乱れた世界
カイエンの振るった刀からは、乱暴に流された刀が吹き出し乱気流の様に渦巻いている。
直撃すれば傷口はミキサーにかけられた様に乱れ、避けても魔力の渦が体を刀へと引き寄せ。
魔法による防御でも、生半可な物では魔力が乱され消えてしまう。
「たく、シフィーとはまた違った馬鹿魔力じゃのう。荒っぽさもここまで行けば実力か」
「独り言たあ、随分と余裕じゃあねえかッ!!!」
叫びながら放たれた突きに合わせて身を回転。
鋒が引っ掛かりポンチョが破け、下の給仕服が露わとなる。
「気に入りの一品を、よくも!」
言うと、空間を歪めてカイエンの右腕を刀ごとねじ切ろうと。
だがそこは魔力を放たれて魔法が不成立となる。
「温りいッ!」
「遅いわ、ボケ」
ジュエリーが太刀を抜く。
フェーロー渾身の一振りであり、何千年もの時間をかけてジュエリーの魔力が馴染んでおり。
魔力の通りは軽快、血管が延長された様によく通う。
刃同士が衝突――――火花と衝撃と魔力波が広がる中、中心の二人は一切怯まず鍔迫り合いを。
少しカイエンが込める力を増やした瞬間、力の流れを操ってジュエリーが自ら上空へ打ち上げられ、八つの魔力弾を降らす。
カイエンの乱れる魔力の中崩壊しない強固な魔力弾。
三発弾かれて五発地面に着弾。
その瞬間魔力の外壁が剥がれ、中から種が現れる。
「アドミニストレータ、アイツ…………ッ!」
「爆発の種子」
起爆権は移行済み。
合図に従い種は炸裂した。
遺跡は柱も床も吹き飛んで、晒し出された地下空間にカイエンの魔力がなだれ込むことによりダンジョン化。
だが次の瞬間には爆炎がダンジョン全体へと広がって生まれて一秒未満の魔物を全滅。
ダンジョンは完全攻略され、タダの遺跡に戻る
冠級冒険者のダンジョン攻略なんてみんなこんなものだ。
「やっべ、死んだかのう…………」
爆発によって広がったアドミニストレータ、の魔力により、カイエンの探知が難しい。
待つしかないかと困っていたところ、理屈ではなく背筋が冷える感覚を覚えた。
子供が山で凶暴な獣に出くわした時と似た、相手を餌としか見ていないものの放つ殺気だ。
警戒を改め、土埃から飛び出す瓦礫を斬り――――その先より現れた笑う鬼を迎え撃つ。
「この程度で俺を殺したつもりかァ!」
「少々驚いたわい。じゃが酷い激痛じゃろう? 肌が焼き爛れておるぞ」
「いい眠気覚ましだッ!」
「常識外れも良いところ。これだから怪物相手というのは心躍るわ!」
辺り一帯、空間が捻じ曲がる。
上は下に、左は前に、内が真横で外が内。
天変地異もいいところ――――この世の景色と呼ぶにはあまりにも摩訶不思議の世界だ。
「なんだァ、こりゃあ」
「懐かしいのう――――これはこの世界が人の物として成立する以前の景色。儂らが始めに見とった景色じゃ」
「世界がちゃんとする前から居た見てえな口ぶりじゃねか」
「居るんじゃよ、始祖は――――ずっと昔からのう」
「…………ああ、そういう事か。よーやっと理解が行った。ヤマトじゃあアンタが始祖のプロトヒューマンだってのは有名な話だ」
「あそこじゃあ隠しとらんからのう」
「ずっと疑問だった。始祖ってのは結局なんなのかってなあ。最初ってだけでそんなに強ええか? 種族同士の血が混じると何で弱ええんだ? 始祖ってのは、何でずっと生きてんだ――――なあ、アンタら、人じゃあねえな?」
「…………この時代じゃあテメェさんが二番手か」
「一番手はアンタの弟子か」
「そうじゃな――――で、テメェさんの目的は謎解きじゃったか?」
「ッハ! 違げえねえな――――これ以上は辞め。元に戻ろうぜ」
そう言ってその場で振るった刀が、何か見えないものに当たる。
ねじ曲がった空間に潜む、姿と実態が分離された世界のエラーとも言える産物。
確認次第カイエンは嗤い、駆けだす。
見えない地面を蹴り、何かあるようには見えない空間を手あたり次第斬りながら真っ直ぐジュエリーへ。
「お、そこじゃ」
言い、ジュエリーが何もないはずの空間に拳を振るった。
するとその拳がカイエンの顎をかすめ取り、意識を一発で刈り取る。
見えるものの実態は別の場所へ。
ジュエリーの横はカイエンの横へ。
到底初見では対応出来ない空間の乱れにより、ジュエリーはカイエンの説得を終えた。
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