獣の弔い
「夜会か、ざっと前回は三百年前であったか――――主催は誰だ?」
「ジュエリーよ」
「議題は?」
「なんでも、七星竜のファフニールが討たれたと」
三人に紅茶を淹れるエルドラの手が止まった。
同じ七星竜が討たれたとなれば湧き上がる思いは旧友への悲しさか、それとも巨敵への怒りか。
それらの思いは全て黒いベールによって覆い隠されているが、ただ一つわかる事は残されている。
今、エルドラは敵意に満ちているという事だ。
「夜会には出席しよう――――が、条件がある。敵の場所を教えよ」
「まさか、一人で相手するつもり? 敵はバルムンクという剣を持っていて――――」
「不安ならばついて来い。原初の力を見せてやる」
「…………魔界、相手は魔王フリートよ」
「異界の者か、我にとっては好都合だ」
言うと、エルドラはジュエリーがやるのと同じ様に空間に穴を開いた。
先は荒れ果てた湿地帯――――遠方にはフリートの魔力を纏った城が見える。
「私達も…………!」
「ミリスとスピカは留守番をお願い。ジュエリーに連絡をお願いしたいの」
それだけ言うと世界を渡る。
エルドラは人の姿から美しき白の鱗を持つ竜へと姿を戻し、城を睨んだ。
「見ているが良い、シフィーよ。これが竜の、喧嘩の売り方というものだ」
大口を開き、ブレスを放った。
少し前にスピカに向けたものの数万倍の魔力量が込められたそれは一撃で城に張られた多重の結界を全壊させ、大気を震わせた。
「誰だ我の昼寝を邪魔立てする不遜の者は」
「我を知らぬ阿呆か?」
「見下ろす獣か…………」
突如として二人の前に現れたフリートは眠い目をこすりながら言う。
手を空へ掲げるとどこからか二振り、身の丈ほどの長さがある大剣が飛来する。
双剣、バルムンク――――竜を狩らねば大袈裟な見てくれの武器だ。
「何用で訪れた」
「亡き同胞への弔いよ――――」
「驚いた、獣畜生にも弔いの文化があるのか」
「我ぐらいであろう」
言いながら行われたのは、身を回し尾を振るうという小動物であればただかわいらしい危険など皆無の行為。
だが城と同等の大きさがあるエルドラが行うとなれば、それは途端にどんな自然災害にだって勝るとも劣らない脅威を持つ。
「穿て、バルムンク」
上空へと躱していたフリートがバルムンク同士の鋒を合わせ、その先から魔力を放つ。
真っ直ぐエルドラの首へと突き進み、当たる寸前でぐにゃんと方向を変えて黒い穴へと吸い込まれて消えた。
「破壊された世界の収束か」
「原理を知ったとて何が出来る?」
穴はフリートを覆う様、同時に五十個展開。
その全てがフリートを吸い込んでしまおうとする――――が、その穴に重なる様三本の柱が現れた。
吸い取る効力を失った穴が消失したと同時にその柱はエルドラへと降り注ぎ、鱗に当たって砕け散る。
「その程度で終わるか?!」
「終わってやると思うか?」
砕けた柱の中より大量の魔物が飛び出す。
全てがグリフォンやそれに連なる戦闘力を誇る魔物だ。
それらを一瞥すると、再びブレスを放ってそれらを焼き払い。
唯一残った竜種に噛みつくとそのままブレスを放って口内で炸裂させ討伐。
口の端から黒い煙が漏れ出す――――口内が焼けているのだ。
暫くブレスは放てまいと判断し、フリートはエルドラ目掛け真っ逆さまに墜落を開始。
バルムンク同士で打ち合い音を鳴らすと、次第にバルムンクの纏う魔力が増え。
エルドラを傷つけるのに充分な攻撃力に達したところで、翼の付け根目掛け二つの刃を走らせる。
「意外だな、竜が鱗以外で己を護るか」
「この我が傲っているとでも思うたか」
即座にエルドラは羽ばたき飛び上り背に乗るフリートを振り落とし。
上空より穴を放つ。
それら全てを柱で無効にしながら飛び上るフリート。
大気圏の直ぐ傍にて振るわれたバルムンクと、それを手で受け止めたエルドラ。
衝突によって広がった魔力波は、魔界全域へと及んだ。
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