星々の観者
「兄様はこの世界に多数の窓を持つ。これまでもお前の事を探していただろうが、これからは更に苛烈になるだろうな」
「窓…………ああ、たまに着替え中やお風呂なんかで感じた視線はそれね」
「それは私ですわっ!」
「違うのね」
「シフィーよ、お前の旅はいつもこうなのか…………?」
「? ええ、そうだけれど…………変?」
「いや…………お前が楽しんでいるならば良い」
騒動の後、ジェファーを海月亭に連れ込んで話を再開。
しかし拠点に居るせいかどうにも締まらない空気か流れていた。
「で、結局何のために私を探していたんだったかしら? 襲撃とか魔王とかが印象的過ぎて、ちょっとその前の話とか覚えてないわよ」
「ああ、そうだったな――――今回身を持って知ったとは思うが、フリート兄様がお前の命を狙っている。即刻私の用意した城に戻り、身を隠すんだ」
「用意したって…………もしかして、私が目を覚ました場所の事? あそこは貴方が用意したの?」
「そうだ。俺の残りの兄弟達で協力してあの城を用意し、当時産まれたばかりであったお前を封じたんだ――――あそこならばまだ兄様にバレていない筈だ、すぐに戻れ」
「嫌よ。というか第一、どうして私は命を狙われているの? 王位が揺らいでいるとか、それだけじゃよく分からないわ」
「詳しい説明は探知される恐れがあるが…………仕方ないか」
ため息を吐くと一度周囲を見渡し、結界の強度を確認するようにしてからもう一度シフィーへと目を向ける。
「勇者の死――――それが全ての始まりだった」
「待て、勇者じゃと…………? 出現すら確認されておらん筈じゃが…………」
「言っただろう? 始まりだ。既に勇者は死んでいた。兄様は勇者を胎児の時点で呪殺した――――つまり、死産だったのだよ」
「それは竜の条約に違反しておる筈じゃ。勇者と魔王は対等であり、魔王が用意する土地で勇者とその仲間もでのフェアな決闘を果たさねばならぬ…………のそれを無碍にしての呪殺など、竜が黙ってはおるまい?」
「ああ、黙ってはいなかったとも――――七星竜、世を汚す獣のファフニール。あれが現れ、そして兄様に狩られた」
「狩ったとな…………?! 相手は雑種のドラゴンではなく始祖の竜じゃぞ」
「対策していたのだ。兄様が事前に用意した武器は竜殺しの魔剣、バルムンク――――それに兄様には魔法もある」
にわかに信じ難いと疑るジュエリー。
シフィーとて、特別な武器があった程度でエルドラや蜃と同格の七星竜が狩られるとは信じ難い。
「ここの結界は丈夫そうだな…………シフィー、お前は兄様の魔法のようなものを何種類見た?」
「重さの付与、空間の延長、稲妻の槍、それと肉片からの再生で四つね」
「再生まで見せたか。だがそれは片鱗に過ぎない――――兄様の使う魔法は星の知覚。ただそれだけの、攻撃性など無い魔法な筈だった」
「…………つまり? あの手数はどうしてできているのよ?」
「お前程ではないにしろ、俺達兄弟は皆無尽蔵に近い魔力を保有する。それを利用して兄様は星々を魔法陣とした――――自身が本来持っている適性以外の魔法を扱うために、その言葉通り天文学的な数の星々を回路と利用したんだ」
「まあ、可能じゃろうな。元々魔法陣とは魔物の体に刻まれた、ブレスなんかの生体機能を活動させる器官じゃ。それを人工的に再現しようなんてのは何百年も前から実用化されている技術な上、星の数、そして規模でやるならまあとんでもないのが生まれるわなあ」
「そういう事だ」
ジュエリーは考える――――過去、神話の時代にだってそんな事をする怪物は一人を除いていなかった。
そして確信を持つ。
今目の前にいるジェファーの髪色と、それに加えたシフィーの魔力量を考慮すると、間違いなくこの兄弟達の親は自分が考えている人物であると。
最初は遠縁の親戚などだと思っていた。
直径の子孫など、残ってはいないと思っていたのだ。
「…………のうジェファーよ、メリーは息災か」
「眠りに落ち、兄様の手に落ちている――――まさか、夜会を開催するのか?」
「必要じゃろう――――シフィーよ、テメェさんに頼みたい事があるでな、ちと一人で来い」
呼び出され部屋を出たシフィーは、いくつか依頼をされる。
三十分も経てば部屋に戻り、少し面倒くさそうにため息を吐いた。
「ミリス、自分とスピカの分の荷物を纏めてちょうだい――――帰省をするわ」
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