布地獄
シフィーとエルドラが城に戻り、廊下を歩き回ってミリス達を捜索。
すると突然部屋から飛び出して着たミリスがシフィーに抱きつき叫んだ。
「シフィーさん助けてください! 私、私もうヤベェですわ!!!」
「危機って感じでもないわね。どうしたの?」
「わかっ……! かわっ…………!」
「ダメね壊れてるわ。入るわよ」
ミリスを退けて出て来た部屋へと侵入。
そこには、大量の可愛らしい衣服が散らかっていた。
「本当に、どうしたの…………?」
「お! 帰ったかテメェさんよ! どうじゃった竜の戦いに巻き込まれてみての感想は? 中々どうしてド迫力であったろう」
「まあそうね…………というか、これ本当に何事よ?」
「そうじゃそうじゃ、このスピカの奴がタイトな服しか着ないモンじゃから儂とサレンで着せ替え人形にしとったんじゃよ。フリル多め、存外可愛く見えるものぞ」
孫に送るものをする祖父祖母の様だ。
衣服の山に囲われたスピカは至って不服そうな表情。
口をとがらせそっぽを向いて、その状態で服を脱がされ次の服を着せられる。
「シフィー、お助け…………」
「ごめんなさい、私にはどうしようもない――――」
言いながら、踵を返して逃げようとする。
だが遅かった――――逃げ出すよりも早く、両の肩を掴まれた。
「貴女もフリル、似合いそうね」
「逃げるってことはテメェさん、理解っておるのう?」
「…………片方、誰よ」
「私はサレン。さあ、お着換えの時間よ」
「待っ、私こういうのは趣味に合わないから――――!!!」
言いながら、部屋の奥に引きずり込まれた。
もみくちゃら乱暴布切れ音――――死んだ目で着替えさせられ続ける二人は、抜け出しようのない蟻地獄へと落ちたのだ。
⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘
「で、用意のため情報を伝えたら勝手に敵地に突っ込むとは、どういう了見じゃ? え?」
シフィーとスピカをひとしきり着替えさせ満足したジュエリーは、エルドラを問い詰める。
怒るのも仕方がない――――もしエルドラがフリートに負けでもしたならば、今回開催される夜会は不成立のなる上に、敵にエルドラという素材が渡る。
決して見逃せない戦力の増強だ。
「個人的に奴へ恨みが出来た」
「ファフニールか?」
「アレは元々好かん。いくら無残に狩られた所で微かな情も湧くことなど無い――――それよりも剣だ」
「剣? ああ、バルムンクか」
「双剣バルムンク――――我と奴と、ムジカと契ったときにくれてやったものの一つだ。いつの間にか盗まれたと言われた時には一世一代の夫婦喧嘩をしたが、盗人が誰かと分かった日には少々灸を添える必要があるだろう」
「待て、待て待てムジカじゃと…………? 奴の行方を知っているのか?」
「なんだ、奴を知っているのか?」
「知っているのかじゃと? 多少なりとも魔術を学ぶものならば誰でも知っておるわい…………! 八十年前突如として現れ、十年で現代魔術全ての基礎を作り上げ消えた怪物の様な男じゃぞ!」
「ほう、奴め人里に降りた頃の話はしたがらなかったが、中々成果を上げていたのか」
「中々どころでは無いわい! 奴がいたからこそ魔力を用いた戦いは身体強化と魔法のみで無くなったし、冒険者の冠級という位も奴のために出来た。歴史上随一の偉人よ呼んで差支えのない偉業じゃ!!!」
珍しくぜえぜえと肩で息をするジュエリー。
これは何とも面白い光景だと、ゴスロリのまま眺めるシフィーは考えた。
もしも最愛の相手に渡した物が盗まれたとして、犯人を見つけたとき、果たして自分は冷静でいられるだろうかと。
少し頭を悩ませてから、その時が来なければ分からないと結論を打って思考は終了。
止まないジュエリの文句をBGMに疲れを清算しようと座ったまま眠りについた。
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