王の全容
「…………ねえ、あれも私の兄なの?」
「そうだ。そして俺の宿敵でもある――――この魔物共は俺が片付けるからお前は後ろに隠れていろ」
「俺達の、じゃあないのね。巻き込むんだかのけ者にするんだか中途半端で腹が立つわ――――だからあなたの方こそ下がってなさいよ」
言うとシフィーは魔力の探知を広げて魔力弾を五発用意。
水上の魔物に対してそれぞれ一発ずつと、上空の穴に対して放つ。
魔物はそれだけで全滅し、水面は破裂。
穴に関しては即座に張られた結界を砕くに終わった。
「威勢が良いな、妹よ――――だがこの程度か。興ざめだな」
「小技を止めた程度で調子に乗らないで欲しいわね――――魔力形式・7th」
翼を広げ穴へ突撃。
残る結界を霧切の一撃で破壊して侵入すると、そこはソロモンと戦った謁見の間に似た雰囲気の部屋だ。
「無許可で侵入とは、不遜だな」
言ったのは先程と同じ人物――――玉座に腰掛ける表情筋の死んだ、前髪だけ長い赤髪の男から発せられた言葉だ。
「私も攻撃を許可した憶えは無いわよ」
「王に許可は不要だ」
「王? この世界に国は一つしか無いらしいけれど、肥溜めの王かなにか? それとも私と同じパターンかしら?」
「なに、お前は知っているであろう? 世界とは唯一無二ではないのだよ――――我は魔界の王、フリート。名乗ったところでそろそろ、跪け」
言い終えると同時、シフィーの全身に重みが付与される。
命じられた通りに跪く一歩手前で魔力を放ってその重みを作る魔力をかき消し、フリート目掛けて飛ぶ。
だが距離が一向に縮まらない――――いくら進もうと二人の間にある空間が伸び、むしろ距離は離れているようにすら感じられる。
「蜃、手伝いなさい」
呟くと、突如として室内が霧で満たされた。
それは神さえ惑わす幻惑の園。
魔力程度では一瞬で互いの結合を解いて魔術を崩壊させてしまう。
真っ直ぐ霧から飛び出せばそこはフリートの眼前。
振り下ろされた稲妻の槍を霧切で流すと、身を回転させて斬撃を仕掛けるが、地面が盛り上がって壁と変貌したことで防がれる。
「お前の刃は我に届かんよ――――して、これからどうするつもりだ?」
「知ってる? 体内は魔力感知の範囲外なのよ」
言ってから大口を開く。
そこにあったのは通常の魔力弾より小さい、名を呼ぶ詠唱行為の代わりに時間をかけて生成された魔力形式・ 10thであった。
「そうか、貴様は滅者か」
撃ち放たれた――――軌道線上のフリート、壁、地面とそれらを抜けた先の星々は破片を残すことすら許されずに消失。
これこそがミレニアム襲撃の際ですら詠唱によって慎重に制限したうえで放たれた、暴虐の王の全容である。
ふんすと鼻を鳴らしてから元来た帰ろうとすると、背後から肉をかき分ける様な音が。
振り返った瞬間すでに迫っていた手を弾くと、バックステップで距離を取った。
そこには服すら無傷で何一つ先程までと変わらない様子のフリートが立っていた。
「この際だ、何故お前がソレを持っているのかは聞くまい。だが晒した以上は帰さぬぞ」
「まず自分が今日ベッドに帰れるのかを気にしなさい。脆いんだから――――――――」
挑発的に第二ラウンドを開始しようとした。
だがそんな矢先、シフィーは体を引っ張られる様な憶えある感覚に襲われる。
「もう迎えが来てしまったわ。決着はまた今度にしましょう」
異界にまで侵食する空間操作の使い手など、あの場にただ一人しかいない。
それが分かってかフリートも追わず、不服そうな様子で元々玉座の存在した位置に腰掛ける。
半ば強制的に元の世界へと帰らされたシフィーはというと腹の立つ相手一人目に損害を与えられたので割かし満足。
今日も眠れたならばいい夢が見られそうだと思いながら、地上に戻す勢いで水面に落とされた。
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