王命を伝えに来ましたよ」
「成る程な…………よしお前ら、逃げるぞ」
その一言で男達が一斉に立ち上がる。
見事な統率にお~と声を上げながら、シャンティーは二本目の煙草に火をつける。
「禁煙だぜ、肺の悪い奴がいるんだ」
「そうですか。それは悪い事をする」
言った次の瞬間、一息で部屋を埋め尽くさんとする量の煙を吐く。
肺でシャンティーの魔力が混ぜられており、中での魔力探知は不可能。
ならばと煙が染みる中目を開けど、直後男達はそれが手遅れな事を知る。
二十秒ちょっとで煙が晴れると、そこにはシャンティー含めてへリアル以外が頭から血を流して倒れているという光景が広がっていた。
「なんだ、茶番をしに来たのか?」
「ドライですねぇ。もう少し驚いてくれないと仕込み甲斐がない」
起き上がると、額の血のりを拭きなが困り顔で言う。
平然と立ち上がると、執務机の椅子から立ち上がる気配もないへリアルのすぐ前まで行き、煙草の灰を机へと押し付ける。
「王命代理宣告、宣戦布告だ――――三日以内にキミの動かせる全勢力を引き連れ王ソロモンの下へ参上せよ。これを無視した場合はソロモン王に対して反逆の意思ありと判断し、即刻死刑に処す」
宣告を終えると同時、エリアルの心臓に魔力の鎖が巻き付く。
これぞソロモン王が使用する魔法、独裁王政の真骨頂。
ソロモン王が独断で格下と判断したものを支配する。
「参ったなあ。戦力は削がれた、負け戦を強いられた――――こうなったら、タダで帰らせるわけにもいかねえな」
「その考えは実行に移さない方が身のためですよ。ボクが王の傍に置かれた所以は支配下から外れているから――――それでもボクを返したくないだなんて熱烈なラブコールをくれるなら、お相手しますが」
「…………ッ畜生。最近は出鱈目な奴らが増えていやがる」
「いやあ、それ程でも」
「要件済んだならとっとと帰りやがれ疫病神が。俺はこれから忙しいんだからよ」
「せいぜい頑張ってくださいね――――でないと、見物客として面白みがない」
言い残すとシャンティーは去った。
残されたへリアルがため息を漏らすと、死体が一つ座った体制から崩れる。
「国の轍には血が残る――――それは俺達みたいな悪人か、底なしの善人か。まあどちらにせよ極端な端数が振り落とされて轢き殺される。それなら振り落とされて轢かれるまでの猶予、せめて空を見上げてたい。お前らにはよく話したな――――善人に待っているのは救いでなく絶望だけだ。いくら空を見上げ綺麗ごとをぬかそうと、最後は地面を睨むこととなる」
死体から流れる血を拭って回る。
それが終わると今度はモップで床を掃除だ。
「俺達には何が残る? 当然、振り落とされた時点で絶望しかない。ただ違うのは、俺達はそれを知っているという点だ――――希望を待ちわびない、期待しない。俺達は絶望しながら、空を睨めるんだ」
壁に掛けたベルを鳴らす。
するとその音波と共に特殊な魔力が広がり、同様の音が都市全体で鳴り始める。
それはある種、彼らなりの宣戦布告と言えよう。
「見てろ、絶望の時間だ――――空を睨みに行く」
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