始祖の血縁
サレンの到着から三日、再び門は開かれる。
本来客間があった位置にどこからかジュエリーが引っ張って来た円卓の間が接続され、そこに現存する始祖が終結した。
「時間だ――――これより先、この場で起こった全てを夜会の内として我、七星竜の世を見下ろす獣エルドラの名の元以後の遺恨とすることを禁ずる」
円卓の上座に立つ仲介者のエルドラは静かに言った。
他四名の座る席前には一つずつティーカップが置かれており、中に注がれた紅茶が湯気を上げている。
「で、俺らはどうして集められた? 夜会なんぞ国家の統一以来じゃあねえか」
最初の発言は始祖の獣人、ベスターだ。
円卓に頬杖をつくその姿は、陽だまりにだらける獅子の様だ。
「議題は一つ、魔王フリートによって行われた竜の条約に対する違反の処遇についてじゃ」
始祖のプロトヒューマン、ジュエリーが答える。
瞬間部屋の気温が三度上昇する。
勇者の存在なくして現れた魔王、そして五人の始祖が誕生するために作られた七つの条約が破られたという事実。
それは始祖たちの魔力が荒立つに充分な条件であった。
「魔王フリートは誕生前の勇者を母体もろとも呪殺。その処罰に向かったファフニールを狩った」
「竜を狩ったであるか!? どんな武器を使った? この儂が拵えた武器を以てしても困難であるぞ」
「魔法じゃあないかしら? 例えば私の魔法をフルに使えば竜一体の相手ぐらい出来るけれど」
「フェーローとサレン、どちらも当たりじゃ。奴は双剣バルムンクと強力な魔法を以てして戦った」
「儂の作った武器であるか…………そこのエルドラにくれてやったがどうして魔王の手に渡っているのだ?」
「旦那、ムジカにくれてやったが盗まれた」
「ほう、盗まれた! 魔王が盗むほどとは、やはり儂の傑作は頂に達しているかッ!」
不遜に鼻を鳴らしてエルドラが答え。
それを聞いてフェーローは深いため息を――――隣に座るベスターは驚きを隠さない表情をエルドラへと向けた。
「ババ…………ッ! エルドラ手前、旦那ってのはどういう事だ! よく見ればその黒いウエディングドレスも、説明しやがれ!」
「なんだ王様ぶった立派な表情は辞めたか」
「ごまかすな、答えろッ!」
「お前が一度でも我に勝ったら番になってやろうと言って、何度文明が変わった? いい加減小僧の初恋に付き合ってやるのにも飽きた。己の未成熟を恨め」
瞬間、ジュエリーが爆笑する。
涙を流し、腹を抑え、脚をじたばたさせながら大口を開いての爆笑。
深呼吸をして何とか笑いを鎮めると、睨みつけて来ているベスターに涙目を向けた。
「いやあ、気持ち良いぐらいきっぱりと振られたのう! お見事っ!」
「何だァ手前、舐めてんのか?」
「舐められたくなければそれ相応の行いをせえな、小僧。見苦しいぞ」
視線と僅かな攻撃意思の籠った魔力を飛ばす。
それだけで硬直した場面に切り込んだのは、サレンであった。
「で、話を戻して欲しいのだけれど結局どうするの? 竜対策がそこまで成っているなら、いっそ私達が――――」
「それも難しいじゃろうな――――なんせ奴の手元には、メリーがある」
「なら駄目ね…………対策は?」
「無論ある。どれ、入ってこい!」
言って、二度手を叩き鳴らした。
すると扉が開き、そこから現れたのはシフィー。
初見のフェーローとベスターはギョッとした。
その姿は真っ赤な髪が白い事を除けば彼らの知る始祖の魔族、メリーと瓜二つ。
顔、姿、纏う雰囲気までそっくりな女が出て来たのだから。
「紹介しよう――――魔王フリートの妹であり、ご存じメリーの実子。そして儂とエルドラの友でもあるシフィー・シルルフルじゃ」
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