取り扱い
「ねえ、どこまでが仕込みなの?」
「色々あったが全部パーじゃよ、パー。シフィーの奴め、メリーの席に着くなどと無茶をしよってからに。あの場で殺されてしまうのではないかと焦ったぞ」
夜会の閉幕後、城の廊下を歩くジュエリーとサレンが話す。
その身長差は脅威の六十センチ――――互いに金髪なこともあってはたから見れば親子の様だ。
「その時は私が止めてたわよ」
「ウソこけ、テメェさんあんとき本気でキレてたじゃろ」
「そんなことないわ――――でもそうね、もしあれが貴女の仕込みだったなら、冗談じゃあ済まなかったわよ」
「おー怖い怖い。身震いするわい」
言いながら廊下を進んだ先、到着した裏口から城を出ると、切り開かれた木々の中に話声が。
早速開始された鍛錬の一人目であるフェーローがシフィーと話していた。
「成る程今の名は霧切であるか」
「昔は違ったの?」
「儂が元々つけや名は、このオレンジの刃と意識から沈む様からヤ暮れ。じゃが今なら霧切の方があっている」
「ヤはどこから?」
「三十五度作り直して三十六度目に出来た物であるからだ。蜃の住まうヤマトの文化に従っての行いである――――しかし、研ぎが荒いな。下手な使い方をしているな?」
フェーローはため息を。
鍛冶師として、己の傑作が下手な素人に使われていたならばこうなるのも仕方がない。
「お前さん、普段はどうしてこの刀を使っている?」
「どうって、普通に魔力を流して…………」
「ああ、それがもう駄目であるな。良いか? 武器行使の際に於いてして魔力とは込めて終わる一過性の物でなく絶えず流し続けるもの。それだけの違いが命がけで敵を殺す場で大差になると知れ」
そう言いフェーローは戦斧を背から外して魔力を流すと、地面に刃を近づけた。
すると刃が触れるより早く地面に切れ目が――――流れる魔力は荒立たず、波打たず、まるで静止しているようだ。
「お前さんにはまずこれからであるな」
「なによ、それぐらいの事なら――――」
「待ていッ!」
霧切を抜こうと柄を握ると、叫んだ。
思わず手を離すと、フェーローは大きなため息を漏らす。
腰のポーチを取り外しひっくり返すと、そこから無数の剣が溢れ出し――――全てが霧切程でないものの名剣だ。
「本来、お前さんの様なへたくそが扱って良い代物ではない。当分使うのはこっちである」
「へたくそって、まだ一回も試してないのに随分な物言いじゃない」
「試さずとも分かる。お前さん、普段から魔力が漏れ出さぬ様抑えてるつもりであろうがなっていないぞ。ほれ、こっちの剣でやれ」
むすっとしながらも一度従ってみることに。
魔力を流すだなんて身体強化でいつもやっている事だと自信があるのだ。
剣を一本手に取って、魔力を流す――――瞬間、その魔力量に耐えかねて剣は自壊した。
「身体強化と同じ要領だ、そう思たであろう?」
「どうして…………」
「よし、手を出せ」
従うと、差し出した手が握られて魔力を流される。
シフィーからすればごく少量――――次にフェーローが地面に対して同量の魔力を流すと、爆発でも起きたのかと思ってしまう程砕けた。
「お前さんの体が持つ耐久力はそれこそ霧切以上。どんな雑に馬鹿げた量の魔力を流そうと問題ないであろう」
「じ、じゃあ私の普段やってる身体強化って…………」
「見るまでもなく下手くそである。わざわざ口に出す必要あるか? これ」
「そんな…………」
分かりやすくシフィーはいじけた。
遠隔の戦闘よりも接近戦を得意と認識している故、その自信の一助が砕かれたような思いだ。
「まあ、なんだ…………改善すれば今以上の力を扱えるという事である。そうへこむな」
「…………貴方、私のおじいちゃんだったのね」
「だれがおじいちゃんであるかッ! 莫迦者がッ!!!」
心配して覗きに来たが杞憂だったと判断し、ジュエリーとサレンは城の中へと戻る。
どんな怪物へと成長するのかと楽しみにしながら、足取りは軽く。
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