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提案

「紹介しよう――――魔王フリートの妹であり、ご存じメリーの実子。そして儂とエルドラの友でもあるシフィー・シルルフルじゃ」



 紹介されると、黙って進んで空席に腰掛ける。

 瞬間――――フェーローは戦斧、サレンは魔力で輝く掌、ベスターは白く燃える様な魔力を纏った手と、それぞれがシフィーに武器を向けた。



「小娘、そこに坐する意味を心得ての狼藉であるか?」


「何をはき違えたか知らないけれど、貴女調子に乗り過ぎよ」


「死にたくねえなら今すぐそこを退け」



 その言葉にシフィーは目を閉じる。

 それを言葉に対する拒否と取った三者は脅しは無いと言わんばかりに突き付けた攻撃意思を行使しようと――――だが、中断された。



「――――――――改めなさい」


 行使と言葉と同時に放たれた、始祖達であろうと身震いしてしまう様な竜以上の魔力。

 発生源は知れている。

 眼前、意図して作られた空席に座る少女に他ならない。



 「この夜会を開くため、始祖の事情についてはジュエリーから聞いたわ――――元が元だからかしら? あなた達こそ調子に乗っているんじゃあないの?」



 さらに魔力の圧は高まる。

 シフィー以外、ジュエリーやエルドラを含めたこの場の全員に緊張が走る。


 入室以降の行いは全て独断。

 ジュエリーによる仕込みは用意されていたが、無視されている。



「聞こえなかったかしら? もう一度言っても良いのよ? あなた達、調子に乗って――――」



 言い終えるより早く、フェーローとベスターが攻撃。

 両者の腕が、切り飛ばされた。



「まだ私が喋っているわよ。キチンと最後まで聞きなさい」



 そう言うシフィーの手には、霧切が握られている。

 流石の切れ味に血も付かず、滑らかな刃が鈍く光るばかりだ。



「今、緊急時なんでしょう? それが自分の作った武器が頂だの、色恋だの、馬鹿じゃないの?」


「全く、その通りだな――――全員、矛を収めろ。これ以上の武力行使はこの我が許さんぞ」



 エルドラの静止に、シフィーはため息で気を静め。

 既に腕が生えた二人は不服そうに席へと戻り、円卓の上に立っていたサレンも満足そうに席へと戻る。


 シフィーが魔力を引くと、ジュエリーがパンっ! と手を叩いて場の空気を切り替える。



「さて、話を再開して良いかのう?」


 

 エルドラが頷く。

 それを確認するとジュエリーは立ち上がり、ゆっくりと円卓の周りを歩きだした。



 「実のところな、儂はもう今回の結論を作っておる――――皆を集めた意味の本命はそっちじゃ」



 軽い足取りでシフィーの背後に周り込む。

 腰を折って座るシフィーに肩を組むと、悪戯っぽく笑った。



 「どうじゃ、儂らで此奴を鍛えてやるというのは――――メリーの娘じゃ、素質は今見た様にある。魔王フリートと戦った経験も、勝算もある。そして何より若い! 今しがた此奴に腹が立ったじゃろう? 鍛えて虐めて晴らして行け」


「――――では、意思を問おうか。今の提案に異議ある者は発言を。それ以外は沈黙せよ」



 エルドラの言葉から十秒、誰も口を開かない。

 それを確認すると目の前にあるティーカップを手に取り、一口で中身を飲み干した。



「茶も冷めたな――――規則に従い、これにて夜会を閉幕とする」

読んでくださりありがとうございます!

もし面白いと思ってくださった方は、レビューや感想、ブクマなどもらえると嬉しいです!


(更新状況とか)

@QkVI9tm2r3NG9we(作者Twitter)

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