最低値の脅威
「たまにシフィーさんは私の事をお嬢様と呼ぶんですけれどもね、こんな家に住んでるならシフィーさんの方こそお嬢様ですわ。んねえ、スピカさん」
「…………ん」
スピカはミリスにバックハグしながら応えた。
シフィーとエルドラがフリートへ殴り込みに行った直後、二人は城の探検へと出た。
そんな中二人は絶賛迷子中。
自分達がどこにいるのか分からず、あてもなく彷徨っている。
「にしても本っ当だだっ広いですわねここ。果てを感じませんわ」
「…………左」
「次は左折ですわね。分かりましたわ」
スピカの言葉に従い廊下を左折。
すると出会った――――巨大な戦斧を持ったミノタウロスだ。
「あら魔物ですわ、ごきげんよう~。ではスピカさん、逃げますわよ」
言うと、二人は逃げ出した。
元の戦闘スタイルが素手のスピカはともかく、ミリスは獲物の銃を持っていない。
ミリスの思考から導き出される選択肢にスピカの単独戦闘は含まれておらず、そうとなれば答えは逃げの一手。
バックハグで前後に重なった体制のまま廊下を無我夢中で駆け抜ける。
「なんで家の中に魔物が発生してるんですの~!!!」
スピカの指示に従い左右直進右右左と進み、ついに光明が見える。
文字通りの光だ――――この城の玄関、外へと通ずる門。
これを出て、ミノタウロスを外に締め出せれば。
そう思い門を潜り抜けた瞬間、包囲網は完成していた。
森に住まう凶暴な魔物達が騒ぎながら逃げ回るミリスを見逃す筈がない。
囲まれた――――それを確認したとき既にミリスは腹を決めて素手での戦闘準備を開始。
スピカに関しては既に爪を作り上げている。
戦闘開始――――そう思ったと同時であった。
周囲捨て、魔物の肉が枯れて骨だけが残り、そんな模型さながらの姿も瓦解した。
「あら、先客かしら?」
「女…………の子…………? どうしてこんな場所に…………」
エルフ特有、その長い耳を見なければその容姿は九歳程度の女児に見えただろう。
だが不気味なぐらいに落ち着いている――――この危険な森の中一人だけ自宅のソファーでくつろいでいるような、そんな違和感を纏っている。
これがカイエンのような脅威を纏っていたならば、まだ警戒のしようがあった。
だがこの落ち着き方はまずい、つい警戒を解いてしまうのだ。
「ジュエリーに呼ばれてきたのだけれども、会場はここであっているでしょう?」
「ジュエリーさんですの…………? じ、じゃあ貴女は始祖の…………!!!」
「ええ、そうよ。自分からこう名乗るのは少々木っ端図かしいのだけれど、私は世界で最初のエルフ、サレン・メノスティアよ。でも、あまり気負わないでちょうだいね」
「なんじゃ、随分と早い到着じゃのう。そんなに儂に合いたかったか? え?」
少し遅れ、空からジュエリーが降って来る。
この辺りは自然の魔力が多いので、遠方に自身の魔力を飛ばす空間魔法が使えず、徒歩移動がや無負えないのだ。
「家主のシフィーはどこに行った? どこにも魔力を感じんが」
「それが、その…………」
おずおずと、ミリスはシフィーとエルドラの状況を説明。
終えたときには湧き上がるジュエリーの魔力が恐ろしく、顔を上げられなくなっていた。
「これじゃから…………これじゃから儂は竜が嫌いなんじゃ! 自らの行いによって起こる全てを些事と見て行う後先考えぬ行動と傲慢、大っ嫌いじゃ!!!」
「貴女がそれを言うの? 自分勝手の権化の様な貴女が」
「サレンよ、奴らと儂ではやり方が違うんじゃ! 儂は面倒を押し付けり相手は選んでおる。それを出来るやつがいないときは大人しく出来るんじゃ!」
「自覚ある悪意はより質が悪いわよ――――もう、貴女相変わらずね」
二人は雑談しながら事も無げに入城。
今見た魔力が始祖の戦闘最低値にすら入っていないのかと改めて実感しながらミリスは後に続き、いつの間にかバックハグに戻っていたスピカも同様城に戻った。
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